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王城へ泊る

いつもお付き合いくださりありがとうございます。


 そうだ!今から逃げよう!?


 そう考えが過り部屋を出ようと扉へと向かった瞬間にドアがノックされた。

 慌てて返事をすると、扉の向こう側には王宮メイドたちとドレスのデザイナーがおり、ぞろぞろと入室して来た。


 涙を急いで拭ったが、鼻の頭と目が真っ赤なミシェルを見て、王宮メイドが動揺していた。

 心配する言葉を掛けながら、テキパキと動き、献身的に世話をする。


 ミシェルは逃げる機会を完全に失った。

 メイドたちが目のケアと気持ちを落ち着かせてくれた後、デザイナーによるドレスの最終確認へと移った。

 全てが終わった時には、日が沈みかけていた。


 ミシェルは疲れ果てていたが、王城の部屋(ここ)には居たくなかったので、すぐに帰宅したいと申し出る。

 しかし、メイドたちは、今夜、ミシェルはここへ泊ることになっているので、世話をするようレオン殿下から命ぜられていると話すのだ。


 王城へは泊まらないので帰らせてほしいとミシェルは必死に頼んだ。


 ここに一人でいると、あの笑顔で会話をする楽しそうな2人の事を考えてしまい、気持ちが押しつぶされそうになるから、すぐにでも立ち去りたかった。


 しかし、今、レオン殿下は忙しく、許可を得られる状態にないので、ミシェルを勝手に返すことが出来ないのだと、メイドたちと押し問答となる。


 そこに、年配のメイドが部屋にやってきて、明日の舞踏会の準備が早い時間から始まるから、このまま泊まられた方が無理なさらずに済むので泊ってほしいと、ミシェルを説得する。


 それでも、帰宅したいと引き下がらないミシェルであったが、年配のメイドの後ろから侍女のイリスが顔を出したのを見つけ、駆け寄り抱き着いた。


 侍女のイリスは、兄がこれから王族に会うので、来る途中の待機部屋で身分の低いイリスは待っているよう言われて従っていたのだが、そのままになっていたらしい。

 王宮メイドが気を利かせ、ミシェルの部屋まで連れてきてくれたようだ。


 ミシェルは心からホッとした。

 気持ちを少し落ち着かせることが出来た。


 その隙に王宮メイドは、レオン殿下に確認が取れるまではここに居て欲しと懇願しながら、慌てて部屋を出て行ってしまう。

 ミシェルはこの部屋に居ることとなってしまった。


 ミシェルはこの前のように、イリスに恋愛の話をしたら、怒り狂ってしまわないか心配したのだが、自分だけでしまっておくことが今はもう限界が来ており、誰かに吐き出さないと苦し過ぎたので、イリスに打ち明けてしまった。


 レオン殿下に宮廷舞踏会へ誘われ、ドレスを作ってくれると言われ舞い上がったが、そのドレスは一向に届かず、さらには、レオン殿下には素敵な婚約者が出来たと言う噂を耳にした。

 そして、今日、その婚約者になった令嬢と2人で親しく話す殿下を見た。


 その際、2人で出かけて仲を深めているということも知らされた。

 ミシェルとは会えなかった状況で、ミシェルには花やハンカチが贈られてきた。

 それが別れを意味する贈り物なのか本当の事を確認したくて王城まで来たというのに、ようやく会えたのに、怖くて真相を聞けずにいる。

 今の状況にどうしてよいのか分からない。

 自分からは動けない、勇気がない。

 そう言い終わると、ミシェルは声を大にして泣いた。


「そんなっ、(この前お話されていたミシェル様の想い人だけでなく、あれだけしつこく追い掛け求婚にした)レオン殿下までもがそのような仕打ちを…うう、殺してやりたい。しかし、相手は王族……ブツブツブツ。」

 泣いているミシェルを抱えるように寄り添い、頭を撫でながら、ブツブツとイリスは呟いていた。


 本当は今すぐにでも殿下を探し出して、尖らせた爪で八つ裂きにしたい心境であるが、相手は王族である。

 イリスが何かをしでかせば、雇い主の侯爵様やミシェルにまで火の粉が降りかかると、泣き続けるミシェルを抱き寄せながら、イリスは冷静に慎重に考える。


ミシェルが泣き止むと、お風呂にゆったり浸からせ、美味しい食事を取らせた。

 食欲がないらしく、あまり召し上がってくれなかったことにイリスは気に病む。


 その頃には、ミシェルも王城から帰るには遅い時間だと、王城に泊まらなければならなくなったと観念していた。


 放っておかれているこの状況に、レオン殿下はきっと自分の事など、どうでもよいのだろうと心底諦めたのであった。


 ミシェルがベッドに腰かけた時に、イリスがミシェルの両腕を取り、跪く。


「ミシェル様、私は何があってもミシェル様の味方です。ここは王城です。王族の許可なしに身動きは取れません。そして、明日はレオン殿下が用意されたドレスを着て、宮廷舞踏会へ王族との約束であるので参加しなければなりません。これは、お家の為でもあります。苦しいでしょうが我慢してください。私は何が何でもミシェル様の傍に居たい!ですが、宮廷舞踏会は私のような身分の低い侍女がついて行くことは叶いません。頼りにならず申し訳ございません。ですが、会場入りし、帰りたい、逃げたいと思われたならば、すぐにでも会場を後にしてください。私は、馬車を用意して、いつでも出発できるようにお待しておりますから。」

 イリスが力強くそう言ってくれた。


「イリス…」

 ミシェルに様々な想いが沸き上がり、彼女の温かさに包まれる。


「一緒に逃げましょう。どこへでもお供します。」

 言葉の出ないミシェルの手を握り絞めて、真っすぐに人目を見据えそう言ってくれる侍女イリスの言葉に、勇気付けられる。


「わかった。公開婚約破棄をされそうになったら一目散に逃げるから、よろしくね。」

 瞳からは涙が流れているのに、イリスに笑顔を向けて、ミシェルはそう言った。


「はい!!」

 イリスが笑顔で答える。


 ミシェルは嬉しかった。

 自分は彼女を一度は手放してしまったのに、こんなにも自分を大事にしてくれる。

 心からの頼もしい存在だ。


 ベッドに横になる。


「……ありがとう、イリス。」

 ミシェルはベッド横に居たイリスに心からお礼を言った。

「良い夢を。ミッシェル様。」

 彼女の声が、優しく囁く。


 ミシェルはイリスの言葉から明日は何とかなるだろうと本来のポジティブ思考を少し取り戻し、眠りにつく。


 今日一日、精神をすり減らし疲れていた所為か、ほんの少しの安堵でぐっすり眠りについてしまった。


次回から…。

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