【第三章 満たされた奇跡】
「蓮華っ!?」
陸雲が息をのむ中、眩い光が蓮華の全身を包み込んだ。
頭の先から指先まで、柔らかな金の光が滲み込んでいく。
それは同胞たちが分け与えてくれた、溢れんばかりの生命の輝き。
暗く冷たかった彼女の身体の中に、温かな熱がみちみちに満ちていくのが分かった。
やがて光が収まり、静寂が訪れた。
池の錦鯉たちは、少しだけ誇らしげに悠々と水底へ戻っていき、碧蓮池は静かな水面を取り戻していた。鯉たちの命が奪われたわけではない――自分たちの豊かな生命力を、少しずつ愛おしい妹へ「お祝い」として分け与えたのだ。
「……あ……」
蓮華がぽつりと声を漏らした。
光を宿さず、ただどこか遠くを見つめていたその瞳が、かすかに揺れている。
ゆっくりと、まばたきが重ねられた。
「陸雲……様……?」
「蓮華……お前、まさか……」
蓮華の瞳に、ジワリと涙が浮かぶ。
けれどその瞳は、もう虚無の暗闇を映してはいなかった。
月明かりを反射し、目の前に立つ陸雲の姿を、彼の引き締まった眉を、優しく揺れる瞳を――まっすぐに捉えていた。
「見えます……。見えます、陸雲様……! これが……これが、貴方様のお姿なのですね……っ!」
同胞たちが授けてくれたのは、この世の何よりも尊い「光(視力)」と、病弱だった身体を包む「健やかな生命」であった。
「……ああ……ああ、蓮華……っ!」
陸雲は込み上げる情熱を抑えきれず、蓮華を力いっぱい抱きしめた。
目が見えず、水ばかり呑んでいた哀れな小さな鯉は、もうどこにもいない。
今、彼の腕の中にいるのは、多くの祝福を受け、愛する男の顔を見つめて愛らしく微笑む、世界で一番幸せな人間の少女であった。




