【第三章 定められし縁】
恋と、鯉。
少女が消え去った静寂の中で、男は初めて、己の胸を焦がしていた感情の正体を知った。
あの子の不器用な姿に心を痛め、逢いたくて何度も池に通い詰め、姿が消えたと知って泣き崩れた涙。それは単なる同情などではなく、まぎれもなく一匹の錦鯉に捧げた、生涯でたった一度の「恋」であったのだ。
それから間もなくして、男のもとに一族の長老から婚姻の話が舞い込んだ。
「婚姻のお相手は……隣国の重臣の娘。盲目にして年端も行かぬ少女との事でありますゆえ……」
「何を言われる! 俺の心には、あの子しかいないのだ! この婚姻、なんとしても断ってくれ!」
食ってかかる男に、長老は重々しく首を振る。
「そうも参りませぬ! この縁組みは帝と朝廷からの強いお達し。断れば我が一族は断絶、路頭に迷うことになりますぞ!」
政略の波に呑まれ、抗うことのできない現実。
どれほど立場を押し付けられようと、胸の中のあの子を裏切るような真似だけはしたくない――男は悔しさに唇を噛み締めながら、冷え切った心で祝言の日を迎えた。
恋と、鯉。
少女が消え去った静寂の中で、男は初めて、己の胸を焦がしていた感情の正体を知った。
あの子の不器用な姿に心を痛め、逢いたくて何度も池に通い詰め、姿が消えたと知って泣き崩れた涙。それは単なる同情などではなく、まぎれもなく一匹の錦鯉に捧げた、生涯でたった一度の「恋」であったのだ。
それから間もなくして、男のもとに一族の長老から婚姻の話が舞い込んだ。
「婚姻のお相手は……隣国の重臣の娘。盲目にして年端も行かぬ少女との事でありますゆえ……」
「何を言われる! 俺の心には、あの子しかいないのだ! この婚姻、なんとしても断ってくれ!」
食ってかかる男に、長老は重々しく首を振る。
「そうも参りませぬ! この縁組みは帝と朝廷からの強いお達し。断れば我が一族は断絶、路頭に迷うことになりますぞ!」
政略の波に呑まれ、抗うことのできない現実。
どれほど立場を押し付けられようと、胸の中のあの子を裏切るような真似だけはしたくない――男は悔しさに唇を噛み締めながら、冷え切った心で祝言の日を迎えた。




