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第28話 割れた仮面


 魔王の側近にして、勇者の宿敵。

 黒騎士イシュトヴァーンの豪剣が俺に襲いかかる。


「くっ……!」


 上段からの一撃を、俺は魔法で強化した鉄パイプで受けた。

 衝撃で、黒水晶の床や壁に振動が走る。

 俺は相手の力を殺し切ることなく受け流して、なんとか一撃を(しの)ぐ。


> あの大剣の攻撃、相当な威力だぞ

> 頼む……人々のために、勝ってくれTesting_Room……!


 攻撃が途切れた隙に、俺は辺りを見回したが、どうやらこの空間に深淵核(オリジン)はないようだ。

 ――おそらく、この大深淵のボスである黒騎士が深淵核を取り込んでいるのだろう。だとすれば、奴を倒さないと解決にはならない。


「ガァァァァァ――ッ!」


 黒騎士が立て続けに剣を振るう。

 俺はギリギリで鉄パイプで受け流すが、その直後――黒騎士の剣の軌跡に合わせて空間の裂け目が生じる。


「……次元ごと斬り裂く剣、か」


 時間差で襲いかかる次元の裂け目。それを完全には躱し切ることができず、俺のパンダ着ぐるみが切り裂かれていく。


 厄介だ。防戦一方で勝てる相手ではない。

 ならば、こちらも全開で行こう。


「行くぞ……ギガ・アステリア!」


 掲げた鉄パイプを避雷針にして、落雷が巻き起こる。

 轟く雷鳴。黒騎士の豪剣にも負けないくらいの、すさまじい衝撃。

 俺の剣がまばゆく光り、雷の力が宿った。


> 出た! 鉄パイプの真の力!

> スタンバトンだろ

> 新宿大深淵のボス、パンダなら勝てるか……?

★【ミミズク】(¥50,000)これを待っていた。


 勇者の雷光の剣――などではなく、パンダの雷の鉄パイプだが、(とむら)いはこれで我慢してくれよ……黒騎士イシュトヴァーン。


 俺の繰り出す雷光の一撃を、黒騎士は次元すら斬り裂く大剣で受ける。

 勇者の雷光と深淵の暗闇がぶつかり合い、しのぎを削る。


 そこから何度も、俺たちは武器を打ち合わせた。まるで、舞い踊るように。

 この剣の技の冴え。一撃の重さ……やはり間違いない。こいつは黒騎士イシュトヴァーンだ。


 深淵の闇に蝕まれた剣が、俺のパンダ着ぐるみを引き裂いていく。

 逆に俺の鉄パイプは黒騎士に決定打を与えられないでいた。


 幾度目かの打ち合いの後、俺と黒騎士は互いに距離を取った。

 体勢を立て直すか。そう考えた瞬間、黒騎士は肩の上に大剣を担ぎ、刃の切っ先をこちらに向けた。


「あの構えは……!」


 深淵に染まったイシュトヴァーンが、「オォ……!!」と、かすれた声で雄叫びを上げる。

 直後、必殺の一撃が放たれた。

 鋭く、重い黒騎士イシュトヴァーンの最大の攻撃。

 それを受けたボロボロの鉄パイプは、ついに半ばから真っ二つにへし折れた。


> スタンバトンが!

> 鉄パイプ先輩!!

> 危ないぞ、パンダ!


「ちっ」


 俺は跳躍して距離を取ろうとするが、そこへ黒騎士が追撃する。

 闇の波動をまとった剣を縦に大きく振るい、発生したすさまじい衝撃波が俺を襲った。


「ぐあッ!」

「パンダくんっ!」


 その衝撃波をギリギリのところで避け切れず、パンダ着ぐるみが引き裂かれる。


 着ぐるみの頭部分は吹き飛んで木っ端微塵になり、体部分も半分ほど持って行かれている。

 もはや素顔を隠す効果のなくなったパンダの着ぐるみ。相棒ともいえるそれを、俺は脱ぎ捨てた。

 ありがとう、パンダ。お前は俺の身バレを防ぐという役目をしっかりと果たしてくれた。


 代わりに俺は片目用のバイザー型のディスプレイを装着し、そこにコメント欄を表示させる。


> え、中身イケメン?

> 放送事故

> もはや顔バレを気にしている状況じゃないだろう

> パンダの中の人が出てくるの初めてじゃないか?


「……悪かったな、イシュトヴァーン……ここからは、本気の勝負だ」


 イシュトヴァーンにそう告げた後、装着したバイザーに流れていくコメント欄を視界の端で見ながら、俺は宣言する。


「そして、視聴者諸君。見ていてくれ。ここからは科学じゃない……魔法(オカルト)の時間だ」


 俺は右手を高く掲げた。

 ありったけの勇者の魔力を集中させると、まばゆいほどの光が手のひらに集まっていく。


「天星剣グランシャリオ」


 手に馴染む、確かな柄の感触。それを強く握りしめる。

 視界を覆っていた光が晴れると、俺の手には一振りの剣が握られていた。

 深淵の闇を払いのける、澄み切った星の輝き。


 かつて、前世の俺が使っていた剣――勇者ジェノの聖剣。


> なんだ、あの剣は

> 画面が震えてる

> すさまじい覇気だ。あれが、Testing_Roomのパンダ……?


 剣を手に黒騎士の巨躯へと向かい合う。

 すると、そのとき――奴の虚ろな瞳に、かすかに理性の光が灯った。


「オ、ア、ァァ……お前は……勇者、ジェノか……? 我が……宿敵よ」


 まだ自我があるのか。

 だが、それも長くは持たないだろう。真眼で状態を確認しても、イシュトヴァーンの魂は、そのほとんどが深淵に飲み込まれてしまっている。

 ならば。

 俺にできることは、ただ一つだけだ。


「そうだ。……遅くなってすまないな、友よ。勇者が弔いに来たぞ」


 あの日の戦いの再演。それをもって手向けとする。

 負けられない。この戦いには、数万の人の命がかかっているのだから。


「グォォォ――ッ!」

「行くぞ、イシュトヴァーン!」


 勇者と黒騎士。星の力を宿した聖剣と、深淵に蝕まれた魔剣が、ぶつかり合う。

 その衝撃は深淵の魔城を揺らし、この空間そのものを震わす。きっと配信の画面越しにも伝わっていることだろう。


 俺のバイザーに表示されている時刻では、戦略級魔法が放たれるまで、残り二分。


 全力で剣を打ち合う中で、部屋の隅から黒乃の声が聞こえる。


「私……感じるの。この胸を突き刺すような痛み。……あなたとの記憶……きっと、魔王ヴェルヴェットの魂を通じて」


 視界の端で、黒乃がふらつきながら立ち上がる。


「……真央くん……」


 儚いほどに静かな少女が、必死に叫ぶ。


「お願い、その騎士を……解放してあげて!」


 その声が、かつての魔王ヴェルヴェットと重なる。

 すると、暴走していた黒騎士の魔剣が、一瞬だけ震えて止まる。

 大剣を弾き返した俺は、微笑みながらうなずいた。


「ああ。任せろ」


 安心してくれ――。

 俺と天星剣は、絶対に負けない。

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