45.お茶会の目的
「本日はようこそ、我がブランシュ公爵家へお越しいただきました」
挨拶をすると、皆一様に頭を垂れた。
今日はユリアーナの増えた友人たちを招いてのお茶会の日。
先日の王宮主催のお茶会で仲良くなった子どもたちとその保護者に分かれ、交流を深める事を目的としている。
「こちらこそお招きいただき、ありがとうございます。娘も今日という日が来るのを楽しみにしておりましたの」
「私の息子もですわ。お恥ずかしながら中々交友関係を広げられなかったので、いい機会をいただけたと感謝しておりますわ」
保護者の方々は令嬢令息にお願いされて今日という日を迎えたのだと口にする。
今日は顔合わせも兼ねてなので、保護者に同伴していただいた。
慣れてきたら保護者ではなく侍女や護衛と一緒に来ることになる。
「交友を深め、こうして交流の場に赴く事は子どもたちが将来社交する上でよい経験になると思いますわ。ぜひ気軽にお話しできたらと思っております」
笑顔で返せば、皆様少し緊張したような表情で顔も強ばり気味だった。
まあ、私が王宮主催のお茶会で取り乱してしまった事も多少影響があるだろうな。
「ドナート男爵夫人も、来ていただきありがとうございます」
「……は、っはい! 遅くなりまして申し訳ございません! お招きいただき、ありがとうございます!」
やはり先日の件が尾を引いているせいか、他の誰よりも緊張しているのが見て取れる。
正直、ドナート男爵令息を招待するのはどうかとやんわりとユリアーナに言ってみたが、何故かどうしてもと譲らなかった。
クラーラと出会っていない今、彼は信望者ではないだろうが、ラルス殿下も内心警戒していたし、と不安は拭えない。
だがそれは私たちだけの事情だ。
他の方々は時を戻ったなんて事を知るはずもないだろう。
だから、ドナート男爵の方々を理由もなく冷遇するのは間違っている。
「先日の私の無礼を改めてお詫びいたしますわ」
「と、とんでもございません! 王子殿下もおっしゃっていたように、は、蜂が! 蜂を払ってくださっただけですので……! こちらこそ御礼も申し上げずに無礼をお許しください」
恐縮しきりの男爵夫人に何を言っても恐縮極まってしまうわね……
「マルレーネ様ったら勇敢でしたのね。ドナート男爵夫人、令息は無事でしたの?」
「は、はい。おかげさまで、怪我一つございませんでした」
「それは良かったわ」
助け舟を出してくれたのは、アルビーナ様。
ユリアーナのお願い通り招待し、快く受けてくださったのだ。
「マルレーネ様の勇敢なお話といえば……」
それからアルビーナ様はご自身の離婚にまつわる話に話題をすり替えてくれた。
男爵夫人と私の関係はまだ緊張感が漂うから、話題の転換はありがたい。
「公爵夫人はとても勇気がおありなのですね!」
「二人も救うなんて、素晴らしいですわ」
「……えっ? あ、え、あ、いやぁ……」
いつの間にか皆様からキラキラとした尊敬の眼差しを送られていた。
「わ、私の事より、ほら、皆様ごらんください。子どもたちも各々話に花を咲かせているようですわよ」
いたたまれなくなって、私は子どもたちへ目線を向けた。
子どもたちはサロンの中の少し離れた場所にテーブルを設置し、好きな場所に座って少し緊張気味にしている。
中心となっているのはもちろん、ホストとなるユリアーナだ。
ユリアーナが話し掛け、さり気なく他の令嬢令息たちの仲を取り持っている。
ユリアーナとだけ仲良くなるのではなく、他にも仲良くなれるように輪に入れているのだ。
あの能力は誰から受け継いだのかしら?
「ブランシュ公爵令嬢様は社交が上手ですわね」
「本当に。……ラルス殿下のお妃候補にはなりませんの? 幼い頃からこれだけ社交上手ですと、王家から打診があるのでは?」
「ええ。ユリアーナは公爵家唯一の子というのもあって、婚約に関しては慎重に進めたいと思っておりますの」
とはいえ、イルゼ様、王太子殿下から打診があった。国王陛下の耳に入るのも時間の問題かもしれない。
ラルス殿下は王太子になる事を渋っているが、国王陛下が強引に進めて王命が下されれば臣下は従わざるをえない。
「ああ……公爵家は結界の守人でございましたわね……」
「ええ。直系を繋いでいかなければなりませんの」
六公爵家による結界は、他の貴族家にはあまり馴染みが無い。
何名かの夫人は、ハッとした表情になった。
もしもここにいる令息の誰かがユリアーナの婿になる場合、公爵家の血を残す義務が加わる。
先のフォルクハルトのような事態になってはいけないと、令息の動向を注視しなければならない。
惚れた腫れただけでは、国を守れないのが公爵家というもの。
安易に令息を婿に……と考えていた夫人は、少し気まずそうにしている。
「けれど、どちらにせよ、友人が増えるのはお子様にとってもいい影響があると思いますわ。ぜひ仲良くしてくださいませ」
「勿論ですわ。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
婚約は無理でも、友人関係はぜひとも築いてもらいたい。
前回のユリアーナには友人と呼べる方はあまりいなかった。
あのような事態になってしまった時、勇敢な友人がいれば最悪の事態は回避できるかもしれない。
冤罪だと言ってくれる友人ができたら、と思っている。
その後、子どもたちは庭に散策に行く事にしたようで、私たちも移動する。
ユリアーナから目配せをもらったので、私はアルビーナ様をさり気なく誘導した。
「お母さま」
「ユリアーナ。どう? 皆様と仲良くできている?」
「ええ! ……アルビーナ様、こんにちは」
ユリアーナがアルビーナ様にご挨拶をし、ドレスを摘んで一礼した。
「ユリアーナ様、こんにちは。……っ……」
ユリアーナの後ろにデニス様の姿を見つけ、アルビーナ様は言葉を詰まらせた。
「母上……?」
「デニ……ス……」
アルビーナ様は口をわななかせてハッとして口元を押さえ、目線を私に向けた。
「今日はユリアーナと、私も友人を呼んでのお茶会なの。ここには親子しかいないわ。だから、離れ離れになった母子がいても不思議ではないわ」
アルビーナ様に聞こえるように小さく囁く。
「マル……レーネ様……」
「望むなら、母子でお話ししても構わないのよ」
そっと背中を押すと、アルビーナ様はデニス様にゆっくりと近づいていく。
デニス様もユリアーナによって前に出されたが、俯いてズボンをギュッと握り締めている。
ボルク伯爵から言われているのだろう。
……余計なお世話をしたかもしれない。
「デニス……」
アルビーナ様が両手を伸ばして一歩近付く。
その足音を聞いて、デニス様は顔を上げた。
顔をぐしゃぐしゃにして、涙を堪えていたが、とうとうぼろっとこぼれ落ちた。
「母上……。……っ、ははぅぇーー!」
「デニス……! デニス……ごめんなさい……」
泣きじゃくるデニス様をしっかりと抱き締める。
ボルク伯爵から面会を制限されているため、二人は会いたいのを堪えているのだろう。
エッカルト様とティアナのせいで、母子が別れなければならなくなったが、生まれた時からずっと一緒にいたのだ。
デニス様は男の子だから寂しさを感じても中々本音を言えないのではないだろうか。
ユリアーナが私を見て微笑む。
その嬉しそうな顔を見て、私もつられて笑みを浮かべた。




