番外編【Dandy~おじさまの集い~】2
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「あの~なぜいつも私の家に集まるのでしょうか?」
か細い声で大公と前サン侯爵との会話に割って入ったのはカソンヌ子爵。
我らの素晴らしきご主人様です!!
前宰相が数年前に引退し、宰相補佐であったご主人様は新しい宰相に選ばれたのです。
本当に素晴らしいです!
主も大公に声を掛け、大公が手に持つ箱の中からスッと葉巻を1本抜き取る。
「なぜって、君が宰相だからでしょう。それ以外に理由はないだろう?」
そう言って近寄ってきたのは、マルク辺境伯と共に来た美形の男。
「アクセル…」
子爵は、本当に、何故お前がここにいるのか?といった意思を強く込めて彼に目を向け、聞き取れないくらい小さな声で名を呼んだ。
そうでした!主の呟きで彼の名を思い出しました。
私には聞こえていますよ。
主のお声をどんなに消えかかりそうなお声でも、私は絶対に聞き逃しませんから。
そう、彼は王宮騎士団長ロルジュ侯爵の三男、アクセル・フォン・ロルジュ。
ユーグ殿下の近衛騎士、アクセル卿です。
はあ、思い出せて、スッキリ。
彼はすでに葉巻を持っているようだ。
上着のポケットから顔を覗かせている。
「ん?コヤツも連れてきたのか、エド?」
前侯爵が愉快そうにマルク辺境伯へと問う。
このエドこと裏部隊暗武隊長は、先程説明した通り、最強の剣士だ。
そして、一緒にいらしたアクセル卿が密かに熱を上げているらしいクロエ・ナヴァル男爵令嬢の祖父であったはずです。
これも主からの愚痴…いえ、我が主との有意義な語らいの時間より得た情報です。
マルク辺境伯は葉巻に火をつけ、すでに吹かし始めている。
美味しそうに吸って吐いた後、チェスの置かれた机の自分と対峙する側の椅子へ座るよう、前サン侯爵を手振りで誘導する。
前サン侯爵が座るや否や、チェスを始めた。
その後、
「王家御用達、極上のプレミアムシガーは最高だなぁ。」
と、深々と味わいながら、前侯爵と楽しそうに会話を始めた。
「こいつを連れてきた理由だったな。ジョーがサッサと世代交代してしまったし、この会に顔を出すのは今日が最後だと手紙を貰ったからだ。儂もそろそろ引退を考えてのことだ。それに、コヤツが孫と結婚させろと騒ぎ立て、煩くてしかたないのだ。そろそろ夢に出てきそうな勢いだから、ここの顔合わせにでも連れてきてやれば、意識がそちらに少しは逸れるかと期待して連れてきてのだ。」
マルク辺境伯は一気に話し終えると、会話の最中に前侯爵が駒を進めたばかりなのに、自身のチェスの駒をなんの迷いもなく手にして動かす。
考えて動かしているのか、些か疑問が残る。
「ハッハッハー、そうか、ついにお前も引退か。さて、一緒に何して遊ぼうかのぅ。」
オールド世代が葉巻を吸いながら落ち着いた笑いを交わす。
その横で、ミドル世代がその会話に不安を抱く。
大公が葉巻1本を箱から取り出す。
サン侯爵へと大公が手渡しながらポツリと零す。
「世代交代か…」
「今回の事が思いのほか上手くいったから、そう言っているのさ。だが、父はまだまだ口出す気満々だぞ。我慢が出来なくて早々に復帰すると予想はつくよ。」
そう話しながらサン侯爵のつついたビリヤードの球が、綺麗に狙い通りの玉へとぶつかり、穴へと吸い込まれて行く。
「まあ、そうだけどさ。それより、あっちだよ。あいつでは暗部隊の長には少々若すぎやしないか?27,8ってところだろう?それに、あの性格だと従う者がいるかどうか…いないだろう?」
王弟の不満はけして小さな声ではない。
聞こえるように発言する。
そう、むしろ聞かせているのだろうなとシモンには分かっている。
だって彼は、少しばかり意地悪な性格の持ち主だから。
それに対して、アクセルがニコニコしながらこちらを見て言った。
「大公、話がこちらまで、よーく聞こえておりますよ。それ、ワザとですよね!?言っておきますが、王宮内の私のあれは、演技ですから。そう振舞うように、未来の俺の奥さんのお祖父さまであるエドガー閣下に言われたので、そう振舞っているってだけですから。」
アクセルがそう言うので、真偽を確かめようと、マルク辺境伯へと視線を移すと、辺境伯は察して答えてくれた。
「ああ、儂が命じた。コヤツがクロエと婚約したいと申し出た時に、儂の言う通りにすれば結婚させてやるとな。儂の息子が辺境伯領は継ぐが、あれは優しすぎてこちらの長にはむいておらんのだ。それに剣技はてんでなっておらん。だが、コヤツは剣の腕が立つ。我が領の私兵の副総長に添える予定だ。だが、総長である領主よりも威厳と実力があってはならんのだ。とまあ、そういう理由で演技をさせている。」
マルク辺境伯がそう言い終えると、アクセルが天下を取ったというくらいの得意げな顔となっている。
その顔に王弟は少々イラっとしたようだ。
「まあまあ、大公様、落ち着いて。そうですね、家族間での揉め事を嫌う君の剣の腕が、ロルジュ侯爵家の中で誰よりも優れているという事実を、ここにいる者は皆知っている…えっと、君の性格の真意の部分は一先ず置いといて、君に実力があるということは確かなことであり、そこは皆、認めているんだよ。さあ、これを。」
カソンヌ子爵がワインを両手に持ち、運んできて話に加わり場を治める。
アクセルに1つ渡す。
家令のヘクターもトレイにワインとグラスをいくつも乗せて、皆に行き渡るよう、急いで配り歩く。
それぞれワインとグラスを受け取り、各々でワインをグラスに注いだ。
「それじゃあ、ワインも来たことだし、始めることにしようか。皆、シガーの用意は出来ているかな?よし、では、始めよう。」
大公が立ち上がり、部屋にいる一人一人に一瞬だが見回しサッと目を向ける。
確認が済むと、力の籠もった口調で喋りだす。
「本日をもって、王家内部改革の任を終えることをここに宣言する。皆の尽力に感謝する。finir」
作戦の終わりを告げる言葉を口にすると同時に、火の着いた葉巻を王弟が頭上へ持ち上げると、皆も天井へ向け掲げて、一斉に言葉を発する。
「「「「finir」」」」
天井に煙が立ち登る。
マルク辺境伯が口にシガーを戻し、吸い込むと、煙を気持ちよさそうに天井に向かって吐きだした。
次回、子爵がくだを巻く。
エドガー・ド・マルク辺境伯の愛称はエド
前サン侯爵の愛称はジョー
お祖父ちゃん同士の愛称での呼び合いは可愛い。




