お披露目会
今週もお付き合いいただき、ありがとうございました。
父が王家の耳に認められたのでサン侯爵はご満悦で家督を譲る書類を国に提出した。
侯爵位を譲渡されて、父は正式にサン侯爵家を継いだ。
そして、新しいサン侯爵のお披露目の日がくる。
近隣の領地から招待を受けた貴族達が、続々とサン侯爵のカントリーハウスへ集まってきていた。
その中に、先日会った眼力の強めな男爵令嬢クロエを発見し、ミシェルは挨拶が終わったら話し掛けようと、密かな楽しみを得た。
日が沈むにつれて、煌々と大広間の明かりが照らし出されて行く。
人々も集まり、各々が他愛もない会話をして交流を図っていた時、主役たちが登場した。
前サン侯爵を先頭に、父、母と続き、ロラさんをサポートしながら兄とミシェルも入室する。
大きなシャンデリアの下まで進むと前サン侯爵が止まり、侯爵を挟んで家族が両脇に並んだ。
前サン侯爵が招待客へ挨拶をする。
そして、横にいる者達は新しい家族であると紹介し、父を自分の養子に迎え、跡取りにしたことを発表した。
ずっと前から父の事を気に入っていて息子になるよう口説いていたという話から始まり、息子になることにようやく応じてくれたとか、嘘八百を並べ、平然と話す前サン侯爵の横で、人のよさそうな笑いを浮かべている父の印象は悪くはない。
その後、挨拶は父にバトンタッチされ、軽く話をした。
「父のご厚意でこうして侯爵位を受け継ぐことになりました。我がサン侯爵領の近隣貴族の皆様、これからもどうか、先代と同じよう、皆さまとよい関係を築いて行けたらと思っております。本日はお越しくださいましてありがとうございます。どうぞ、楽しいひと時をお過ごしください。」
舞踏会の開催を宣言し、父と母がペアとなり新しいサン侯爵として挨拶し、前サン侯爵は兄とミシェルを引き攣れ、孫だと触れ回り、孫大好きをアピールして主だった貴族のみに紹介し回った。
音楽が流れ始めると、ダンスが始まる。
ロラさんが事前に誰と踊るかを書いた紙をミシェルに渡していたので、相手を探そうと見回すと、相手が先に声を掛けてくれて誘いに来てくれていた。
顔は強面だが仕草が綺麗で紳士なおじ様に手を引かれ、ミシェルもファーストダンスを踊った。
ファーストダンスの相手、それはクロエの父親である。
クロエからは見かけは怖がられるけれど、中身は優しく繊細な父なのだと聞いている。
現王妃様の実弟だそうで、今は彼らの父親のマルク辺境伯が現役なので、彼は隣ではないがうちの領からほど近い領地を持つ男爵位を受け継ぎ、そこを知行している。
のちのちマルク辺境伯を継ぐ御方なのだと、ロラさんからは教わっていた。
ちなみに、マルク辺境伯領には、王宮騎士団に次ぐ勢力のマルク騎士団が存在し、王家から強い信頼を寄せられているのだそうだ。
サン侯爵家の者達は、それぞれ招待客の中で高位な者や話題な人物と踊っていた。
クロエの父親が、ダンスの最中に話し掛けてくる。
「娘は誤解されやすいのだが、少し変わっているがいい子だから仲良くしてやってほしい。」と、真剣に頼んできた。
そのことがミシェルはおかしくて、笑顔になった。
そして、もうすでに自分達はお友達なのですよとクロエの父親に教える。
それを聞いたクロエの父親は目尻の皺をギュッと寄せ、飛び切り優しい笑顔となった。
それを目撃した貴族が明日は槍が降るかもしれないと息を飲んだとか飲まないとか。
貴族の手から滑り落ちたグラスが、いくつか犠牲になったという。
次のダンスの相手は王宮騎士団長の子息で、彼も王宮騎士団で騎士隊長を任されている将来有望な人物であった。
彼には、困ったことはないかと尋ねられたが、サン侯爵に父がなったことへの問いなのかと考え、何もありませんとだけ答えた。
何かあったら君を守るようにある人物から頼まれている、だから自分を頼るようにと爽やかな笑顔で言われた。
彼は服を着ていても分かるほどの筋肉ガチムチマッチョ。
笑顔の彼は、焼けた肌に白い歯が煌めいてかなりのイイ男に見える。
惚れてまうやろう?
いいや、その先へは進めない。
だって彼はすでに妻子持ちだ…うーん、残念。
次のダンスの相手は次期宰相との呼び声高いカソンヌ子爵。
ダンスは得意ではないようだ。
ロラさんの指示だろう、気を使ってかゆったりした簡単ステップで踊れる曲が演奏され始める。
不出来ですまないと申し訳なさそうに話す子爵に、足を踏まれないから全く問題ないとミシェルは笑顔で言い放つ。
カソンヌ子爵は、その言葉を聞き、噴き出した。
緊張も解け、和やかな雰囲気で2人は踊りを楽しんだ。
別れ際に、私がもう少し若ければと言い残し、ダンスは終わった。
その後も、次々にダンスを申し込まれ、ミシェルは踊り続けたので、足がパンパンで痛くなってきていた。
少し休憩したかった。
髪飾りが取れたので直すと自ら外した髪飾りを見せ、キラキラに輝くイケメンからの誘いもキッパリ断って、休憩部屋へと向かっていた。
「ミシェル。」
向かっている途中で後ろから、名前を呼ばれる。
クロエだった。
「ミシェルと話がしたくて待っていたの。でもあなた、ずっと踊りっぱなしだったから話せそうになくて、こっちに行くのが見えたから急いで追いかけてきたのよ。」
クロエが言う。
「私もクロエと話したかったー。」
嬉しそうに返答する。
踊りの誘いが途切れなくて、髪飾りをワザと外して逃げてきたとクロエに話すと、自分が付けなおしてあげると言い出す。
招待客用の控室へ行き、座りながら話をすることにした。
部屋に入り、まずはミシェルの髪飾りをクロエが直し、クロエも口紅を塗りなおした。
「ミシェルが踊っている間、監視しながらオードブルをつまんでいたから、口紅が全て落ちてしまったわ。サン侯爵家のお料理、珍しいものが多いし、とても美味しいの。お酒にもよく合うし、少しずつ口に運べるようにしてあるから、手が止まらずどんどん口に運ばれてしまって、お酒もグイグイ進んでしまうの。怖いわ~。」
確かにクロエはホロ酔いみたいだ。
「あれらは、母の母国のお料理なの。これまで地味に生活していたから、このように夜会を開き、招待する側になることはほとんど無かったの。今回はそれが出来て、母がとても張り切って用意したの。満足いただけたなら、母も喜ぶわ。」
そんな話をして会話を楽しんでいると、そこへ近寄ってくる人影があった。
「見つけたわ。そこにいらっしゃるのは、ナヴァル男爵令嬢ですわね!?」
いきなり大きな声で話掛けてきた。
揃ったきついウェーブの茶髪を揺らし、耳元には一つの白薔薇が飾られている女性。
彼女は、ヴェルベルグ伯爵令嬢である。
=人物memo=
ナヴァル男爵:クロエの父親(のちのマルク辺境伯)
王宮騎士団長の息子、本人は騎士隊長:ガチムチ、ある人からミシェルを守るよう頼まれている
カソンヌ子爵:宰相有力候補
ヴァルベルク伯爵令嬢:ストーカー、次話で暴れる人
次回、青天の霹靂。また来週。




