【第二章 不器用な食卓】
その日の昼刻、二人は初めて共に食卓を囲んだ。
運ばれてきたのは、色とりどりの極上の宮廷料理。だが、蓮華は箸を持ったまま、どこかおどおどと身をすくませている。
目が見えない蓮華にとって、広大な皿の上のどこに料理があるのかを把握するのは容易ではない。侍女に助けを求めようにも、冷ややかな視線を意識してか、唇を噛み外へ言葉を出せずにいた。
意を決したように箸を伸ばす蓮華だったが、案の定、器の端に当たり、汁物をこぼしそうになってしまう。
「あ……っ、申し訳、ございません……っ」
顔を蒼白にして身を小さくする蓮華。
その姿に、陸雲の脳裏にあの日々の光景が鮮やかによみがえった。
――目が見えず、餌の位置が分からずに、必死で大量の水ごと「ガボッ」と呑み込んでいた、あの不器用で健気な姿。
(何も変わっていない……。この子は、人間の娘になっても、不器用で愛おしいあの子のままだ)
侍女たちが呆れたように息を漏らそうとしたその瞬間、陸雲は静かに立ち上がった。
「控えていよ。余計な手出しは無用だ」
侍女たちを制すると、陸雲は自ら箸を取り、匙を持ち替えた。
そして蓮華の隣に腰を下ろし、小鉢に小さく取り分けた料理を、そっと彼女の口元へと運んだ。
「さあ、蓮華。口を開けなさい」
「え……? 旦那様、そのような……お手を煩わせるわけには……」
「かつて池の縁で、私はお前に上手く餌を食べさせてやれなかった。それがずっと胸のつかえだったのだ。だから……今度は私に、こうさせておくれ」
陸雲の心からの眼差しを感じ取ったのか、蓮華は頬を染めながら、小さく「はむっ」と唇を開いた。
「……おいしいです。とても……あたたかい」
食事が口に入ると、蓮華の顔にぽっと花が咲いたような笑みがこぼれた。
その笑顔を守るためならば、朝廷のいかなる思惑も、周囲の冷眼も、すべて撥ね退けてみせると陸雲は強く心に誓うのだった。




