第14話 パンダ勇者、快進撃!
遺跡のダンジョンの奥へ。砂埃にまみれた石畳を進んでいくと、またも俺たちは魔物に遭遇した。
今度はオーガよりも巨体、ずんぐりした体躯の巨人と、簡素な杖を持った魔術師風のゴブリンたちだ。
「相手はトロールとゴブリンシャーマンです。行けますか、天馬さ……いえ、パンダさん」
律儀にパンダと呼んでくれるアンリに、俺は答える。
「問題ない。また、科学の力を見せてやるよ」
「……お手並み拝見いたしましょう」
俺が前に出ると、ゴブリンシャーマンたちが甲高い耳障りな声で呪文を唱え始めた。
「ここはアレを使うか……助手!」
「はい、パンダくん!」
黒乃が差し出したアイテムを、俺は受け取って構える。
> どう見てもビニール傘だろwww
> いま一瞬だけ映った手は、助手ちゃん?
> 手きれい
「絶対防御アンブレラ、展開!」
バサッ!
俺はその先端をゴブリンシャーマンたちに向け、実にアナログなボタンを押して、ビニール傘を開く。
直後。
ドォォォンッ! という強烈な爆音が連続して響き渡った。
あらかじめ展開していた結界魔法が、ゴブリンシャーマンたちの放った超圧縮された炎の塊から、俺と傘を守る。
「ファイアボールを防ぎました!」黒乃がうれしそうに解説する。「あれが最新アイテム、電磁反発式・絶対防御アンブレラです!」
それを見たアンリは、困惑した表情を浮かべる。
「あれも……最新アイテムの力……? しかし、これは……」
俺はドヤ顔でカメラのほうへと振り返った。まあパンダ頭だから表情は伝わらないが。
その直後、背後から迫っていたトロールが――。
くしゃみをした。
「――ぶおおおおんっ!!」
「うわっ」
その豪風により、俺の持つビニール傘が裏返ってラッパ型になる。
「あ、最新シールドが壊れた……」
俺がつぶやくと、コメント欄が爆発する。
> おちょこになったw
> 絶対防御シールドじゃねぇのかよ!
> ファイアボールは防げるのに、くしゃみは防げない最新シールド
★【ミミズク】(¥10,000)新兵器、思わぬ弱点が露呈。しかし耐熱性は確か
まあ、ビニール傘は破壊されてしまったが、そんな感じで俺たちは問題なくトロールどもを倒すことができた。
★
巨大な地下遺跡をさらに奥へと進むと、今度はトロールが三匹現れた。
ずんぐりした巨体が複数。見るだけでも、すごい圧迫感だ。
耐久力が高く怪力だが、素早さは遅い。
さて、何を使って倒そうか。
「パンダくん、これ!」
黒乃が俺に二本の短い棒状のアイテムを投げてよこす。
どうやらリクエストが入ったようだ。
俺はその二本の棒を、両手で交差するように構えた。
「出ました! 最新アイテム『高指向性レーザーブレード』です!」
黒乃の解説に、俺が補足する。
「ボタンを押すと属性が変わる、最新式だ」
俺がボタンを押すと棒は光り出し、もう一度ボタンを押すと色が変わる。
はい。この棒の正体は、アイドル応援用のペンライトです。
「……じゃあ、今回は炎属性と氷属性でいくか!」
右手を赤、左手を青にペンライトの色を設定し、両方まとめて属性魔法を付与する。
かたや紅の炎をまとい、かたや蒼き冷気をまとった、アイドル応援用ペンライト。
そして直後。
トロールが振り下ろす巨大な棍棒を飛び退いて躱し、その勢いのまま、俺は流れるような動きでペンライトを振り回して反撃する。
繰り出される炎と氷の無数の打撃。
薄暗い地下遺跡の中。赤の軌跡が炎の尾を引き、青の軌跡が冷気の霧を撒き散らす。それはまるで、暗がりに咲いた、美しくも危険な光の演舞だ。
> 美しい剣舞……?
> いや、違う。これは……
「オラオラオラオラ――ッ!」
右! 左! 右! 左! ドルフィン! ロザリオ! ウィンドミル!
俺は赤と青のペンライトを振り回し、愚鈍なトロールたちに猛攻を浴びせる。
なんだか楽しくなってきた。
俺は舞い踊るようにして、二刀のレーザーブレードを振りまくる!
「フッフー! ウリャ、オイ! ウリャ、オイ! イエッ、タイガー!」
> オタ芸でトロールを斬り刻んでる
★【ミミズク】(¥50,000)華麗な体捌き、見事
> レーザーブレードじゃなくてキ◯グブレード
> タイガー! ファイヤー!
> うおおおお! 俺の、俺の、パンダー!
> パンダの動きの機敏さおかしいだろ
「L・O・V・E・ラブリー、パンダ!」
いつの間にか黒乃もサイリウムを取り出して舞い始めていた。
その隣でアンリが碧眼を揺らしながら、呆然とこちらを見つめている。二本のペンライトを手に暴れ続ける俺を。
「美しい……」
つぶやいたその言葉が聞こえたのか、黒乃が首をかしげる。
「アンリ?」
「あ、いえ……」
かくして、トロール三体を一方的に倒した俺は、二人のもとへと戻る。
「終わったぞ。……どうした?」
無言のまま、俺をじっと見ているアンリに問いかける。
すると、彼女は少し赤くなりながら目をそらした。
「な、なんでもありません」
「そうか? ……じゃあ、先に進もうか」
そろそろネタもなくなってきたし……。
「早いとこ、試験を片付けたい」
照れたように顔を背けていたアンリが、気を引き締め直すように深呼吸した。
真摯な表情を俺たちに向けながら、彼女は告げる。
「わかりました。……先に進んでください。この先で、最後の試験を行います」




