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月明かりだけの部屋に浮かび上がる
雄輔さんの姿は、さくら堂書店で見る
いつもの愛想のいい店員の顔ではなく
見知らぬオトコの顔だった。
「あんなに可愛かったのになぁ。」
「何のことですか・・・・」
嫌な予感がする。
「ほんとに覚えてねーの?思い出させてやろうか?」
暗がりの中、雄輔さんは手にしたペットボトルのキャップを
くいっとあけると、一口、口に含んだ。
「あの・・・・・・」
思わず一歩下がろうとしたあたしの腕を
雄輔さんはグイッと掴む。
あっという間だった。
一瞬何が起こったか分からないくらいの早さで
お茶があたしの口の中に流れ込んでくる。
気付かなかったけど、
とってものどが渇いていたらしく
あたしは一気にごくりと飲み込んだ。
そんなあたしを、雄輔さんはじっと見つめていた。
少し口もとに流れたお茶を
手の甲でぬぐう姿に少しドキッとする。
非日常の、月明かりだけの空間で
あたしは、夢を見ていたんだろうか。
そのまま、甘く口づけされて
とろけそうになっていた。
「何もかも忘れさせてやるから。」
そんな言葉を耳元でささやかれて
口移しで何度か流しこまれたお茶と共に
あたしの心の中に雄輔さんが
いつの間にか入りこんできた瞬間だった。
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まぶしい・・・・・
カーテンの隙間から朝日がめいっぱい差し込んでる。
窓に背を向けると、
目の前に大きな壁があった。
いや・・・・壁じゃないな。
だって動いてるし。
「おはよう。」
ほら、しゃべってるし。
・・・・・・・!
なんなのよ!これは!
こんなまぶしい朝日の中で悪夢なんて
冗談じゃないって。
あの、甘い夜の時間は夢じゃなくて現実だったとか?
冗談でしょ!
綺麗すっきりアルコールの抜けた頭で
あたしは、思いっきりパニックになっていた。
誰か夢だって言って!
お願いだから!




