番外編6 入浴! 混浴!? ダンジョンの秘湯
岩の上に荷物を置いた俺たちは、お風呂用の道具だけを抱えて、温泉のそばに集まった。
「ね、ねぇ……本当に私たちが温泉に入っているところも配信するの?」
黒乃の言葉に、理子が答える。
「当然。視聴者はそれを望んでいる……わたしも腹をくくる」
そういう理子自身も、少し頬を赤く染めていた。
なんだかんだで、いっしょに動画に登場することになった彼女も恥ずかしいのだろう。
「それに、心配はいらない。『湯けむりモザイク』のプラグインをカメラに設定しておいた」
またカメラに妙な設定を加えたのか。
今までの理子のカスタマイズは、だいたいがよい方向に働いていたからいいけど。
とはいえ何をしたのかは把握しておかなければまずい気がするので、いちおう尋ねておく。
「なにその愉快な名前のプラグイン」
「わたしの自作プログラム。いろいろと危ないときは自動的に湯けむりでガードしてくれる」
「ほんと、すごい技術だな……」
「推しのためなら、努力は惜しまない」
理子が満足げに「むふーっ」とドヤ顔をする。
すると黒乃が細い肩を落としながら、観念したように言う。
「じゃあ、私も覚悟を決めるよ……。そこの岩の陰で服を脱いでくるから、覗かないでね」
「わかった。じゃあ俺はそっちで待ってるから。三人で入ってくるといい」
俺の言葉に、黒乃は首をかしげた。
「え、真――パンダくんは?」
「俺は後で入るよ」
「ふぅん……」
なんで不満そうなの?
すると、今度はアンリが口を開く。
「師匠……いっしょに入られないのですか?」
「……逆に、いっしょに入るつもりだったの?」
「え、えっと……はい。そうなるかと思っていました」
え、その前提で来てたの?
「いや、ここで混浴はいろいろとまずいだろ」
年頃の男女が裸でという倫理的な問題もあるが、何より俺がリスナーに殺されそうだ。
と思っていたのだが、黒乃がまさかの一言を発する。
「うん……私は、その、構わないから……」
「なにが?」
黒乃は頬を染めながら、上目遣いで俺を見つめる。
「パンダくんといっしょでも」
マジで?
それに理子も肯定を示す。
「同意。わたしも、推しといっしょなら大丈夫。むしろいっしょに入りたい」
「そこに羞恥心とかはないの?」
「推しは特別……」
どうやらここでは、俺は完全にアウェイらしい。
そのときのコメント欄は――。
> パンダ死ね
> 爆発しろ
……やっぱり理子に頼んで罵声くらいはブロックしてもらおうかな。
◆
なんだかんだで押し切られて、俺もみんなといっしょに入浴することになった。「一人で待たせるのは悪いから」と三人の女性陣が気を遣ってくれたらしい。
とはいえ、さすがに同じ場所に入浴するのはよろしくないわけで。広い温泉の真ん中に、人の背丈以上ある大岩があったため、俺はその岩を挟んで反対側に一人で入ることにした。
それでも、同じお湯の中に、バスタオル一枚の姿になった少女たちがいると思うと――。
「パンダくんもこっち来ていいのに」
「いや、無理だって!」
理性が持たない。
ちなみに、特に聞きたくもないと思うが、俺は腰にバスタオルを巻き、パンダの頭をかぶった姿で入浴している。
> うほっ、いい筋肉
> パンダ様の肉体美……素敵です
> パンダじゃなくて女性陣を映せよ
助手たちを映せというのは、ごもっともな意見――というか、なんでパンダの裸で喜ぶやつがいるの?
今は温泉の脇に小型ディスプレイを設置し、みんなが配信の様子を見られるようにしている。
もちろん、俺のパンダ頭に内蔵されたディスプレイでも見ることはできる。
それらの画面に流れるコメントに気づいたらしい、理子がおずおずと言う。
「リスナーはわたしたちの……主に助手ちゃんとアンリ様の入浴姿を所望」
「え、待って。私、まだ心の準備が……」
「わ、わたくしも……」
「それは待っていられない……えい」
理子がカメラドローンを操作して視点を変更したらしい。
配信画面が、三人の少女を映し出す。
――――。
「……っ」
想像以上の破壊力に、俺は声を抑えるのがやっとだった。
お湯でのぼせたように、くらりとする。
際どいところまで露出している、彼女たちのなめらかな肌。バスタオルに覆われても、華奢な体はほのかに凹凸がわかる。いつもと違う、まとめ上げられた髪の毛。
そして、濡れたバスタオルからわずかに覗く胸の谷間。
> うひょおおお!
> 眼福、眼福
> 助手ちゃんたち、綺麗すぎない……?
> 美しい
高速で流れるコメント欄。
それを見た黒乃が立ち上がり、少しだけカメラへと近づく。
「あはは……こんにちは〜」
やばい。
お湯から立ち上がったことで、綺麗なふとももが限界ギリギリまで露出する。さらに手を振ったことで、健康的なわきの下も――。
そして、胸やふとももの付け根が必要以上に見えそうになると、すかさず『湯けむりモザイク』が隠す。
それがむしろ……なんというか……。
「こ、この湯けむりモザイクっていうの、なんだか逆に恥ずかしいんだけど……」
黒乃の意見に、アンリも同意する。
「わ、わたくしも……」
> なんか、えっちなビデオみたい(直球)
ほんとに直球だなおい!
まあ、俺もいろいろと限界寸前ですよ。入浴中にこれはやばいですよ。
「むぅ……不評だった。調整する」
バスタオルのまま温泉から上がり、岩の上でノートパソコンを操作し始める理子。
カメラには映っていないが、俺の位置からは彼女の姿が見えてしまう。そしてバスタオルの下から、いろいろと見えそうだった。
俺は顔をそらして、できるだけ見ないようにする。
正直、のぼせて倒れそうだった。
◆
「気持ちいいね〜」
「そうですね、先輩」
黒乃とアンリが温泉に浸かりながら、身を寄せ合ってつぶやく。
俺は勇者の精神力で心頭滅却しながら、ぼーっと動画を眺めている。
お湯は気持ちいいが、これでいいのだろうか?
「最近、ずっと慌ただしかったから……こうしてゆっくりするのは久しぶりかも」
黒乃の言葉に、アンリが苦笑しながら。
「カメラは回っていますけどね」
「うぅ……せっかく忘れてたのに」
恥ずかしそうに言う。頬が朱に染まっているのは温泉の熱だけが原因ではないだろう。
> ここが天国か……
> 俺、Testing_Roomをここまで見守っててよかった
> パンダを映して
どうやらリスナーには好評らしい。お色気効果で、同接数もかなりの数になっている。
しばらくすると、女性陣は風呂から上がって、互いに背中の流し合いを始めた。
その間、カメラは俺のほうに向いている。
きゃっきゃっとはしゃぎ合う少女たちの音声だけを聞きながら、地味な裸パンダの映像を映すとは、なんとも言い難いシュールさだ。一部の人にとっては拷問かもしれない。
> ああああ、女性陣を映してくれぇぇ!
> ここで、なんでパンダを映すんだよぉぉ!
> 俺は声だけでもいける
> わたしは……パンダ様のお姿が見られればそれで……
> パンダの筋肉
コメントの様子がおかしいな。
まあ、これで俺も落ち着いて入浴に集中できる。
黒乃やアンリ、理子のはしゃいでいる声をBGMに、俺はのんびり温泉に浸かる。
ああ、気持ちがいい。
理子が現れてから振り回されっぱなしだけど、なんだかんだ来てよかったな。
騒がしいけど、こんな日々も悪くない。
そんな感じで、俺たちがダンジョンの秘湯を満喫して、油断し切っていたとき。
ずしーん! ずしーん!
と、巨大な音と地響きが巻き起こった。




