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可愛い婚約者

いつもありがとうございます


 逃げることに夢中で、耳には何も入ってこないミシェルは、とうとうドアの前までやってきた。


 ドアノブに手を添えた時、そのドアノブを上から抑えた人物がいた。


 振り向くとそこには…|ジャック・フォン・ヴァンドム!?《クソ元婚約者》

 誰にも相手にされないのだろう。

 やけ酒を飲んでベロンベロンに酔っている。


「ヒック。おいおい、そんなに急いでどこに行く?俺に会いに来たんだろう?いつもとえらく違うな。そんなに可愛く着飾ってまで俺に会いに来たって事は、俺のプロポーズを受けたかったってことなのだろう?ハッ、そうか~お前も可愛いところがあるじゃないか。」

 ジャックが変な勘違いをしながら興奮気味に話し掛けてくる。


 後ろから覆われるようになっていて、ドアノブとドアを手で押さえられているために、身動きが取れない。

 酔っているので視界が歪むのか顔を近づけて話しをする。

 その度に酒の臭さが押し寄せ、息を止める。

 こんな時に最悪だ…と、悔しい思いをしていると、ジャックの背後から恐ろしい声がする。


「プロポーズとは、何だ?誰だお前、今すぐそこを離れろ。」

 声のした方にジャックと共に目をやると、そこには息を切らしたレオンが恐ろしい表情を浮かべ立っていた。


「おい、聞いているのか?私の婚約者にプロポーズとはどういうことだ!?」

 レオンが強く言い切った。


「えっ、レオン殿下?へ?あ?うえ?殿下の婚約者?」

 ジャックは目を丸くして驚き、ミシェルから凄い勢いで後ずさりし離れた。

 酔いが一気にさめた様だ。

 両手を上げ、何かをアピールしている。


「お前、私の婚約者に言い寄っているのか??えっ、どうなのだ!?」

 レオンが凄む。


「いいえ、滅相もございません。私はこちらのご令嬢とは何も関係はございません。こちらのご令嬢がですね、あっ、そのドアが重たくて開けられそうになかったので、お手伝いをしてあげようとしていただけで、私はただの通りすがりの者です。では、はい、し、失礼いたします。ヒャー。」

 ジャックはそう言うと、そそくさと逃げて行く。


 2人の間に静寂が走る。

「シェリー、なぜだ。なぜ逃げるのか?理由を教えてくれ。嫌だったのか?」

 殿下は今にも泣き出しそうな表情で堪えている。


「ええ、嫌でした…。」

 ミシェルが何とか声を絞り出し返答する。


 ミシェルの言葉に、レオンは大きく衝撃を受けて、肩を落とし、下を向く。



「だって、レオがジャンヌと婚約するって聞いたから。これ以上、私、この場に居たくなくて。私、レオをお慕いしているから2人のお祝いを心からすることが出来ないの…心が醜くて、ごめんなさい。」

 ミシェルは我慢できずに、ついに本音を吐き出した。


「えっ、え?それ何!?何の話?私とジャンヌが??え、なんで!?それは無い。絶対にない。私が愛しているのはシェリーだけ、私の婚約者はシェリーだよ!!」


 そのレオンの言葉に驚き過ぎて、ミシェルの目に溜まった零れ落ちそうであった涙が一気に引っ込む。


「よく見てみてよ。君の為に用意した衣装と、私の衣装を。これで誰を婚約者に紹介しようとしていたのかが一目瞭然でしょう??」

 レオンが必死になって言うので、ミシェルは2人の衣装をじっくりと確認する。


 冷静になってよく見て見ると、レオンの衣装は、ミシェルのドレスと対になっている。

 使われている色は全く同じで、使われている小物もデザインは同じ物やペアの作りになっている物ばかり、この2人は明らかにパートナーであるとラブラブアピールが半はない。

 アピールもここまでくると、しつこいと怒られそうなほどの衣装となっていた。

 なんならちょっと、2人で並ぶと恥ずか死ぬレベルである。


 ミシェルはカーっと顔を赤らめて、顔を手で覆う。

「疑って……ごめんなさい。」

 手の下から恥ずかしそうに声を出した。


「いいよ、ヤキモチやきな私の可愛い婚約者さん。」

 レオンはそう言うと、ミシェルを包みこむように抱きしめた。


 抱きあう2人。


 ミシェルが顔を上げ、レオンを見上げる。

 見つめ合う2人。


 2人の世界。


 ♪~


 お気づきだろうか?そう、今は宮廷舞踏会の王族報告の真っ最中である。

 視線が2人に集中している。


 2人はよいだろうが、会場に居る者達は身動きが取れない。

 さらにこのままでは周囲を気にもしないで何かをし始めてしまうかもしれない、イカン!!と止めに入る者が現れる。


「ちょっとそこのお二人さん、仲直りしたならば、サッサと話を進めてくれない?」

 追いかけてきたジャンヌが場をぶった切り、声を掛けた。


 その声に反応してパッとミシェルはレオンから離れる。

 周囲を見回して、ミシェルはとんでもないことになっていると、委縮する。


 ミシェルが離れてしまったので、レオンは憎々しい目付きでジャンヌを見ていた。

 ジャンヌがそれを見てにたりと笑う。


「レオン殿下、さあ早く続きを。」

 ロベールがジャンヌの後ろから現れ、苛立ちながら急かす。

 しかたがないので、レオンは話を進める。


 レオンはミシェルの横に立ち、肩を片手で抱き、こう宣言した。


「こちらのご令嬢は、サン侯爵家子女のミシェル・ド・サン嬢。私の愛しき婚約者です。」

 レオンに嬉しくてたまらないといった笑顔が咲き乱れた瞬間であった。


 これまで主張もなく地味な王子であったレオン殿下が、大衆の前で婚約者を愛しているという事を惜しげもなく巻き散らすので、見ている者達は気恥ずかしく、ほんわかと幸せな気分になり、自然と祝福の拍手を皆が贈っていた。


「オホン!それでは、王子達の婚約者も紹介で来たようなので、宴を始めたいと思う。皆、大いに楽しんでいってくれ。」

 王様が高らかに宣言した。


 楽器の演奏が始まる。

 ダンスの時間だ。



漸く誤解が解けました

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