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蒼き月夜の鎮魂歌  作者: 蒼月さくら
13/14

十二

「はぁ…最近、忙しすぎて外に出てないな…」

 仕事に一区切りを付け、雪月花に隣接されている大衆食堂に向かいながら俺、ウルフィラス・シュリットはため息を吐いた。数多あるギルドの中でも美味いと評判がある雪月花の大衆食堂は十三時を過ぎても人の出入りが多く、見覚えのある雪月花の隊員や冒険者が情報交換したり食事を摂ったりしている。

「ん? 珍しい事もあるんだな…」

 食堂の窓際…太陽の日差しがよく当たる場所に見覚えがある蒼銀の青年が見えた。俺の愛弟子、桜架の契約精霊フェアトリークのラクスヴィエト。桜架と同じで人の多い場所が得意じゃないコイツが一人で食事も珍しい。

 俺は注文した天かすと葱、磯のりが練り込まれた蒲鉾が入ったうどんと二、三種類の天ぷらが乗った皿をトレーに乗せ、ラクスヴィエトが座っている席に向かい、話し掛けた。

「今から昼?」

「なかなか区切りが付けなくてな。前、座るぞ」

「明日から二、三日ははかどるんじゃないか?」

「また無理したのか、あいつ」

 ふぅ…と疲れた風に溜め息を吐くとラクスヴィエトははぐはぐとカスクートを食べ進め、手に付いたソースを舐めて不満げに言う。

 桜架は特殊任務専門部隊のエース。そして俺の補佐でもある。書類仕事を頼めば、とても分かりやすく纏めてくれるから大いに助かるのだがそれだけの為に傍に置いているわけではない。桜架が求める兄の行方と何年も前から様々な組織に寄生し暗躍する犯罪者、斧研狂羅の情報があいつの耳に入りやすいようにする為だ。

「桜架は精霊に関わると感情的になる。それが亡霊ラルヴァに堕ちたモノでも」

「桜架にとって精霊は家族に等しい存在ものだからな。良くも悪くも優しいんだよ」

「あんたも似たようなもんだろ。ぁ、そうだ」

「ん?」

「桜架、学校に行くのか?」

 急なラクスヴィエトの問い掛けに危うくうどんを吹くところだ。あの人、何で本人じゃなくてラクスヴィエトに渡してんだ?

「取り敢えず、コレ食ったら説明がてら俺も桜架のとこに行くから待ってろ」

「分かった」

 何とも面倒なコトを押し付けられた気がして俺は、はぁぁ…と魂の抜けそうな溜め息を吐いて食事を再開した。



「ん…」

 ぽかぽかと暖かな日差しとふわりと香る甘い匂いに俺は目を覚ました。掛けた覚えのない掛け布団と毛布を見るかぎり、どうやら渚翔が戻ってくるまでの間に眠ってしまったらしい。

「起きたかよ。ったく…寝るなら寝るで掛け布団くらい掛けて寝やがれ」

「待ってたら寝落ちてたんだよ。さんきゅ、ナギ」

 素直じゃない心配の仕方に思わず俺はクスクスと笑う。よく休めたお陰か倦怠感も熱っぽさもない。これなら明日には内勤で師匠の手伝いくらいは出来るだろう。俺は少しはだけた着流しを直して渚翔がいるダイニングに向かう。

 テーブルには季節の果物をふんだんに使った丸い形のパンケーキ…ではなくフレンチトースト。ふんわりと盛られた生クリームに甘い匂いの正体はコレかと合点する。

「てめぇのだ。昼間、あまり食ってなかったからな。もう少ししたらラクスヴィエトとウルフィラスさんが来るらしいが…二人が来るまでいた方がいいか?」

「ん、平気。息苦しさも怠さもないし。つか、何で師匠?」

「さぁな。読めそうな本はそこに置いてるが程々にしろよ。ついでにてめぇの好きそうな本も持ってきたから興味あんなら息抜きがてら読んでみたらいい。じゃな」

「おー…今日はありがとな」

 見送りをする前に鍵を使って姿を消す。

 以前まえは気心が知れた仲とはいえ客人なのは変わりないと見送りをしていたが、いつしか見送りをしなくなった。理由は色々あるけど渚翔が鍵を使いだしてからはそれが堅調になった気がする。

 元々、客人だからと無理矢理、見送りをしていただけだから別に構わないしナギが休みの間は顔を会わすこともあるけど何となく嫌だ。

「…あいつが長男で兄貴だからかな。つい、甘えたくなるの」

 カフェに出せるんじゃなかろうかと思うような可愛らしいフレンチトーストに舌鼓を打ちつつ苦笑いする。生クリームもフレンチトーストも甘いけど一緒に添えてある苺や夏みかんの程好い酸味で調和している。

 俺は頼る事も甘える事も苦手だ。そのわりに保護された頃はクロノスやリリィ姉さんにベッタリで傍を離れようものなら大泣きしていたし師匠にも何かと甘えていたらしくそのベッタリが落ち着いたのはラクスヴィエトに出会ってからと聞いたけど、保護された頃の記憶は朧気であまり覚えていないし胡蝶や月詠の屋敷にいた頃の記憶も所々抜け落ちている。

 覚えているのは大きな中庭に咲くとても大きな桜と薄暗い座敷牢、様々な色の蝶が舞う屋敷。腫れ物を扱うかのような使用人と忙しくても気に掛けてくれる父。そして自分の修練で大変なのにバレたら罰せられるのは自分なのにこっそり秘術と胡蝶である証まで付けてくれた兄、紫架あすか

 ほとんどは過去夢とクロノスや師匠が俺を連れて両家へと赴き照らし合わせた記憶。月詠は俺が行ってもあまりいい顔はしないけど胡蝶は父が生きているということもあってそれなりに歓迎はされる。相談役のジジイ達が鬱陶しいから長期滞在はしたことないけど。でも、雪月花じゃ出来ない鍛練が出来るし父さんに会えるから行くのは好きだ。

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