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悩める日々

いつもありがとうございます。


 侍女の件ですっかり抜け落ちていたが、思い出して欲しい。

 あの重大な問題を…そう、第三王子とジャンヌの婚約の話である。


 イリスの話が解決されて喜ばしい半面、安心したのは束の間、眠りにつく前に思い出されたこの話は、ミシェルにとって辛いものであった。

 二度目の婚約破棄が待っているかもしれない…いいや、まだ婚約も結ばれていないのだから婚約破棄とは違うのか…と、自室のベッドの上で、嘆き、不安と闘いながら、肌触りの良い布の中へと体を丸め、眠りについた。



 翌朝。

 宮廷舞踏会まで残りあと15日。

 ミシェルは前日に聞いたあの噂話と向き合うことにした。


 それまでは、レオン殿下との婚約の答えを宮廷舞踏会までに決めなければと思っていたのだが…今、殿下には自分ではない別の婚約者がいるらしいとのことで婚約の返事どころではなくなっている。


 レオンの心変わりは、寝耳に水。

 最悪な心境だ。


 宮廷舞踏会に着ていく予定のドレスも、一向に届かないのはその所為なのか。

 手紙の贈り物には、別れを暗示するものがついてきた。

 領地に来る前に貰った手紙以降、自分を好きや愛しているなどの恋情を示す言葉が書かれることもない。

 それは全て別な人をすでに好きになっていて、その者と婚約するからなのではないのだろうか?


 極めつけは、ジャンヌと婚約の話が社交界で広まっていると言うこと。

 これは、遠回しにミシェルとの婚約は白紙と言う2人からの牽制、もしくは強いアピールなのではなかろうか??


 ミシェルは、ジャンヌを良き友人と思っており、レオンの事もかなり好きになってしまっている。

 それなので、ショックが大きく落ちこんだ。


 ジャンヌが侯爵領へ来たのは、もしかしたらレオンから話を聞いて、私を見定めるために来たのかしら?

 でも、それならば、あんなに楽しく会話をしないはずよね?

 いやいや、相手は王族、そんなそぶりはお手のもののはず。

 もしくは、私ではライバルにもならないと単に考えたのかもしれない…。


 どんどんと思考は泥沼へ嵌っていく。


 いっその事、本人に手紙で真相を聞いてしまえばよいものの、どんな返事が来るのかが怖くて、たまらなくて、ペンを持つ手が固まってしまう。

 真っ新な質の高い紙が、机の上に置かれたまま、待ち続けている。


 ハンカチを受け取って以降、王子に手紙の返事を書くことが出来ずにいる。

 王子の元へ手紙は返らない。


 あの母親譲りのポジティブ令嬢ミシェルの姿は、今は何処にも無かった。


 侍女イリスもこんなにネガティブ思考の恐ろしく落ち込んだミシェルを見た事は、今までに無かったので、酷く狼狽えて心配していた。


「ミシェル様、どうなさってしまったのですか?」

 堪らず聞いてきた。


「イリス…実はね。これまでは自分はポジティブの私しか存在しないものだと思っていたのだけれど…私って恋に関しては、スーパーネガティブになるみたいなの。」

 ミシェルは自分だけで考えても悩む一方なので、イリスに話してみることにした。


「ミシェル様!?もしや、お慕いしている御方が居らっしゃたのですか!?」

 かなり驚いた表情で、イリスがそう聞くので、

「ええ、いるわ。」

 と、第三王子を思い浮かべながら飄々と答える。


「なっ、なんてこと!!そんなことも知らないで、私は…(レオン殿下に協力をしてしまっていたというのか!?)」

 イリスが押し黙ってしまった。


 イリスが顔を強張らせたまま動かないので、ミシェルは話を続けた。


「それでね、その御方から婚約したいと申し入れがあったの。返事は急がなくてよいと言われたから返事をしていなかったのだけれど、その御方から最近来るお手紙には婚約について一切触れられていなくて、プレゼントも別れを暗示するような物ばかりが送られてきているの。さらには、その御方にはすでに婚約者が居るという噂を耳にしてしまった。イリス、私はどうしたらよいと思う?私、その御方を諦めるべきなのかしら?」


 ミシェルが話しだすと、

「(ミシェル様に両思いの人が居たと言うのにレオン殿下に肩入れしていたとは…)私は、なんてことを…」

 聞こえないくらい小さな声で呟き、イリスは絶句していたのだが、ミシェルが話を終えると、


「今何とおっしゃいましたか?」

 と口走り、表情が動き出す。

 みるみる鬼のようになる。


「ミシェル様にそのような不届きな行動をしている奴は、いったい何処のどいつなのですか!?私が、このイリスが、我が命に代えてでもその者を懲らしめてまいります!必要であれば消し去ります!!!ミシェル様を悲しませることは何人たりともこのイリスが許しません!!」

 物騒なことを叫び部屋に置いてあった蝋燭台へ駆け寄り掴むと、部屋を出て行こうとする。


 イリスを止め、宥めたミシェルは、イリスを犯罪者にさせない為にも、この話をこれ以上イリスにしないようにしようと誓い、胸にしまった。


 どうしたらよいのか。

 昼間は体を動かし忘れられるあの問題も、寝る前の一人の時間には再会を希望してくる。

 全く会いたくもないのだが、しつこいやつだ。


 何が起こるか分からない、王族との婚約問題。

 兄さんが絶望したあの卒業パーティーの悪夢の婚約破棄イベント、ああいうのだけは起こりませんようにと神に祈りながら、ミシェルはサン侯爵領で悩める日々を送るのである。


 宮廷舞踏会まで残り数日と迫る。

 悩みに悩んだ末に、ミシェルはある決断をした。


 結局、殿下への手紙の返事を書くことが無いまま、宮廷舞踏会へ出席するために、王都へ向かう日を迎えてしまう。



宮廷舞踏会まであと少し。

明日から王都。

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