わすれもの
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「妃殿下、日傘は私がお持ちします。」
侍女のイリスが日傘の用意をしていると、
「大丈夫だ、私が持つから。」
と、レオンが言い、掌を向けてくる。
傘を寄こせと主張しているようだ。
侍女のイリスがしぶしぶ日傘を差し出すと、レオンは傘を速やかに奪い、ミシェルの頭上へと広げる。
そして、腕をミシェルの前へと差し出し、ミシェルに腕組みを強要する。
「近づいていた方が傘は差しやすいからね!ねっ!」
「え、あ、そうですね。」
差し出されたレオンの右腕に、ミシェルは腕を回す。
レオンは大変ご満悦だ。
「道がぬかるんでいる場所もございますので、お気をつけて。」
レオンの護衛が声を掛ける。
2人は分かったと頷いた。
暫し歩くと、ボート乗り場に辿り着いた。
レオンが素早く回り込み、手を差し出しミシェルをエスコートする。
2人は一台の小舟へと乗り込む。
手漕ぎの小舟の中央に設置された言二人掛けの椅子にミシェルが腰かけ、船首の方の板にレオンは腰かけ、向かい合うように座る。
船尾に船頭が立ち、櫂で水面を揺らすと小舟が動き出した。
そして、湖の中ほどまで来るとここで停めよと言う殿下の掛け声に船頭が従い、小舟は停まった。
船頭は空気を読み、船尾に腰かけると横を向き水筒を出して水を飲み、遠くを眺め始める。
レオンは少し休憩だと言ってミシェルの傍まで移動してくる。
そして、ミシェルの膝に頭を乗せて、仰向けで横になった。
ミシェルの差している日傘の影が顔を覆い、眩しくはないようだ。
ミシェルが顔を覗き込んでくる。
目が合い、優しく微笑む2人。
そして、そのまま、レオンがミシェルの顔を引き寄せ、2人は軽いキスをした。
唇が離れると、2人はクスクスと笑う。
見つめ合い、そして、もう一度。
この時間がずっと続けばいいのに。
そうミシェルが考えていると、
「この幸せな2人の時間が誰にも邪魔されずにずっと続けばいいのに。」
と、ミシェルの唇を離したレオンが呟く。
「私も、同じこと考えていたわ。」
と言い、ミシェルはニコリと微笑んだ。
「はあ、まいったな、またキスしたくなる。シェリーは本当に可愛い過ぎるよ。」
とレオンはいい、ムクリと体を起こすとミシェルの肩に手を添え、またキスをする。
今度は濃厚だ。
日傘が目隠しとなっていて良かった。
ゆっくりと唇を離し、見つめ合う。
暫く見つめ合った後、レオンは身を起こし、ミシェルへと向き合った。
片手を取り、功を撫でる。
「シェリー、私は一つだけあなたに贈れていない、わすれものがある。ずっと気にかかっていた。あんな形で済ませてしまった過去の自分を恨んですらいる。蹴りを付けたい。ここで、そのやり直させてもらえないだろうか?」
レオンが真剣な眼差しで、ミシェルに話すのだが、ミシェルはレオンの意図しているものが何なのか見当がつかない。
ただ、船の先端に布で隠すように置かれ、彼の背に隠されている花束には否が応でも気づいてしまっている。
首を捻っても分からなそうだったので、とりあえず、受け入れることにした。
「はい、いいですよ。」
その返事に、レオンは嬉しそうに笑い、姿勢を整える。
ミシェルの膝の上に置いていた左手を取り、顔を手に近づけて、手の甲へと口づけをする。
レオンが上を向き、ミシェルを見上げ、視線を合わせる。
力強く、そして優しい目である。
「愛おしいシェリー。私はあなたを心から愛している。片時も離れたくないほどに。あなたしか、私の幸せを満たすことは出来ない。ミシェル・ド・ゴール、どうか、私の命が尽きるまで、我の妻でいてほしい。永遠に、私の傍に。」
プロポーズであった。
明日は最終話です。




