第12話 その美少女はアンチ?
「とにかく認められません! あんな……パ、パンダが……」
銀鈴のような綺麗な声で、白銀髪の少女が叫んだ。
しっかりと背筋を伸ばした、凛とした立ち姿。整った顔だち。年齢は俺たちと同じくらいだろうか。背中には身の丈ほどの長槍を背負い、左腕にはコンパクトな中型盾を装備している。まるで神話に出てくる戦乙女のような隙のない出で立ちだ。
受付で、何やら揉めているようだが――。
パンダ?
パンダといったら、もう無関係ではいられない予感がする。
「あのような奇怪な着ぐるみがAランク探索者など、言語道断です!」
…………。
やべぇ、アンチだ。
状況を察した俺はとっさに隠れようとするが。
そのとき、黒乃がトンッと一歩前へと踏み出した。
「痴れ者がッ!」
抗議の声に負けないくらい声を張り上げる黒乃に、俺も白銀の少女もビクリと肩を震わせた。
「控えよ! 白と黒の愛らしい姿を奇怪と申すか。かの崇高な魅力を理解せぬとは、貴様の目は節穴か!」
ここでお前がキレるのかよ!
自らアンチのヘイトを稼ぎにいってどうする!?
「な……なんという威圧感」白銀の少女が、黒乃の放つ異様なプレッシャーにわずかに怯む。「その声……もしや、あなたたちがパンダの着ぐるみの配信者なのでは?」
うっ。勘がいいな、こいつ。
そこでハッと正気に戻った黒乃が、まるで人形のようにぎこちなくギギギ……と、おそるおそる俺のほうへと振り返る。
「ま、真央くん……どうしよう……」
いまさら何言っているんだ、こいつ。
上目遣いの涙目で見てくるのが、やっぱりかわいいから調子が狂う。
周囲を見回すと、まだ人は少なく、ロビーに設置された椅子から三人ほどこちらをチラチラと窺う者がいるくらいだ。
仕方がない。俺の後ろに隠れてしまった黒乃の代わりに、銀髪少女へと返答する。
「……そうだ。俺たちがTesting_Roomの配信者だ。……いちおう、顔出ししていないスタイルだから、声を低めてもらえると助かる」
その言葉に、白銀の少女は少し慌てながら。
「あ。し、失礼しました。わたくしも配慮に至らず……」
おや。意外と話が通じるかもしれない。
なんて思ったのだが。
「しかし、わたしはあなたたちのことを許容できません……。あんなふざけた配信……最新アイテムとおっしゃっていますが、どうせトリックです。何か裏があるに決まっています!」
やっぱり話し合いが通じるかどうかは微妙かもしれない。
というか、そもそも最新アイテムというのは嘘っぱちなのだから、圧倒的に俺たちのほうが悪だ。それに関しては何も言い返せない、というのが正直なところ。
「そんなあなたたちが特例でAランクなど……」
「『許容できない』と。……そう言われてもな。実際にギルドからは認められているわけだし」
軽く肩をすくめると、白銀の少女は「ぐぅ」と悔しげに歯噛みした。
そうこうしているうちに、ロビーにだんだんと人が増えてきた。もちろん皆、俺たちのほうを注目している。
くそぅ……俺は極力、目立ちたくないのに。
白銀の少女も声を抑えてくれてはいるが。もし今の会話を誰かに聞かれていて、ネット上で俺たちの情報、パンダ着ぐるみの正体なんかを言いふらされでもしたら、洒落にならない。
そうして睨み合っている――というより、俺が一方的に銀髪の少女に睨まれていると、受付の奥から一人の男が近づいてきた。
年の頃は三十代といったところか。少し長めの赤髪。着ているのはスーツではなく私服ではあるが、フォーマルに寄せたファッションの、洒落た格好をした男だった。
「それなら、俺から一つ提案がある」
「あなたは?」
俺が疑問を呈すると、白銀の少女がそれに答えるように言う。
「柳田支部長……!」
支部長。ということは、このギルド支部で一番偉い人間ということか。
発するオーラのようなものに、自然と俺の背筋も伸びる。――黒乃はさらに縮こまって震えている。
「おう。アンリ。お前は少し真面目すぎるんだよ。今のご時世、多様な配信スタイルがあって然るべきだ」
「しかし……」
柳田と呼ばれた男が、俺たちに微笑む。
「まあ、ここじゃあなんだ。とりあえずお前たち三人、支部長室に来てくれ」
◆
ギルドの支部長室。さまざまな賞状やトロフィーが飾られていて、なんとなく学校の校長室を連想させる。
また、その他に美しい装飾が施された武具も飾られていたが、おそらくダンジョンで収集された魔法の品だろう。
クラスメイトから深窓の令嬢とも称される黒乃は、もはや小動物のように小さく大人しくなってしまっている。彼女の性格的に、たぶん、先ほどの自分の言動を後悔して思考がぐるぐると回転しているのだろう。
執務机に設置された椅子に腰掛けた柳田支部長は、俺たちにもパイプ椅子を勧める。
その席に着く前に、白銀の少女ことアンリが声を上げた。
「支部長、どういうおつもりなのですか。このような、その、色物に……飛び級の昇格試験を認めるなど」
「たしかに、彼らは色物かもしれないな」
まあ……それは俺も否定はできない。
パンダの着ぐるみをまとってダンジョンに挑み、鉄パイプを始め日常品で戦闘をする探索者など、イレギュラー以外の何者でもない。
「だがな、アンリ。彼らのその実績は本物だ。Testing_Roomのお前たちも、Cランクのダンジョンではもはや手応えもないだろう」
俺はうなずいた。
というか、手応えとかそういう問題ではない。
「はい。俺たちには、ここですぐに昇格しなければならない理由があります」
「理由……ですか?」
きょとん、とアンリが首をかしげる。
そうしていると、彼女は思ったよりも幼く見えた。
「……人助けだよ。それ以上は言えないが」
「…………」
投げやりにそう言うと、アンリの険しかった目元が、ほんのわずかに揺らいだ。
すると、二人を交互に見比べた柳田支部長が、パンッ! と、ひとつ手を叩いてから言う。
「二人の言い分はわかった。……ならば、俺に提案がある」
「提案とは?」
今度は俺とアンリがそろって首をかしげると、柳田支部長は不敵な笑みを浮かべた。
「そうだ。今回のAランク昇格試験のクエストは……アンリ、きみが試験官を担当するといい」
直後。予想外だったその言葉に、「ええっ!?」という俺とアンリの驚きの声が重なった。




