宮廷舞踏会へのお誘い
週末です。
読んでくださりありがとうございます。
第三王子と久しぶりに会う日。
テラスにテーブル席が用意されており、2人は向き合い着席するとお茶を静かに嗜む。
ミシェルは寝不足により日差しが眩しく感じるようだ。
前回会った時の2人の雰囲気を感じ取っていた母親が、開放的な方が良いだろうと気遣い、テラスに席を用意してくれていた。
「シェリー、その…お、お久しぶりです。お元気でしたか?」
たどたどしく第三王子が聞く。
「……本当にお久しぶりです。近いうちにとおっしゃっていたのに、随分と時間が経っていますね。手紙でも申し上げた通り、私はとても元気に過ごしております。レオン様も見た所、とてもお元気そうで何よりですね。」
ミシェルは、寝不足もあって、イライラしている感情に引っ張られ、皮肉交じりに王子の言葉に答えてしまう。
すぐさま、気を悪くさせたかもと後悔し、内心ハラハラさせるのであった。
その言葉に、何故だか少し嬉しそうな顔をして王子が答える。
「フッ、すみません。ルイ兄上の件で多方面に走らされて本当に忙しくしていたのですが…フ、フフッ。もしかして、シェリーは怒っていますか?私が近いうちに会いに来ると言ったのに来なかったから。それが原因でそのように不機嫌であるならば、私はとても喜ばしいと感じてしまうのでが。」
何やら王子が嬉しそうにニヤついている顔を手で拭うふりをして必死に誤魔化している。
「ふ、不機嫌ではないですよ。でも、近いうちにと言っていたのに、少し時間が掛かったなぁと思っただけですわ!で、でも、やっぱり時間が掛かり過ぎなんじゃないかしら?……あっ!もしかしてこれって、私の気を引こうとする作戦だった?わ、私は寂しかったなんてこれっぽっちも思っていないんだからね!?で、殿下がおっしゃった喜ばしいって、どどど、どういう意味ですか?」
ミシェルは終始アタフタしっぱなしで、顔を赤らめ必死になって返していた。
ハッキリしているわけではないが、心の奥底にある気持ちに、もしかしたらそうなのかもしれないとミシェルは自分でも薄っすら感じ始めていている。
本人は、まだまだそれについては不確定のまま保留にしておきたいようなのだが…。
まだ認めていないこのほのかな気持ちを彼に知られるわけにはいかないのである。
「違います!!気を引く作戦なんかじゃないです。本当に忙しくて来られなかっただけなのですよ。父や兄の陰謀ですから。私だけが幸せを掴んだので、それが気に入らないようで。私は、シェリーには誠実でありたいから、駆け引きなど一切いたしません。喜ばしいと言ったのは…その、私がすぐに来ると伝えておきながら来られなかったから、シェリーは怒っていたのかな?と、良い方向に捉えてしまって。その、シェリーも私に早く会いたいと思ってくれていたのかなぁ~そうならいいなぁ~と。エヘヘ、期待してしまったのです。」
レオン殿下がモジモジしながら話す。
「えっ!?」
そう驚きの声を出し、ミシェルは顔を耳まで真っ赤にした。
自分が王子に早く会いたいと思っていたことに、王子の言葉でハッキリ認識してしまった。
図星をつかれたことに、態度がモロに出てしまう。
それを見た王子が満面の笑みを浮かべた。
「フフッ、私の可愛い婚約者。ねえシェリー、私の願いをひとつ聞いてくれませんか?」
前屈みに少しいたずらっ子のような表情を浮かべて、王子は尋ねる。
「な、内容次第です。」
真っ赤なままミシェルは答える。
「それはですね、明日からシェリーは王都を離れ、王都から馬車で五日もかかる侯爵領へ旅立ってしまいます。つまり、手紙も毎日届けられず、会うことも今よりもっともっと難しくなるでしょう。私は、シェリー不足で寂しい思いをしてしまいます。ですので、約束を取り付けておきたいのです。三月後の宮廷舞踏会に来てくれませんか?」
王子が子犬のような眼差しで、そう言った時、ドアのノック音がした。
王城から遣いが着ていて、王子へ早急に知らせるべく伝言があるそうだと家令が伝えた。
「チッ、少し外します。」
王子が席を立ち、テラスのある部屋のドアへと速足で向かい、ドアを開けた。
ドアの向こうには近衛騎士がいて、なにやら真剣に話をしている。
騎士が話を終えると、王子が強く申しては、騎士がペコペコと頭を下げて食い下がっている。
結構長く小競り合いをしていた。
その光景をミシェルはぼんやりと眺めていた。
自然と彼の姿を目で追ってしまっている自分が居る…。
ミシェルの抱くほのかな感情が決して小さくはないという事を認めざるを得なくなってきている。
冷静に判断しなければならないのに、王子の声を聞くとポッと燃え上がるように熱くなってしまい冷静ではいられなくなる。
これは、そうなのだろう。
だがしかし、まだ認めたくない…認めてはならない。
だって、私は彼のせいで傷ついたから。
侍女の件を思い出せ。
冷静に…冷静に…。
ここ数日の間で、自分はもっと第三王子の事を知りたいと考え始めていた。
毎日手紙のやり取りはしているが、彼には数回しか会っていないというのに、彼に心魅かれているようだ。
そう、信じられないことに異性としての魅力を感じている。
あの日、捕まって話をしてから、まだほとんど日は経っていないというのに、こんな感情を抱くことになるとは。
仲良しの友人にでも話をしたら、呆れられてしまうだろう。
好きって言われたら好きになっちゃうなんて、チョロい、チョロすぎる!と指をさされて笑われるだろう。
それでも、彼の溢れんばかりの愛情が自分に向けられ、囁かれ、叫ばれ、時には優しく気遣う一面をみせつけてくる度に、彼のことをより好ましく感じてしまう。
そんな素敵な彼に、何の感情も持たないでいるなんて、できっこないじゃないですか!!!
イケメン攻撃はずるいです!
自分はどうしたらよいのかを、きちんと冷静に考えなければいけないのにどんぶらこと流されそうになる。
シッカリしなさい、ミシェル!?冷静によと、心の中で慌てて頬を何回叩いたことか。
そうよ、王子が言っていた王宮舞踏会までには、ハッキリと心を決めておかなくてはならないのだから、それまでよく考えるの。
気合を入れ直せ!パァンッ!(頬を叩く音)
「…リー…リー…シェリー!!」
ハッ!?
想いに耽っていた所為で、テーブルへと戻ってきていた王子が、自分の名を呼んでいたことに気が付かなかった。
「もう一度お聞きします。シェリー、受けてくださいますか!?」
その言葉に、ボーっとしていた自分を誤魔化し、ミシェルは慌てて返事をした。
宮廷舞踏会までには彼への想いに答えるかを決めてみせると意気込んで、力強く、王子の目を見返し、宮廷舞踏会への参加する有無を伝えた。
「はい、お受けいたします。」
速攻返されたミシェルの返事に驚いてか、レオンが声を失って固まった。
息を吹き返したレオンがミシェルにもう一度確認する。
「ほ、ほほほほ本当に?本当に?よいのですか!?」
「ええ、もちろん――。」
そうミシェルが首を縦に振り答えている最中に、
「ヤッ、ヤッタァァァー!!」
王子が椅子から立ち上がり、両手を上げすごい勢いで喜んでいた。
宮廷舞踏会へ一緒に参加するのをこんなに喜んでくれるなんて、そこまで私のことを想ってくれているのかと驚き、それと同時に気恥ずかしさに包まれる。
そして、王子のこの想いには、真剣に考えて答えを出さねばいけないなと、もう一度強く心で思ったのであった。
その後すぐに、王子に舌打ちされていたあの騎士が再度、ドアを強くノックした。
催促のようである。
王子が顔を歪め、またまた舌打ちする。
こんなヤンチャな一面もあるのかと、おかしく思う。
その後、陛下に呼ばれているので…仕方ないのです…離れたくない嫌だ…とゆっくり席を立ち、トボトボと王子は名残惜しそうにドアの方へ向かう。
その寂しそうな後姿に、ミシェルも名残長くなり、声を掛けてしまう。
でも、何て言ったらよいか分からない。
「レオ!その…気を付けて。」
ミシェルがレオン殿下を愛称で呼んだことで、レオン殿下はパーッと晴れ渡る表情へと変わり大きく頷くのだったが、またすぐに離れなければならない事を想いだして、肩を落とし、ゆっくり扉へと歩いて行く。
殿下がドアノブに手を掛け、振り返る。
今にも泣き出しそうな潤んだ瞳でこちらを見つめ、手紙を書きますと言い残し、王城へと帰っていくのであった。
また来週。
=Memo=
第三王子レオン(ミシェルにはレオと呼ばれたい)は、ミシェルの事をシェリーと呼んでいる。
彼は、甘いものがそんなに得意ではないのだが、ミシェルが好きなので、腕のいい職人の居る店を国中調べあげている。
いつでも何処でもミシェルとデートに行けるよう、毎日のイメージトレーニングは欠かさない。




