↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/10

【第三章 定められし縁】


恋(こい)と、鯉(こい)。

少女が消え去った静寂の中で、男は初めて、己の胸を焦がしていた感情の正体を知った。

あの子の不器用な姿に心を痛め、逢いたくて何度も池に通い詰め、姿が消えたと知って泣き崩れた涙。それは単なる同情などではなく、まぎれもなく一匹の錦鯉に捧げた、生涯でたった一度の「恋」であったのだ。

それから間もなくして、男のもとに一族の長老から婚姻の話が舞い込んだ。

「婚姻のお相手は……隣国の重臣の娘。盲目にして年端も行かぬ少女との事でありますゆえ……」

「何を言われる! 俺の心には、あの子しかいないのだ! この婚姻、なんとしても断ってくれ!」

食ってかかる男に、長老は重々しく首を振る。

「そうも参りませぬ! この縁組みは帝と朝廷からの強いお達し。断れば我が一族は断絶、路頭に迷うことになりますぞ!」

政略の波に呑まれ、抗うことのできない現実。

どれほど立場を押し付けられようと、胸の中のあの子を裏切るような真似だけはしたくない――男は悔しさに唇を噛み締めながら、冷え切った心で祝言の日を迎えた。

恋(こい)と、鯉(こい)。

少女が消え去った静寂の中で、男は初めて、己の胸を焦がしていた感情の正体を知った。

あの子の不器用な姿に心を痛め、逢いたくて何度も池に通い詰め、姿が消えたと知って泣き崩れた涙。それは単なる同情などではなく、まぎれもなく一匹の錦鯉に捧げた、生涯でたった一度の「恋」であったのだ。

それから間もなくして、男のもとに一族の長老から婚姻の話が舞い込んだ。

「婚姻のお相手は……隣国の重臣の娘。盲目にして年端も行かぬ少女との事でありますゆえ……」

「何を言われる! 俺の心には、あの子しかいないのだ! この婚姻、なんとしても断ってくれ!」

食ってかかる男に、長老は重々しく首を振る。

「そうも参りませぬ! この縁組みは帝と朝廷からの強いお達し。断れば我が一族は断絶、路頭に迷うことになりますぞ!」

政略の波に呑まれ、抗うことのできない現実。

どれほど立場を押し付けられようと、胸の中のあの子を裏切るような真似だけはしたくない――男は悔しさに唇を噛み締めながら、冷え切った心で祝言の日を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。