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行く手を阻む者2

行く手を阻む者の続きです。

 

 ジャックがミシェルに花束を叩きつけようとした時に、ミシェルの前に兄のロベールが急いで腕を伸ばし、右腕で花束を受けた。

 花束が兄の腕へと激しく当たる。


 幸い、当たったのは花束である。

 大怪我はしなかったものの、この花はバラであった。


 ケチなこの男、家の庭先に咲いていた薔薇を出かけに侍従に摘ませ花束にして持ってこさせていたようだ。

 薔薇の棘は未処理で、それによる細かい引っ掻き傷が、ロベールの腕に痛々しく出来ている。


「兄さん!?血が出ています!!」

 ミシェルは自分の所為だとショックを受ける。


 ジャックがすぐにカッとなり暴力を振るう男だと知っていたのに、無暗に挑発してしまい、兄を傷つけてしまったと後悔する。


「イリス!ハンカチ!あれ、あれでいい、今すぐちょうだい。」

 ミシェルは例の王子から貰ったハンカチを要求した。


 侍女は王子から貰った物で本当に良いのかと思いながら、あのハンカチを渡す。

 ミシェルは渡されると直ぐにハンカチを兄の腕に巻き、手当てした。


「これくらいなんともないよ。ミシェルに当たらなくて本当によかった。」

 兄がミシェルを気遣い優しい言葉を口にする。


 優しい兄に怪我を負わせたことにミシェルは怒り心頭となる。

 すっと立ち上がり、元婚約者の前に行き向き合い、睨みつけた。


「今のあなたは、お互いの立場というものを全く分かっていないようですね。もっと冷静になって下さい。私の兄は、サン侯爵家の跡取りです。その者にあなたは怪我を負わせました。宮廷裁判で訴えますよ?出るとこ出てもいいのですよ!伯爵家子息が侯爵家子息に怪我を負わせたと。どうなりますかね?さあ、まずは報告しなければなりません。ヴァンドム伯爵の元へと向かいましょうか。」


 これまで見たことの無いような鬼気迫る勢いで、ミシェルは元婚約者ににじり寄る。


「うっ、い、今のはワザとではない…ちちち父には言わないでくれ。謝るから…」

 元婚約者が後ずさりしながら、小声で謝った。


「ヴァンドム伯爵に言わない代わりに、金輪際、我々の前に姿を見せぬように約束してください。いいですね!!」

 ミシェルが言い放つと、約束すると小さく答え、挙動不審に後ろへと下がっていく。

 馬車の方へ向きを変えると、悔しそうに尻尾を巻いて逃げて行く。


 だが、何かを思いついたような顔をすると、こちらへ振り向きこう言った。


「ミシェル、君は愛の無い女だ。冷血で、不愛想で、可愛げがない。そんな女を婚約者へと迎える男はこの世にはいないだろう。だがしかし、私はそうじゃない。我慢して受け入れてやると言っているのだぞ。返事はいつでもいい。待ってやる。お前には俺しかいないのだからな。」

 自信満々な顔で言い切った。


 話が通じないようだ。


「呆れた…残念だけれど、こんな私に求婚してくれる人は居るのよ。あなたの所へ行く予定は微塵もない。だから待たないで頂戴。」

 頭にきていたので思わず言い返していた。


「フン、それは、お前の変わった性格に今だけ面白いと感じ、勢いで求婚しているだけだ。そして、すぐに気が付く、こんな面白みも無く、可愛げのない女のどこがよかったのかとね!今に愛らしい新たな女が出来て、お前の前から去っていくさ。」

 憎たらしい元婚約者の顔は、大きな口を開き笑っていた。


 その言葉に、ミシェルの心は揺さぶられた。


「お前ー!?私の妹を侮辱する発言の数々、もう許さんぞーー!!!ヴァンドム伯爵に抗議してやるからな!!」

 ミシェルの代わりに兄が激怒した。


「おおっと、義兄上、そう怒るな。挑発でもしないと、これで終わってしまうではないか。嫌われてでも、印象に残りたかったのだ。では、また会おう。ミシェル、愛しているよ。」

 そう言い残し、投げキッスをして元婚約者は帰っていった。


「最悪だ…」

 兄が頭を抱える。


 ミシェルの心に、元婚約の残した言葉が、深く突き刺さっていく。

 “すぐに気が付く、こんな面白みも無く、可愛げのない女のどこがよかったのかとね!今に愛らしい新しい女が出来て、去っていくさ”


 あんな男の言葉なのに…耳に残り不安が広がる。


 今、一番聞きたくなかった言葉、最悪だわ…。


 時間が押してしまったとロベールが慌ててミシェルの腕を引く。

 足が重い、ミシェルはそう感じながら体を引っ張られる反動でなんとか歩みを進める。


 馬車に乗りこみ、2人は王城へと向かうのであった。




次回からは王城。やっと殿下に会えます。

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