元専属侍女
いつもより遅くなりました。
青天の霹靂によってミシェルが意識を飛ばしている間、絶対にそれはない、ジャンヌは悪女ではないし婚約も嘘だとクロエはヴァルベルク伯爵令嬢の発言を強く否定していた。
しかし、クロエの言葉はミシェルの耳へ届くことがなかった。
酷い怒鳴り合いの言い争いになっていたようで、気の利く者がクロエの母親を連れてきてくれて、これ以上騒ぎを大きくしないようにとクロエを連れ去っていった。
その後、ヴァルベルク伯爵令嬢も騒いで注目を浴びたので周囲の視線を気にして、さっさと部屋を後にした。
残ったミシェルも息を吹き返し、彼女達の横にいたので同じく目立っていたようで、その空間にいるのは気まずくなり、そそくさと部屋を出た。
仕方なくボールルームへ戻ると、またもやダンスに誘われてしまう。
主催者側だし侯爵家として印象が大事だと思うと断りづらく、笑顔で手を取り踊り出すこととなった。
ダンスの最中も心の中は複雑で、レオンの婚約の話をきちんと考えなければと思う自分と、もう考えたくない自分が葛藤し、心が痛み、立っていることが辛くなる。
だがしかし、今日は主催者側の人間、倒れるわけにはいかないと食いしばる。
何としてでも無事に今日は成功さなければならないと強く気合を入れ直し、踊りに集中してしまおうと懸命に意識を逸らす。
次にダンスを誘ってきていた人物が、あの白馬の君であることも気がつかず、ミシェルは誘いを受けていた。
しかも、軽い口調の彼は、サッサとダンスの予約ペーパーを奪うと、名前を3曲分、記入してしまう。
白馬の君は、ダンスをしながら嬉しそうに話している。
彼はユーグ殿下の近衛騎士なのだといい、ユーグ殿下を尊敬しているエピソードや王宮での話しを熱心に語る。
それはツラツラツラツラと気分よさそうに続くのだ。
連続でダンスをしているのに息も乱れず、合いの手を入れる隙も無く続く話にミシェルは、この人は体力おばけだと踊り過ぎて疲れた足を必死に動かしながら考えていた。
お陰で例の話が頭から吹っ飛んでいた。
彼との3曲目のダンスを終えた後、あまりにも疲れたので、またホールを出ようとミシェルは行動する。
次のダンスの誘いを、正直に少し休憩が取りたいと丁寧に断る。
余裕がなかった。
出入口へ向かう途中に事件は起きる。
ミシェルに向かって、ヴァルベルク伯爵令嬢が般若の顔をして迫ってきた。
そして次の瞬間、ミシェルにワインを掛けたのだ。
だがしかし、ワインはミシェルにかからなかった。
目を丸くして見ると、ミシェルの前にワインを被った者が座り込んでいる。
ワインは給仕をしていたメイドに掛かっていたのだ。
「イリスっ!?」
そのワインのかかったメイドは、ミシェルを裏切ったあのミシェルの元専属侍女のイリスであった。
「ミシェルお嬢様、ワインは掛かっていませんか?大丈夫でしたか?ハッ、も、申し訳ございません、お客様。粗相をお許しください。」
そう、ミシェルを気遣い、心配した後に、ヴァルベルク伯爵令嬢に向かい元専属侍女イリスは必死に謝った。
その元専属侍女のセリフで、ミシェルが主催者であるサン侯爵家の娘なのだと気が付いたようで、白馬の君と踊っても仕方がない立場であったと認識した。
そして、危うく主催者にワインを掛ける所であったとバツが悪くなる。
ヴァルベルク伯爵令嬢は元専属侍女に対し、
「もういいからここから早く立ち去るように」
と言いつける。
話を大きくしたくない様子だ。
ワインで汚れた元専属侍女は言われた通りにすぐにその場から去っていった。
ヴァルベルク伯爵令嬢はミシェルを見ると睨みつけ、こう言った。
「あなたがサン侯爵令嬢だったとは、運が良かったわね。いくら主催者だとしても、あの御方と3曲も好き勝手に踊ることは許されないわ。これからは気を付けてくださいまし。」
そう言い放ち、去っていった。
そんな事よりもと、ミシェルはワインを浴びた元専属侍女を探した。
ちなみに、この後直ぐに、知らせを受けたサン侯爵の手に寄って、ヴァルベルク伯爵一家はまとめて侯爵家の敷地外へと速やかに追い出されたそうだ。
=Memo=
イリス:トロワ家時代、ミシェルの専属侍女であったが、亡命の際に王族のスパイであったことが発覚し、ミシェルが拒絶し、トロワ家から解雇される。
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