王様の秘密
今週もお付き合いくださり誠にありがとうございました
ミシェルが振り返った先には、床に転がっている2人の男。
1人はスッ転んだようすで腹を下にして何かを手に握り絞めて倒れている。
もう一人はその転んだ男に引っ張られたのだろう、後ろ手に尻もちをついて座り込んでいる。
そして、その男には違和感がある…その男のアレが無くなっているのに、気が付く。
その男の頭上にあるはずのアレが、定位置からスッポリ無くなっていたのだ。
倒れていたのはレオン。
尻もちをついていたのは国王陛下だ。
そして、レオンの手元には…王冠に絡まった長い髪の毛が握り絞められていた。
兄が悲鳴を上げるはずである。
レオンの手に握られていたのは国王の秘密であった。
***
ルッツ国の国王はカツラであった。
それも結構なU字の前頭ハゲ。
夜な夜な王妃様が寝ぼけて国王の頭を激しく撫でまわすからだという噂を耳にしたことがある。
国王の本来のお姿は、てっぺんがゆで卵のように見事に輝いており、横と後ろにはフワフワの細やかな薄毛が残る若鳥のような毛並みの可愛らしい容姿となっている。
「陛下!?」
尻もちをつく陛下の前に立つ、王妃が声を震わせ、陛下を呼ぶ。
そして、キョロキョロと見回し、王妃はアレを必死で探す。
陛下の後ろに倒れているレオンの手の中にアレは握られていた。
「う、イテテテテ。」
転げる前にすがるように何かを掴んだはずだったのに、転げてしまっては無意味であったなと、そう考えながら、レオンはゆっくり起き上がる。
その際、自分が何かを強く握っていることに気が付いた。
「ん?」
手の中のものを確認すると、それは、王冠付の髪の毛。
いや、髪の毛付の王冠。
「毛ぇ!?!?ウワッ!!」
手の中の物に驚き、パニックとなって思わず放り投げた。
サーカス小屋で見た空中ブランコのように綺麗な弧を描き、それは優雅にそこに居た者達の頭上を飛んでいった。
いつもならばこの王宮大広間の天井は、煌めく豪勢なシャンデリアや名のある画家の作品である天井絵が時代の壮大な流れを一気に見せつけてくれて感動を与えてくれる。
しかし今は、時が止まりそうなくらいスローモーションで、皆の目にはあれだけが映しだされている。
誰も天井の凄さには目もくれていない。
カツラが飛んでいった先に運悪くいたのは、第二王子とその婚約者であった。
ユーグ殿下の手元には王冠が落ちてきて、そして、イル公爵令嬢の頭上にはロングな人毛がバサッと音を立てて乗っかった。
唖然とするユーグとワナワナと震え混乱に陥るイル公爵令嬢。
彼女は気絶寸前だ。
「あ、あれって、父上の!?マズい…ねえ、シェリー、アレを皆は知っているのか?」
レオンが怯えた表情でミシェルに問い、辺りの貴族たちの表情を見回した。
「えっと、おそらく貴族でこのことを知る者はごく僅かではないかと思われます。私が知る限りでは…ごくごく一部かと。」
「そ、そうだよな~ハハッ、サン家は優秀だからもちろん知っているよなぁ。ハハッ、凄いなぁ……やばいよな…ヘへ、へへへ、へへへへへへ。」
レオンはミシェルの答えに現実逃避な返答をし、カラ元気な笑いを繰りだす。
「レオ、しっかりして、どうしますか?ここから逃げますか?私、逃げる為に馬車の用意はしてあるので、いつでも逃げられますよ。逃げますか?どうしますか?」
真剣にミシェルが問う。
「え?ミシェル、ここから逃げるつもりだったの?なんで?」
レオンの顔が青ざめる。
あれ?そっちが気になっちゃった感じ?今それどころじゃないってのに。
「あ、いや、だから、私はレオの婚約者ではないと考えていたじゃないですか。何かあった時の為に、宮廷舞踏会から即座に逃げ出す為の保険で、侍女が用意をしてくれておりました。ですが、婚約者の件は私の大きな勘違いであったので、使っていませんから。」
ミシェルが必死で逃げようとしていたことについて弁明していると。
「残念だが、馬車は用意されていないよ。」
ミシェルの横に来たロベールが淡々と言う。
ロベールはミシェルの侍女イリスと話をして、ミシェルが勘違いをしていると分かり、自分が何とかすると説得をしたそうだ。
今頃イリスは、昨夜ミシェルが泊った王宮の部屋で静かに一人待機しているはずだと言う。
逃亡に使う馬車は用意されていないと否定された。
「ど、どうしましょう?」
ミシェルは手立てがなくなり不安になる。
その間にも時は流れる。
周囲が陛下の頭上の異変に気が付き、ざわめき始めていた。
どう収拾するのか!?
今日から始まるオリンピック並みに大わらわ!
また来週です




