7話 僕に友達が出来た日。
サムソンと仲良くなった。
そりゃーもう命(?)を救ってもらったようなモノだし?
彼は一文無しの僕らに与えられた家の隣の住人だ。
体格はガッチリしてるが、かなり若い。ひょっとしたら、僕と同じ10代かもしれない。
「おーい、ユーキ! 風呂行こうぜー」
昼下がりの庭先から、サムソンが親しげに声をかけてきた。聞けば、この村には広くて素晴らしい露天風呂があるらしい。
マジか。異世界の田舎最高だな! スライムの粘液まみれになった体をさっぱり洗い流せるなんて、至高の贅沢だ。
僕が歓喜していると、隣でツンとした顔で皿を磨いていたリアが、冷たく遮るように手を振った。
「お引き取りください、サムソンさん。この家には現在、不燃ゴミ(主人)と私しかおりません。『ユーキ』なんていう、システム未登録のバグみたいな名前の人間は存在しませんよ」
「僕の名前だよ!!」
僕が全力でツッコミを入れると、リアは持っていた皿を落としそうになりながら、目を丸くして僕を凝視した。
「な……っ!? ご主人様の名前は、『ゴ・シュ・ジンサマ』ではなかったのですか!?」
「なわけねーだろ! どんな部族だよ! ユーキが本名だよ!」
「……騙しましたね。まさか身近な人間から、そんな悪質なネームロンダリングを仕掛けられていたなんて……。私の純真なメモリに対する深刻な詐欺行為ですわ。今すぐ精神的損害賠償を要求します!」
「なんで僕が名前を名乗っただけで犯罪者みたいになってんだよ!」
僕たちのギャーギャーとしたやり取りを気に留める風もなく、サムソンはリアに向かって屈託のない笑顔を向けた。
「あんたも風呂行くか? 広くていいぜ!」
「え、い、いえ……私は……っ」
急に話を振られたリアは、さっきまでの勢いが嘘のように、おどおどしながら僕の後ろに一歩隠れた。
やっぱりこのエルフ、内弁慶である。
しかし、サムソンの「広くていいぜ」という言葉に、ピクリとエルフの耳を動かす。
「……ちょっと待ちなさい。広い、露天風呂……? まさか、それって……いわゆる『混浴』という仕様なのでは…?」
サムソンはきょとんとして首を傾げた。
「こんよく? なんだそれ」
「ですから! 男の人と、女の人が、一緒に風呂に入ったりするのかと……!」
「え? ああ、そうだけど……当然だろ?」
「――ッ!?」
リアが顔を真っ赤にして絶句する。
そして僕の脳内には、勝利のファンファーレが鳴り響いた。
(異世界混浴キターーーー!!!!)
夢にまで見たボーナスステージ! これぞファンタジーの醍醐味!
僕のテンションが最高潮に達した瞬間、背後から世界が凍りつくような絶対零度の眼差しが突き刺さった。
「……ご主人様。今、過去最高レベルに汚らわしい欲望のバグが顔に滲み出ていますわよ」
リアは完全に引きつった目で僕を睨みつけていた。
「私は絶対に行きませんからね!ご主人様のような倫理観がログアウトした男と同じ湯船に浸かるなんて、衛生上のエラーが起きますわ! 私は大人しく、家で厳かにお皿を磨き続けます! さあ、早くその不純なログイン欲求と一緒に退場してください!」
「誰が退場だ! よしサムソン、行こうぜ!」
冷たい拒絶すら、今の僕のワクワク感を止めることはできない!
僕はタオルを片手に、足早に露天風呂へと向かった。
到着した脱衣所は、木造りの素朴な壁で囲まれていた。
「ここで服脱いで入るんだ」
サムソンが手慣れた手つきで布切れをパージしていく。
全裸だ! 本当に全裸で露天風呂に入るんだ!
異世界の開放感に胸を躍らせながら、僕も服を脱ぎ捨て、湯気が立ち込める湯殿への扉を開けた。
おお……! 目の前に広がるのは、豊かな自然に囲まれた素晴らしい岩風呂。お昼の心地よい光が、白く煙る湯気と混ざり合って、最高の雰囲気だ!
湯けむりの向こうには、先客らしき人影がいくつか見えた。ゆらゆらと揺れる、たしかに誰かがいるシルエット。
(おお……! ついに僕の異世界ライフにも、一筋の光明が……!)
期待に胸を膨らませ、お湯に浸かりながらその人影に近づいていく。
湯気が、ふっと晴れた。
「お、ユーキ! こっちの湯加減、最高だぞ!」
「ガハハ! スライムのヌルヌルが綺麗に落ちるわい!」
そこにいたのは、浅黒い肌をテカらせた、見覚えのあるガチムチの村人たち(全員全裸)だった。
そうだよな!
さっきスライムに服溶かされてヌルヌルになったの、全員男だもんな!!
知ってた!!!!
ご主人の評価:不燃ゴミ




