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私の我儘

8月になりました。

今週もどうぞよろしくお願いします!

 

 その頃のロベールは、ガブリエルに変装をさせようと、屋敷に変装服を取りに寄っていた。

 急いで自身の服から変装服を選び用意すると、再び馬に乗り、護衛と共にレイバックへ向けて走り出していた。


 シャトンを先に行かせているので、すれ違う事はないだろうと考えながら、ひたすら馬に鞭を撃つ。

 気が付くと王都からうな距離を進んでおり、建物も無く草が茂る平坦な土地までやって来ていた。


 レイバックへ向かう車道沿いの大きな木が生えている地点、その木の下でロベールは信じられない物を目にしたのである。


 それに近づくにつれて、ロベールは馬の速度を緩める。

 その横に来るとロベールは馬の歩みを停め、馬車に向かい、声を掛けた。


「ここで、何をしているのですか?公女様。」


 木の下に停まっていたのはモンフォート公爵家の家紋の施された馬車。


 そして、自分を待ち伏せするのは彼女しかいないそう考えたので、声を掛けたのであった。


 馬車の扉がゆっくりと開き、ジャンヌが顔を出す。

 ロベールは急いで馬を降り、手綱を護衛に渡すと、ジャンヌの下車を手伝う。


 エスコートするロベールの険しい顔を見て、ジャンヌは心が一気に沈み、大きくため息を吐いた。


「はぁ、ロベール様。少しだけ私にあなたの時間をください。お話がしたいのです。」


 真剣な眼差しの美しいジャンヌを見て、これまでの彼女から逃げ回っていた自分の行動に迷いを覚える。


 失礼であったことは百も承知であるが、受け入れられない自分は男として不甲斐ないがそうせざる終えなかったので致し方が無いものと行動してきた。

 しかし、それをされる彼女の気持ちを全く考えてこなかったことに、彼女の表情を目にして、ようやく気づいたのだった。


ロベールは、今ここできちんと向き合い、決着をつけるべきなのだと考え、彼女の言葉を受け入れる。


 その道沿いの隅に生えていた木の大きな影。

 その大きな影から出て、2人は平原へとゆっくりと歩いていく。

 公女が歩き、その少し斜め後ろをロベールがついて行く形で進む。


 傾斜を登りきると、そこには、見渡す限りの花畑が広がっていた。


「ロベール様、どうですか?素敵でしょう?ここは、昔、父と来たことがあるの。」

 ジャンヌが他愛も無い会話をする。


「ええ、よいところですね。」

 ロベールは何を言われるのだろうと心臓をバクバク鳴らし、表面上は冷静を装いそう答えた。


 お互いが話さず、沈黙が流れる。


 静寂を破ったのはジャンヌであった。


「私のことをロベールが嫌っていることは分かっているわ。それでも、あなたが大切な人を王都へ呼び寄せたと聞いて、居ても経っても居られなくて。こうしてここまで来てしまったわ。これで最後にするから、どうか私から逃げずに、あなたの答えを聞かせてほしいの。私は、賢くて、妹想いで、気は弱いけど、いざという時は身一つで強敵にも立ち向かう。そんなあなたの事が好きよ…大好き。私との結婚話を真剣に考えて欲しい。」


 目を潤ませ、真剣な表情のジャンヌにロベールは思わず、ドキッとしてしまう。

 これは、女性の積極的なアピールに不慣れな自分の大きな勘違いだ。

 分かってはいるのだが、このような感情操作は大変苦手だと、ロベールは冷汗を背中に感じながら、心を少し乱す。


 でも、ここは、ハッキリと断らないといけない。

 これからのガブリエルとの未来の為にも。


 そして、真剣に告白してくれた彼女のためにも。


 ロベールはジャンヌに真剣に向き合った。


「大公令嬢様。私は、あなたとの結婚は考えられません。私にはすでに将来を共に過ごしたい者が居ります。そして、その者を心より好いています。その者が私の元へ漸く来てくれるのです。それなので、そのお話はお受けできません。」

 声を震わせ、いっきに言い切った。

 ヘタレの兄にしては、上出来である。


「ハハッ、あなたをここまで追い込むつもりなどなかった。最初は私を知って欲しい、意識してほしい、ただそれだけだったのに…初恋ゆえの過ちね。ついつい、力が入ってしまったわ。これまで嫌な思いをさせてしまって、ごめんなさい。これからは大丈夫、何も心配いらないわ。私はもうすぐキャメル国へ行くから…私と偶然居合わせて、あなた達が気を揉むという事はないわ。」


 ジャンヌは、目線を遠くの花畑へと向けたまま、淡々と話をする。


「公女様がキャメル国へ向かう?」


 ロベールは彼女の性格からして泣きわめき縋り付いてくるものと勝手に想像していた。

 それのに、そんな様子は微塵もなく、それどころか、意外な回答が返ってくる。

 それに対して驚き、無意識に彼女の言葉を繰り返してしまっていた。


「フフッ、実を言うと、サン侯爵家の評判が王都で上がるほど、私とあなたの結婚は難しいものとなっていったの。サン侯爵家に力があることが広まる事は良しとされず、王家の耳としては派手な悪目立ちは避けなければならなかったから。宮廷舞踏会での新しいサン侯爵家の貴族への有能アピールは大いに成功したから、それ以上は望まないというのが侯爵家の意向だった。我が家も同様で、今以上の求心力は必要としていないから。これ以上は王家への反逆を疑われることになるからね。父はサン侯爵が大好きだから、互いに悪い噂を立てられて彼に会えなくなるのは絶対に嫌なのよ。だから…私の結婚は他の人とするって事は、その時点で決まってしまっていたの。私の婚約者はキャメル国のレーニュ公爵よ。あなたになんと返事をされようとも、この初恋は叶わぬ恋だった。私は、ちゃんとあなたに失恋してから、旅立ちたかったの。私の我儘…」

 悲しげな表情を浮かべ、ロベールへ静かに語る。


「ジャンヌ様…」

 ロベールは何か言葉を掛けなければと思うのだが、謝罪するべきなのか、祝福するべきなのか、慰めるべきなのか、全て違うと思うので、それより言葉が出てこない。



「アハッ、ようやく、出会った頃のようにジャンヌと呼んでくれたわね。やはり、あなたにそう呼ばれた方が私は嬉しいわ。」


 そう言い、ジャンヌが飛び切りの笑顔を見せる。

 目尻に涙を溜めて…。



ロベールよ、逃げた魚はってやつだぞ。

今週で完結します。

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