番外編8 アヒル隊長、出動!
「カピ……?」
攻撃をやめ、俺はいったん距離を取る。
すると巨大カピバラは。
「カ、カピバラッ!」
戦闘不能寸前から、おそらく根性で起き上がった。
なるほど、土壇場の馬鹿力か。いいガッツだ。
やはりお前は、強敵だ。
だからこそ、ここで確実にしとめる!
俺はパンダ頭のまま、濡れバスタオルを奴へと向ける。
「カピバァァ……!」
そのとき、巨大カピバラが大きく息を吸い込む。
なんだ、さっきの泡ブレスを放とうとしているのか?
そう予測した俺が身構えた瞬間――。
「カピバラァァ――!」
すさまじい水圧の熱湯が、俺に向かって一直線に噴射された。
「なにィ!?」
ここに来て、ガチの殺傷力がある攻撃だと!?
とっさに俺は木の桶(結界魔法つき)で熱湯を防いだ。
そのまま巨大カピバラは、熱湯を薙ぎ払うように噴射していく。
高水圧の熱湯が岩に直撃し粉砕。蒸気が発生し、サウナのような蒸し暑さが辺りを包む。
どこを狙っている――。一瞬だけ気が抜けた俺だが、すぐにその目的に気づいて声を上げた。
「……っ! 危ない、逃げろ!」
熱湯の噴射は三人の少女、黒乃とアンリと理子のほうへと向かっていた。
やろう、最初からそれが狙いか。
「くっ」アンリがその身を挺して黒乃たちをかばおうとする。
だめだ。生身であれを食らったらひとたまりもない。
その直後、理子が動いた。
「推しのため、助手ちゃんとアンリ様はわたしが守る! フォースシールド!」
魔力の壁だ。半透明の光の障壁が、高水圧熱湯を防ぐ。
だが、すぐに理子は両腕を突き出した体勢のまま、苦悶の表情を浮かべ始めた。
「うぅ……威力がつよすぎる……もう持たない」
珍しく見せる、理子の切羽詰まった表情。
それを見た俺は、すぐに手近にあった道具を拾い上げて援護を試みる。
「くそっ。ケロリンシールド・遠距離モード!!」
手に取ったのはカエルの描かれたプラスチック製の桶だった。
俺はそれを理子の目の前に向かってフリスビーのように投げて、直後に防御魔法を発動して熱湯の威力を弱める。
「た、助かった……さすがは推しの科学兵器」
ついでだ。
もう一つのカエル桶を拾い上げて、今度は巨大カピバラへと投げつける。
「ケロリンシールド・アタックモード!」
乱反射しながら巨大カピバラへと襲いかかる桶。
もちろん、雷魔法の属性付与つきだ。
「カピィ! バラッ!」
> あの形状だと、あんなふうに飛ばないだろ
> このチャンネルでまともに考察してたらキリがないぞ
桶による攻撃でさらに怒り心頭といった様子の巨大カピバラが、俺のほうへと迫ってくる。
そうだ。お前の相手はこの俺だ。
「さあ、そろそろ決着をつけようか……カピバラ!」
「ッピバラァ!」
カピバラの魔物は巨大な腕を振り上げ、俺に向けて振り下ろしてくる。鋭い爪による攻撃だ。もはやなりふり構わないといった感じだな。だが。
「遅い」
パァァン!
濡れバスタオルを高速で振るうことで、俺はそれを弾き返した。
「カピッ?」
「まあ……このタオルも、もちろん科学兵器。衝撃吸収機能のついた、なんかすごいバスタオルだ」
> 体拭くための道具じゃないの?
> 良い子はマネしないように
もはやコメント欄はツッコミの嵐だ。
まあ、たしかに今回はいつも以上に無理がある言い訳だと思うよ、うん。
「パンダくん!」
黒乃が俺を呼びながら、魔力を集中させていく。
すさまじい魔力量だ。黒髪といっしょにバスタオルがひらひらとなびき、綺麗な脚がちらりと見える。
「私が魔法で動きを封じるから、その隙にやっつけて……!」
「……っ! わかった!」
もう一度、巨大カピバラの爪を濡れバスタオルで弾き返しながら、俺は応える。
すると、直後に黒乃が魔法を完成させた。
「断罪の鎖――チェイン・オブ・エクスキューション!」
巨大カピバラの周囲の空間に、六つの穴が生じる。穴の向こうにあるのは漆黒の闇。それはまるで、深淵の入り口にも似ていた。
その闇の中から六本の鎖が伸び、巨大カピバラへと絡みつく。
ジタバタともがいても、鎖がジャラジャラと音を立てるだけでびくともしない。
あの怪力を押さえ込むとは、すごい拘束力だ。隙を作るどころか、これだけで勝負が決まってしまったんじゃないか?
「今だよ、パンダくん!」
「ああ。よくやった、助手」
黒乃が頑張ったのだから、期待に応えるしかないな。
俺は風呂に浮かんでいる一匹のアヒルのおもちゃを手に取り、それを巨大カピバラへと突き出す。
握ると「プピィッ!」と可愛らしく鳴いた。
「カピバラ?」
「プピィ! プピィ!」
「カピバラー!」
「プピィ!!」
おっと。会話させている場合じゃない。
「食らえ。我らがアヒル隊長の一撃!」
> アヒル隊長かよw
> お風呂に浮かべて遊ぶやつ
> 科学兵器だろ
> 誰が持ってきたの?
俺はこのアヒルのおもちゃ――アヒル隊長をひときわ強く「プピィ!!!!」と鳴かせる。
そして……。
「ほとばしれ、虹の閃光――ゼオ・クルーガー」
小声で呪文を宣言。
直後、アヒル隊長のクチバシの先端に光で形成された幾何学模様の魔法陣が出現――。
すさまじい威力の光線が発射され、巨大カピバラに襲いかかる。
ビィィィィィ――ッ!!!!
「カピバラァァァァァァ――ッ!!!!」
極太ビームにさらされた巨大カピバラは、断末魔とともに吹き飛んで岩壁に激突。
そのまま落石に巻き込まれて、完全に埋まってしまった。
――――。
巨大カピバラを埋めた岩山は、ぴくりとも動かない。
一息ついてから、俺はカメラへと向き直る。
「というわけで、今回の俺たちの秘密兵器、アヒル隊長の超出力粒子砲だ。最新科学の粋だぞ」
> いや……これはさすがにさぁ……
> ……科学のちからってすげー……




