表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
32/40

番外編1 テコ入れが必要です

 学校帰りの夕方。

 俺は白銀の少女騎士アンリとともに、黒乃の家を訪れた。

 相変わらずの豪邸。小綺麗に片付いた部屋。そこで黒乃と三人、制服姿のままで、次の配信の打ち合わせをしている。


「最近、配信動画が伸び悩んでいるわ……」


 重々しく口を開いたのは黒乃だ。サイドだけリボンで軽く結った長い黒髪がさらりと揺れる。


「いまだに、新宿大深淵での配信の同接数を超えられていないのが現状だもん」


 新宿大深淵の攻略配信。数万人の命がかかった戦いを繰り広げた、俺たちのチャンネル『Testing_Room』の最大の配信だ。


「……さすがに、あのときを越えるのは……すぐには難しいだろ」

「でも、年間トレンド大賞まであと少し……やれることはやっておかないと」


 年間トレンド大賞。Sランク探索者を目指していた俺たちにとって、重要なイベントではあったのだが。


「……べつにトレンド大賞狙えなくても、このぶんなら正攻法でSランク認定してもらえそうだし……俺は無理に配信しなくてもいいんだけどな」

「……真央くん、私たちと配信するの、いや?」


 黒乃がそう言うと、アンリも。


「わたくしも、師匠とともに配信活動を続けたいです」


 黒乃とアンリが、上目遣いで俺のほうへと身を寄せる。

 ――美人二人に詰め寄られると、さすがに圧が強い。

 濃紺のシングルブレザーの胸元で、前屈みになった二人のネクタイがわずかに揺れる。

 というか、すっかり慣れてしまったけど、俺は女子二人といっしょに女子の部屋にいるんだよな。……そう思うと、十分に広いはずのこの部屋が、なんだか狭く感じた。


「まあ……俺も、この活動は楽しいと思っているし……やっぱり好き……だと思う」


 だから、続けるのは決して嫌じゃない。俺のポリシーには反するけど、できれば末長く、黒乃やアンリと馬鹿なことをやっていきたいと思う。


 俺の言葉を聞いた二人は安堵したように、うれしそうな表情を浮かべた。


「それじゃあ、アンリ、真央くん。これからの配信のこと、いっしょに話し合いましょう! やっぱり私はコンテンツのテコ入れが――」


 黒乃が本題に入りかけたそのとき、屋敷のインターホンのチャイムが鳴った。


「黒乃、誰か来たんじゃないか?」

「そうみたい。私、何か通販とか頼んでたかな?」


 少し間をおいて、セバスチャンこと爺や、こと使用人の老人が部屋の扉をノックして開いた。


「黒乃お嬢様。お客様でございます」

「え、私に?」

「はい。左様でございます。……真央様やアンリ様だけでなく、他にもお嬢様にお友達がいらっしゃったとは……! この爺や。感激で涙が止まりませぬ!」

「……っ、もう!」


 苦笑する黒乃。

 本当にファンキーな爺さんだ。

 そこで、扉から一人の小柄な少女が「ぴょこん」と顔を出した。

 セーラーブレザーにエンジ色のリボン。うちの中学の制服だ。ライトブルーとピンクの髪色がまぶしい。


「来ちゃった」

「きみは……御影? どうしてここに?」


 御影(みかげ)理子(りこ)

 その正体は、我らがスポンサーとも言える高額スパチャの重課金リスナー、ミミズク。


「理子って呼んでほしい」

「……理子。どうしてここがわかったんだ?」


 いたずらっぽく言われて、俺は思わず言い直した。

 すると、御影理子は満足そうに微笑む。


「……以前のメン限配信で、アンリ嬢のピカピカの鎧に、一瞬だけ窓の外の景色が反射していた。それを8K画質にアップコンバートして、映り込んだ山並みの稜線と、配信マイクが拾ったこの地域特有の野鳥の鳴き声を照合。特定は簡単だった」

「いや、特定班ほんと怖いな!?」


 廃課金リスナー、ミミズクこと理子。彼女は危険すぎる。

 どう考えても、俺たちの日常を壊す存在だ。

 もうこうなったら、彼女は野放しにするより、共犯者として仲間に引き入れたほうがいいのではないだろうか。

 アンリも同じようなことを思ったのか、俺に耳打ちする。


「師匠、この子を放っておいて大丈夫なのでしょうか?」

「……どうかな。大丈夫じゃないかもしれない」


 銀髪の少女の息が耳にかかって、ちょっとくらくらとした。

 そんなことを話していると、理子がまた口を開く。


「Testing_Roomの最近の配信……チャンネル登録者数と同接数が伸び悩んでいることを、あなたたちは懸念している。ちがう?」


 すると黒乃が「そうそう」と肯定した。


「さすがは理子ちゃん。古参リスナーだね。その通りなんだ……だから話し合って対策を考えなくちゃと思って」

「ふむ。そんな私の推しであるTesting_Roomのために、今日は企画を持ってきた」

「企画?」

「そう。企画」


 理子は俺たちに印刷された資料を配る。

 そこに書かれていたタイトルは――。


「湯けむり、Testing_Room温泉配信」


 そう読み上げる理子の平坦な声に、俺たち三人は唖然とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ