悲恋なの??
今週もお付き合いくださりありがとうございました。
夜遅くにミシェルの部屋の扉を叩く、ノック音がした。
扉で続いている侍女の部屋で作業をしていたイリスが音に気が付き、扉を少し開けると、そこにはレオン殿下が居た。
「ミシェル様はすでにお休みになっておられます。」
イリスが怒りを抑えて小声で対応すると、第三王子は意外な言葉を口にした。
「眠っていて構わない。ミシェルに一目会えないだろうか?」
王族のお願いとはいえ、何かあったらマズいので、最初は寝ているので明日にと拒否したのだが、どうしてもというので、イリスが近くに待機し、一目だけであるならと部屋へ入れた。
部屋に入ってきた王子は、ベッドの横に立ち、ミシェルの寝顔を見る。
見る。
見る、見る!見る!?
ミシェルを見まくるーーー!!!
「ああ、シェリー。やっとだ、やっと会えたのに。君ともっと話しをしたいのにどうしてなのか…。」
そう悔しそうに呟く。
イリスはこの時に悟った。
レオン殿下はミシェル様を心から愛している。
だがしかし、王家の事情が第一王子の件で大きく変わり、政略結婚で別の人と結婚せねばならなくなったのだと…こんなに想い合っているのに、結ばれることのない悲しき恋。
悲恋なのだわ…なんて可哀そうな2人なの!?
イリスがそう考えに耽っている時、殿下がミシェルに顔を近づけ、口づけをしようとしていたので、大慌てで止めに入る。
「で、殿下!?それはダメです!!」
「あっ、すまん、つい可愛い過ぎて。シェリーには内緒で頼む。」
と言って、またしばらくの間、ミシェルを見つめ続ける。
「触ってもいい?」
「ダメです。」
「ちょっとだけ。」
「起きてしまうのでダメです!」
「ほっぺにちゅうは?」
「ダメです!!」
「おでこなら…」
「絶対にダメです。」
そんな会話を何度も繰り返した後、レオン殿下は後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にした。
想い合う二人を応援したいけれど、国を背負う王子の将来に大きく関わることである。
事が大きすぎて下位の侍女には何も出来ないと、イリスは落ち込むのであった。
***
翌日、お昼近くまでよく寝たミシェルは気持ちも肌もスッキリしていた。
ポジティブに戻り、ブランチを食べながら何かあればすぐに馬車で逃げればいいと楽観的に考えるようにしていた。
王宮メイドが張り切ってミシェルの手入れをしている最中も、嬉しそうにキャッキャしていた。
きっと、昨日の泣き腫らした不安定なアレは一時のホームシック状態であったに違いない。
今日はすっかりご機嫌だと部屋に入ってきて安堵の表情を浮かべたメイドたちには、そう思われているに違いない。
ミシェルはポジティブとネガティブが混在するおかしな精神状態となっていて、今はカラ元気だ。
あっという間に時間が過ぎて、続々と王宮に舞踏会の為に貴族が集まる時間となっていった。
兄と両親が部屋にやって来る。
にこやかに対応するミシェル。
部屋で少しの時間を過ごし会場へと向かう。
その途中で、イリスは最終確認をした。
「ミシェル様、例のモノの用意はしておきますので何かありましたら…。」
「ええ、頼むわよ。イリス。」
ミシェルも強く頷く。
「何を頼むの?」
兄が横から聞いてきた。
イリスが黙っていると、ミシェルが答えた。
「何でもないわ。イリスは先に帰るから、私の部屋をとびきり綺麗にしておくって話しをしていただけよ。それよりもこの前の~」
ミシェルはうまく誤魔化した。
イリスは隙をついて急いで馬車の駐留所に向かう。
すぐさま兄が気づき、後を追いかけた。
ミシェルはそのことに気が付いていたが、両親にだけはバレないようにしたいので兄を引き留めることはしなかった。
宮廷舞踏会の会場は入場するのに、すでに列となっていた。
サン家は最後尾に並び、入廷する順番を待つ。
もうすぐ会場入りといったところで、兄が息を切らし戻ってきて合流した。
両親もホッとする。
家族皆で、遂に宮廷舞踏会の会場へと足を踏み入れたのであった。
兄が何か言いたそうにしていたが、ミシェルは目を合わさなかった。
きっと、イリスから話を聞き出していると予想していたからだ。
話せば何を言われるか分からない。
最後まで演技でもここに残るように言われるかもしれない。
それは嫌だ。
今は心を正常に保つために選択肢が必要なのだ。
会場に入ってからすぐに、ミシェルは4、5人の若い男性貴族に囲まれた。
やたらと饒舌でミシェルに自分を売り込もうとする若い男達に勢いよく話し掛けられ、困惑している。
サン侯爵家の令嬢になったからといって、こんなに人気になるものなのか?と、疑問符を携えて、お喋りの尽きない男達から話を聞いていた。
兄も若い男達の話しをぶった切ろうと試みるのだが、男達の会話は次から次へと会話が展開されて、隙が全く無い。
そうこうしている間に、王族が入場するとの知らせが会場内へ伝えられた。
いよいよである。
ミシェルは極度に緊張していた。
先程の男達の話の中で、今日の舞踏会を開いたのは、第一王子の不祥事で王家が様変わりする報告を皆にする為だと話していた。
それに加えて、王子たちの婚約を発表するのではとの噂が立っているとか。
妃選びもしていないのに相手を発表だなんて、相手が誰になるのかと話が盛り上がっていた。
名の上がる有力な候補の令嬢の中には、もちろんあの人がいて、領地での噂と合致しており、やはりそうなのかとミシェルは胸が締め付けられていた。
大階段へと続く二階の扉が開かれ、煌びやかな衣装を纏った王族が堂々と入場する。
階段の中二階まで降りてくると、王族一同が横一列に並ぶ。
レオンも居た。
いつにもまして、真剣な顔つきで立っている。
顔を確認したミシェルは、思わず目を逸らした。
見ていられない。苦しい。
これからなのに…。
陛下が話しだす。
「皆、よく来てくれた。皆の顔を見ることが出来て私は嬉しいぞ。さて、開会の言葉を述べる前に、先に皆へ報告することがある。」
会場が静まり返る。
皆が陛下に注目した隙を見て、兄がミシェルの手を取り、男達の囲いから抜け出させてくれた。
そこに、朱色の生地に金刺繍を施した豪華な衣装の令嬢が静かに近づいてきて、声を掛ける。
「ここに居たのね。やっと見つけた。」
疲れた表情のジャンヌであった。
衣装の豪華さに目を奪われる。
だが、我に返る。
すぐにその理由を思い至ったのだ。
きっと、レオンに婚約者として紹介されるから、こんなに豪華に着飾っているのだろうと…そう考えてミシェルの気持ちは沈んだ。
顔に出さぬように、必死に笑顔を取り創る。
「ジャンヌ、今日のドレス素敵ね。」
ミシェルは嫌味に聞こえないようにと当たり障りのない誉め言葉を選び、声を掛けた。
自然に振舞わなければ…。
「そう、ありがとう。想いを寄せる人に見てもらいたくて。ミシェルのドレス、あなたの髪や肌にとても合うお色だわ、可愛らしいデザインがあなたに似合っている…のだけれど、こんなにあなたは可愛いらしいのに、私は素直に褒めてあげられないわ。」
そうジャンヌが言った。
もしかして、ジャンヌはこのドレスをレオンが用意したものだと知っているのでは?
自分の婚約者が他の女にドレスを贈っているなんて、そりゃあ、喜べないでしょうよ!!
私ったら、なんて、非道な事をしているかしら、ジャンヌの気持ちも考えないで…。
婚約者でもないのに厚かましい女だと、ミシェルのドレスを見て、ジャンヌはそう思っただろう。
私、惨めで、凄く愚かだ…。
今にも涙が零れそうになったので、ミシェルは上を向く。
その間に、第一王子は王位継承権を剥奪され、国外へと旅立ったことが陛下の口から語られていた。
さらに、第二王子が王位継承権一位、第三王子が王位継承権二位となったことが着々と発表されていく。
そして遂に、この時が来る。
「では次に、王子の婚約者が決まった。婚約者となるご令嬢を、皆に紹介しよう。」
陛下がそう言うと、貴族たちは騒めきたった。
遂に宮廷舞踏会が始まりました。
来週からドタバタ。婚約はどうなるのか?
また来週です。




