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第四章①

来る錦景春の球宴、もといハッピィ・チェリィ・フェスタの四月三十日は日曜日で、その一日前の土曜日の四月二十九日はウタコの十八回目のバースデイであり、朝から球宴の準備と共に、生徒会の認可を得ずに、前夜祭が始まるのであった。火蓋を切るのは軽音楽部。明日、野球をやる大事なグラウンドに仮設ステージを金曜の夜から建て、そこでライブをやるのだ。このゲリラライブは伝統であり、様々な女子が観客として集合する。錦景女子でない女子も集まる。他校の男子も見に来る。ゴールデンウィークを持て余している大人たちも見に来る。彼、彼女たちは一様に傘を持って見に来る。

 錦女の空はロンドンの曇り空。

 そしてライブが始まると雨が降る。

 コレも伝統だ。

伝統は揺るがない。

 仮設ステージには立派なビニルの屋根。

 オープニングアクトは軽音楽部の新人バンド。

 コレクチブ・ロテイション。

 午後五時十二分。

 ゲリラライブは三十二分押しで始まった。

 オープニングSEは「チキチキバンバン」。

 まずは、ドラムス、鏑屋リホが笑顔で登場。少し緊張しているのが分かる。当然だ。彼女はまだドラム歴二週間だ。

 そしてベース、生徒会長黒須ウタコの登場。その登場に会場はざわつく。そのざわつきにウタコはガムを噛みながらニヤニヤしていた。

 コレクチブ・ロテイションにリズム隊はいない。リーダのアプリコット・ゼプテンバが気に入るベースとドラムが軽音楽部にいなかったからである。そういうことを部長に言って大喧嘩になって再び軽音楽部に解散の危機が訪れた。ゼプテンバは「私が育てる」と言って鏑屋を無理矢理引き込んだ。鏑屋が小学生の頃に鼓笛隊で小太鼓を叩いていた事実をゼプテンバに言ったらすぐだった。ベースはエイコに頼もうとしたが断られた。ゼプテンバは久納ユリカにベースをやれと怖い目で言った。しかし当然、たった二週間そこらでステージ上で演奏できるレベルになれるわけがない。歌いながらなんて到底不可能な話である。そのことを久納はウタコに伝えると「じゃあ、私が弾いてあげようか?」という訳で、サポートメンバ生徒会長が実現したのだった。

 ステージ衣装は赤ジャージ。

 三年生のカラーは青だが、ウタコも赤ジャージだ。久納の赤ジャージである。

 ゼプテンバが袖からステージへ出る。歓声が上がる。彼女はすでに片言の日本語を話す、ミステリアスな留学生ギタリストとして女子の人気を博していた。ゼプテンバはそちらの方には目もくれず早足で自分のギターがあるところへ向かう。チューニングを済ませ、ジャカジャカと音を鳴らして、マイクに向かって流調な日本語で言う。「よくきたぁ!!」

 大歓声。

 チキチキバンバンが鳴り止む。

 久納は袖でステージに出るタイミングを窺いながら、心臓が破裂しそうだった。

さて。

 一曲目。

「ゴールドフィッシュにうってつけの春!」

 ゼプテンバがマイクに叫んでイントロを鳴らす。

 久納はステージに飛び出た。

見上げた空から。

 本当に雨が降ってきている。


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