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サン侯爵家

今週もよろしくお願いします。

 旅立ちの朝。


 本日、ついに我が一家はサン侯爵領へ向け出発です。


 朝から第三王子の従者がやって来て、手紙と王宮料理人が用意したと言うホカホカのスコーンと濃厚バター、野イチゴのジャムとハチミツの瓶が入ったバケットを、長旅のお供にと渡された。

 すべてミシェルの好物であり、これは手紙交換の賜物である。


 ミシェルは高価な宝飾品よりも美味しい食べ物を好むということを第三王子は知ったようだ。

 それをよく分かっているミシェルの両親は若い二人の恋を微笑ましく思い、温かい眼差しで見守っている。


 馬車が出発して、ミシェルは馬車内で王子からの手紙を読み始めたのだが、行かせたくない、会いたい、愛している、好きだ、大好きだ!と言った言葉で文面が埋め尽くされており、顔から火が出そうになった。

 家族のいる馬車内で目にしてしまった事をとても後悔した。


 5日掛かり、ようやくミシェルらを乗せた馬車は、サン侯爵のカントリーハウスへと到着した。


 サン侯爵領は広大であり、気候や土壌が良いらしく畜産業が盛んであった。

 育った畜産は国の彼方此方へと売買される。

 それを捌く商人たちはサン侯爵領のよき諜報部員として働いているのだという。


 馬車から降りると、すでに侯爵家の家令が待ち構えていた。


「ようこそいらっしゃいました。旦那様。奥様。ロベール坊ちゃま、ミシェルお嬢様。お待ちしておりました。私はサン侯爵邸で家令をしておりますハンスと申します。数日前から大旦那様は足を悪くしておりまして、歩くことが大変困難な状態でございます。出迎えがままならぬとのことですので、僭越ながら、私が代わりを務め、屋敷のお出迎えとご案内をさせていただきます。それでは、大旦那様が応接間でお待ちです。どうぞこちらへ。」


 正面の大きな扉を潜ると大きな玄関ホールが顔を見せる。

 奥のドアを開けると続き部屋へと出る。

 次の扉を開ける。

 いくつかの部屋を通り抜け、家令が案内をしながら、軽く説明していく。


 応接間まで来ると家令は声を掛け、中からの大きな侯爵の返事を受け、扉を開けた。

 部屋に踏み入る。

 そこは、貴族の邸宅の応接間だと言うのに、調度品が極端に少なかった。


 奥の大きなソファーの右端に品の良い高齢の女性が座り、その横にある一人掛けのソファーにサン侯爵が杖を立て両手を置き前のめりで座っており、女性と熱心に話し込んでいた。

 入ってきた者達を認識すると、声を掛ける。


「やあ、よく来てくれた!我が息子たちよ。歓迎するぞ。」

 そう小柄で口髭を生やしたサン侯爵が、大きな声で言った。


「父上、サン侯爵領にて、お目にかかれること、嬉しく思います。至らぬ点が多々あるかと思われますが、お父上のもとで誠心誠意学び―――」

 父が堅苦しい挨拶を述べていると、侯爵がぶった切る。


「よいよい、そのような堅苦しい挨拶は家族間ではいらぬぞ。もっと気を楽にせよ。それよりも、まずはまだ会ったことの無かった我が家族たちに自己紹介だな。儂はジョゼフ・ド・サン。儂の事は気軽に父さんとでも呼んでくれ。クックックッ、エリィさんは特別にパパでも構わないぞ!シモンは、どうだ?あっ、孫たちは儂の事をじぃじと呼ぶように、いいな!!」

 サン侯爵が飛び切りの笑顔で言い切る。


 ミシェルたちがサン侯爵の発言に目を丸くしていると、サン侯爵の隣にいる老婆がサン侯爵の裾を引っ張り、紹介するように催促する。


「そう急かすな。お前達に紹介しておく。彼女は儂の姉だ。」

 サン侯爵の領地にお姉様が一緒に住んでいることを知らなかった父は、焦る。


「お、お初にお目にかかります。シモンと申します。えっと、趣味は釣りです。」

 父が唐突な趣味つきの自己紹介をした。


 家族も続く。

「シモンの妻、エリィと申します。趣味は乗馬です。」

「ロベールです。え、趣味?趣味趣味趣味…綺麗な石集め…です。」

「ミシェルです。趣味は歌うことです。よろしくお願いします。」

 流れるように挨拶をする。


 その光景に老婆は笑いを零す。

「フフッ。私はロラ。趣味はガーデニングよ。ロラさんとでも呼んでちょうだいな。可愛らしい一家がうちに来てくれて、嬉しく思っているよ。これから毎日が楽しくなりそうだ。よろしくね。」

 そこはかとなく厳しそうな雰囲気を隠し持っていそうなロラさんは、そう返した。


 その雰囲気と言葉に一家そろって、

「「「よろしくお願いします。」」」

 と、頭を下げるのであった。


「ずるい~皆、趣味を言い合いおって~儂も言いたい!!だが一つには絞れぬ。う~む、全部言ってもよいかのう?」

「ジョー(ジョゼフの愛称)、それはおいおいにしましょう。家族になるのだから時間はたっぷりあるわ。それよりも、話すべき話を進めましょう。」

 ロラさんが止めに入った。


 仕方ないと言いながら、話を進める侯爵。

 まず、サン侯爵家は代々、国の裏諜報部を束ねる一族であると言う長い話から始まった。


「よって、これから儂の全てをお前達に叩きこむ!!シモン、覚悟しておけ!」

 家令がライトを侯爵に当て、大迫力で言い放つ。

 父の心臓がプレッシャーで跳ねあがった。


 ただならぬ気迫に皆、沈黙する。


「ジョー、おふざけはそのあたりでお止めよ。皆が引いている。虐めるのは可哀相だ。それから、領地の管理だけれど、ジョーがいつまで経っても妻を迎えないから今まで私がしていたの。しかし、見ての通りもうよぼよぼの老婆だし、数年前から腰も痛めて、そろそろ引退したいのよ。エリィ、貴女に全てを教え込むからね。」


「はい。ロラさん!!よろしくお願いします。」

 楽しそうに母は返事をした。

 ロラはその返事に満足し、嬉しそうに微笑む。


「ロベールは、こっちでゆっくりしていていいぞ。王都へすぐに向かうようにとユーグ殿下から言い渡されているけれど、こちらへ長く居ても全然構わないからな。我が領地にもイイ石が沢山あるぞ。見て回るといいぞ。父の後について勉強するのもよいだろう。それから、ミシェル。あなたは姉たちと共にお茶会に参加し学びなさい。彼女達から社交のノウハウを教わるといい。」


「「はい。分かりました。」」

 ミシェルと兄は、サン侯爵の言葉に従う。


 それから怒涛の日々が始まる。



=人物Memo=

ここから主人公ミシェルは、トロワ子爵家からサン侯爵家。

父はシモン、母はエリィ、兄はロベール。


ジョゼフ・ド・サン:サン侯爵。ミシェルのお祖父ちゃんになる。

ロラさん:サン侯爵の姉。サン侯爵をジョーと呼ぶ。


サン侯爵は器用で多趣味。何でもそれなりに巧くこなしてしまうので、特別にコレだという趣味はない。体を動かすのは好き。筋トレは欠かさない。

ミシェル達が来る数日前に、領地で開催された祭の催しで、大樽持ち上げが行われ、侯爵も参加したのだが、壇上で腰を痛める結果となった。

侯爵は足が痛いと嘘を家令に言わせていたが、皆にはその日のうちに嘘はバレた。





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