第4話 AIに「バズる方法」を聞いた
翌朝、直人は目を覚ますと、真っ先にスマートフォンを手に取った。
昨夜の投稿には、通知が溜まっていた。
いいね、コメント、フォロー。
いいねの数は、千を超えていた。
「……すげえ」
思わず声が出た。
これまでで一番の反応だった。
コメント欄には、共感の言葉が並んでいた。
『付き合いを断ってまで節約できるの、本当に尊敬します』
『こういうブレない人になりたい』
『自分も友達との飲み会を断って貯金します!』
直人は一つずつ読んだ。
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
昨日、友人から届いたメッセージを思い出す。
『今度こそ来られる? みんな会いたがってるよ』
その下には、まだ返信していないメッセージが残っていた。
直人は入力欄を開いた。
『ごめん。最近ちょっと忙しくて。また誘って』
そこまで打って、手が止まった。
また誘って。
その言葉を送れば、相手はきっと、また誘ってくれる。
次も、その次も。
そして自分は、きっと同じ理由で断る。
直人は文章を消した。
代わりに、昨夜の投稿をもう一度開いた。
千を超えるいいね。
自分の選択を肯定してくれる、千人以上の人間。
会えなくなった友人たちの人数は、数えていなかった。
直人はAIを開いた。
「俺のやり方、間違ってないよな?」
AIはすぐに答えた。
「設定した目標が貯蓄額の増加とアカウントの成長であるなら、現在の方法は一定の成果を上げています」
「だよな」
「ただし、目標の達成と、生活全体への満足度は別の指標です。人間関係を維持したいのであれば、交流のための時間や予算を確保する方法もあります」
「それは分かってる」
直人は少し強い口調で答えた。
「でも、全部は無理だろ。時間も金も限られてるんだから」
「すべてを同時に最大化することは難しい場合があります。ただし、どの目標を優先するかは、あなたが決められます」
「……そうだな」
直人は会話を閉じた。
AIは間違ったことを言っていない。
それが、少しだけ腹立たしかった。
スマートフォンが震えた。
新しいコメントだった。
『直人さんを見て、自分も変わろうと思いました!』
直人はそのコメントに「いいね」を押した。
そして、次の投稿の下書きを開く。
タイトルは、もう決まっていた。
『人付き合いを減らして分かった、節約のメリット5選』
箇条書きの一つ目に、直人はこう書いた。
『無駄な出費が減る』
二つ目。
『自分の時間が増える』
三つ目まで書いて、少し考えた。
――本当に増えたのは、自分の時間だっただろうか。
指が止まった。
けれど、直人はその疑問を消した。
投稿の下書きに、余計なことを書く必要はない。
画面の隅では、フォロワー数がまた一人分増えていた。
直人は微笑み、四つ目の項目を打ち込んだ。
『周囲に流されず、自分の目標に集中できる』
投稿を保存する。
これで、明日も更新できる。
友人への返信は、まだしていない。
直人はスマートフォンを伏せた。
千人以上が、自分の選択を認めてくれている。
それなら、きっと大丈夫だ。
そう考えた直人は、もう一度だけ画面を裏返し、いいねの数を確認した。
――本当は、誰に認めてほしかったのか。
その問いだけは、投稿の下書きに入らなかった。




