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第18話 小さなハイキング!

 俺と黒乃とアンリは、電車を乗り継いで行った駅のそばにある、町外れのバス停で待ち合わせをした。

 俺たちTesting_Roomと、Aランク探索者であるアンリエット・N・白崎のコラボ配信をするため。

 今日の目的地は、山中の河辺にある『清流の洞窟ダンジョン』だ。電車からバスに乗り換えた上で、少し歩く必要がある。ちょっとした山登りだ。


 黒乃とは最寄り駅で合流できたから、あとはアンリだけ。

 晴れた空。草木を揺らす風を浴びながら、俺たちが電車を降りてバス停へと向かっていると。


「あ、師匠! それに黒乃先輩!」


 白銀の少女が、こちらに気づいて小さく手を振った。

 ほんの一瞬だが、俺はそれがアンリではない別人だと錯覚してしまった。

 理由はその服装にあった。上品な刺繍が施された白のブラウスに、紺色のロングスカート。シンプルかつ清楚なコーディネート。なんだか物腰も柔らかく見えて、鎧姿の勇ましさとのギャップに少しだけドキリとした。


「アンリ!」黒乃もつられて手を振る。


 俺たちが近づくと、アンリは胸元に手を当てて丁寧に一礼した。


「本日は、お誘いいただきありがとうございます」

「よろしくな、アンリ」

「はい、師匠。ご指導よろしくお願いします」


 改めて彼女のほうを見る。鎧を着込んでいない、楚々(そそ)とした姿に、油断すると、思わず目が奪われてしまう。


「……私服は、また雰囲気が違うな」

「あ……はい。なんだか恥ずかしいです」

「いや、恥ずかしいことはないさ。その格好も似合ってるよ」

「ありがとうございます。……師匠も……その……パンダ姿でない素顔、とても素敵です……」


 アンリはうつむいて頬を染める。なんだか俺まで恥ずかしくなってきた。というか、何を言っているんだ、俺は。

 そんな二人のやりとりを、黒乃が交互に眺めて首をかしげる。


「んー?」

「なんだよ、黒乃」

「べつに……なんか空気が甘いなって」


 なんだその表現は。からかうような黒乃と、うつむいたまま顔をさらに赤くしているアンリ。

 そんな二人のやり取りに、俺は少しだけ頬をかいた。


 そうして合流した三人は、ちょうど時刻表通りに来たバスに乗り込んで目的地へと向かう。

 二人がけの席の窓際に黒乃が、通路側に俺が座り、通路を挟んで反対側の席にアンリと、彼女の持ってきた大きな荷物が置かれた。


「それにしても、すごい荷物だね」

「これですか?」


 アンリは隣の席を占領した登山用の大きなバックパックに手で触れる。その隣には、細長い袋に入った棒状のもの。こちらは、おそらく槍だろう。


「ダンジョン攻略用の装備でございます。鎧と兜、それに盾が入っています」

「そっか……アンリは重装備だから大変だね」

「ええ……まあ……」


 アンリはちらりと俺のほうを見る。


「師匠のように最低限の装備で戦えればいいのですが……。このような重装備に頼るわたくしはまだまだです」

「いや、俺の真似はしないほうが……」


 言いかけて、俺は口をつぐんだ。

 うぬぼれかもしれないが、彼女は本気で俺のことを信じて、見習い、技を盗もうとしているように思えた。一挙手一投足を見逃すまい、言葉のひとつひとつを聞き逃すまいと。

 だから、代わりにこう答えることにした。


「……アンリは、そのままでいい。そのままがいい」

「そのまま……ですか?」

「ああ。アンリの重い装備は、強くなろうと試行錯誤してきた証だ。味方の盾となって戦い、困難を貫く覚悟そのもの……なのだと、俺は思う」


 アンリが、俺の言葉を反芻するように小声で繰り返した。

 そして、はにかみながら小さく微笑む。


「だからさ……アンリはそのままがいいよ。手を抜かず、目の前のことを全力で乗り越えていくのが、強くなる一番の方法だからさ」


 まあ、こんなふざけたパンダが言っても説得力は皆無だが。


「ありがとうございます。師匠。……なんだか自分に自信が持てました」


 晴れ晴れとしたアンリにつられて俺も微笑んだ。

 すると、黒乃がまた俺とアンリを見比べるように交互に視線を向けて。


「むー……」

「どうした?」

「……後輩に対する嫉妬心と闘ってるの」

「……なんだそれは」


 黒乃の言うことは、たまによくわからないが……。そんな感じで、俺たちはバスに揺られて目的地を目指した。


 ◆


 目当てのバス停に到着した俺たちは、バスから降り、そこから徒歩でダンジョンへと向かう。

 変わらず空は晴天。自然豊かな景観。目的地であるダンジョン近くまで舗装された古い道路が続くが、気分はちょっとしたハイキングだった。

 雰囲気は和やか。

 女子二人が会話に花を咲かせている中、俺はほとんど無言だったが、気まずさはまったくなかった。まあ、俺を挟んで会話しているから、ときどき二人が身を乗り出してくるのは、さすがにドキリとするが。いろいろと。

 話題はもっぱら、お互いのプライベートについてだ。


「それにしても、アンリも同じ学校だったなんて、びっくりだよ」

「そうですね。わたくしも驚きました。黒乃先輩は、最近こちらに()して来られたのですよね?」

「うん。だから、学校(こっち)のこと、まだぜんぜんわからなくて。真央くんは知らなかったの? アンリみたいな有名人が学校にいるって」

「興味なかったからな。俺みたいなモブには必要のない情報だ」

「モブ……ですか?」

「あ、アンリは気にしなくていいよ。いつもの真央くん(ぶし)だから」


 アンリも最初こそ緊張した様子だったが、だんだんと俺と黒乃に打ち解けてくれていた。


 そうして二十分ほど歩いて、俺たちは目的地に到着した。

 そそり立った岩壁を穿(うが)つように発生した洞窟。正確には鍾乳洞。

 その入り口の前にある岩に腰かけて、三人で打ちあわせを始めた。

 それから数分後。


「じゃあ、そろそろ配信の準備をしようか」

「うん!」「はい!」


 打ち合わせが一区切りついたところで、俺たちは機材をセットし、黒乃の持ってきた小型カメラドローンを起動した。


「では、わたくしは鎧に着替えて参ります」


 アンリは俺たちに一礼すると、バックパックを持って岩陰のほうへと向かった。


「真央くん」

「ん?」


 ぼーっとそれを見送っていた俺を、黒乃が呼びかける。


「誰か来ないように、見張っていてあげたら?」

「……そうだな」


 たしかに、屋外で装備を着替えるのは、いろいろと大変だろう。俺はアンリのいる岩のそばまで行って、いちおう見張っておくことにする。

 すると、黒乃が少し含み笑いをしながら言う。


「真央くん」

「……今度はなんだよ」

「覗いちゃダメだからね?」

「覗かねーよ」


 すると、岩陰にいるアンリが小さな声で言う。


「わ、わたしは……真央師匠になら、少しくらいは……」

「だから、覗かねーって!」


 何やら爆弾発言をしていた気がするが。

 そんなこんなでアンリは鎧に着替えて、戦乙女の装いになった。

 俺もパンダ着ぐるみを着込んで、準備は完了。

 いよいよ清流の洞窟ダンジョンに突入する。配信開始だ。

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