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噂の2人

読んでくださりありがとうございます


 王城へ到着し、兄の案内により王宮の奥へと進んでいく。


 ある部屋の前まで来ると、兄はノックをし、入室の許可を取った。

「殿下、連れてまいりました。」


「入れ!!」

 許可は間髪入れずに下りた。


 中に入ると、そこには…。


 レオンとジャンヌがお茶を飲みながらテーブルを挟み、楽しそうに笑い声をあげて歓談している。


 あの元婚約者の言葉が過る。

 “すぐに気が付く、こんな面白みも無く、可愛げのない女のどこがよかったのかとね!今に愛らしい新しい女が出来て、去っていくさ”


 あっ、これはやはり、そうなのか…私が邪魔者なのだな…と、そう感じずにはいられなかった。


 瞼を一度閉じて、サン侯爵領で固めた決意をもう一度確認する。


 ハンカチを返さなければ…。


 でも、ハンカチは今、兄の腕に巻かれている。

 どうしたものかと考えを巡らせていると、すぐそばまでレオン殿下がやってきていた。


「シェリー、久しぶりですね…お、お元気ですか?…あのっ、今、ジャンヌからあなたの話を聞いていて、元気そうでなによりです。」

 笑顔ではあるが、王子の少し距離をおき、よそよそしさを感じる態度にミシェルは少しショックを受ける。


 ジャンヌとは楽しそうにお喋りをしていたのに…私とは…。

 心の中で嫉妬した。


 2人が並んでいる姿を見てから、心が酷くかき乱れされる。

 ミシェルは顔に出さぬように、必死で取り繕うのであった。


「はい、私は元気でございます…殿下。お久しぶりでございます。」

 色々な気持ちが混ざり合い、それ以上、言葉が出てこない。


 目を合わせることが、とてつもなく怖い。

 余計な事まで言ってしまいそうで、直ちにこの場から逃げ去りたかった。


 殿下の後ろから近付いてきていたジャンヌが会話に割って入った。

「ミシェル、久しぶりね。晩餐会の日以来だわ。あの時は話が弾んでとても楽しかった。またお喋りをしたいわ。また沢山お話しましょう。そうだ、私ったらユーグに用事があったのをすっかり忘れていたわ。ねえ、ロベール様、私をユーグの所まで送ってくださらない?」

 ジャンヌがミシェルに挨拶をした後、ミシェルの後ろにいた兄に声を掛けた。


「ええ…いいですよ。私もこの後、ユーグ殿下の所へ行かなくてはなりませんので。」

 兄が快諾した。


「それでは、行きましょう。あっ、ミシェル、明日の舞踏会で話しましょう。またね。」

 ジャンヌが煌めく笑顔でミシェルへと挨拶する。


 兄とジャンヌが仲良く連れたって話ながら扉へと歩いていると、ジャンヌが兄の腕に巻かれていたハンカチに気が付く。


「あら??ロベール様!?その腕、どうなさったの??大丈夫ですか?」

 ジャンヌが立ち止まり、声を上げた。


「ああ、出掛けにひと悶着あってね。擦り傷が出来たから巻いたのだ。綺麗なハンカチなのに汚れてしまったな。」

 申し訳なさそうに、ハンカチに目をやり、チラッとミシェルを見る。


「これ、ロベール様もお買いになったのね。確か、レオンも同じものを購入していたわ。私、このハンカチを売っている店を知っているから、気に入っているのなら新しいものを買ってくるよう遣いを出しましょうか?」

 ジャンヌが兄に問う。

 兄が申し出をやんわりと断り、2人は部屋を出て行った。


 そのジャンの言葉に、ミシェルは確信してしまった。

 ジャンヌとレオは噂の通りに買い物デートをしていたのだと。

 2人の噂は真実だった!!


 殿下の手紙には、自分のドレスに似合う小物選びをしに行ったと書かれていたが、その日は彼女とのデートで、ミシェルへ贈られたハンカチはデートのついでに購入された物だったのかと悟り、頭部を強く打ちのめされる思いがした。


 そして、やはり、ハンカチは別れを示していたのだと結論付け、一気に胸が締め付けられ息をするのも苦しくなる。


 泣きそう…。


 目の前でいきなり泣き出したら、きっと理由を聞かれるだろう。

 理由を言えるはずがない。

 惨めな想いをしたくない。

 必死に堪え、今は泣くものかと唇を噛みミシェルは持ちこたえる。


 そこに、ノック音がする。


「レオン殿下、執務が滞っております。お部屋にお戻りください。」


 その声に、レオンの顔はみるみる不機嫌となり、悪態をつく。

「クソッ、またかよ。何でこんなに忙しいのだ!!腹が立つ!!!」

 そう言うと、ドアの外に居る者に、すぐに行くとキツイ口調で返事をした。


「シェリー、申し訳ないが私は仕事へ戻らなければならない。本当は見届けたいのだが、ここで、あなたが明日着るドレスの最終確認をしてもらいたい。渡すのが遅くなってしまい、すまなかった…その、君にとても似合うはずだから…どうか着て欲しい。」


 申し訳なさそうに話すレオンに、ミシェルは笑顔で返す。


「大丈夫です。ドレスを殿下から頂けるだけで私は十分です。私の事など気にせずに、お仕事に専念してください。」

 本心であるはずがない


 それは、ミシェルの本心ではないが、言わないといけない言葉だと本心を喉の奥へと飲み込んだのだ。


 本当は、レオと一緒に居たい。

 会えなかった分、たくさん話しをしたい。

 そして、真相をちゃんと確かめたい…。


 いやいや、今すぐにでも聞けるだろう?

 聞くべきだ!!

 なぜ聞かないのか?


 絶対に確かめなければならないことなのだと頭の中では分かっているのだ。

 でも、拒絶されるかもしれないと思うと、苦しくなり声に出すことが出来ない。

 婚約話はなかった事にしたいと、ハッキリとレオの口から言われることが、凄く、凄く怖い。


 もしかしたら、今この瞬間も、ジャンヌと婚約するから、自分との話はなかった事にしたいと言われるかもしれない。

 そのタイミングをこの間もずっと窺っているのかも…そう脳裏に過るのだ。

 そうであったらと考えると、2人きりになるのさえ、怖くてたまらなかった。


 聞きたくない。

 耳を塞ぎたい。

 早く部屋から出て行ってよ!と自身の内に居る小さき自分はずっと叫んでいる。


 レオンが心配な表情を浮かべながら、部屋を後にする。


 部屋で一人になった途端、ミシェルは声を出して泣いた。


 やはり、自分はレオンのことが好きだ。

 幸せそうな二人を目の前にすると、胸が張り裂けそうになる。

 なぜ自分は、のこのこ王城まで来てしまったのだろうか。

 こうなる事は予測しただろう。


 そもそも宮廷舞踏会に出るなんて、軽々しく返事をしなければよかった。

 トロワ家のモットーが示していた通り、王族と近しい関係になるべきではなかったのだ。

 これ以上、レオンに関わってはいけない。


 だって…苦しすぎるから…。


 そうだ!今から逃げよう!?




今日は七夕だけど、うちの織姫と彦星ときたら…。


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