46話 僕とコンプライアンスを気にする神様。
「みな無事だな? あの岩の向こうだ」
魔王が、岩の扉を顎でクイッと指し示した。
「待って! 今度こそちゃんと休憩しよう!? ラスボス戦だよね!? そもそも国王軍とかどうなったの!?」
「ふむ。準備は必要か。いいだろう。ルビー」
「はぁい。んしょ」
ルビーさんが自分の胸の谷間から、ドカンと巨大な丸テーブルを取り出した。
僕が目を擦って自分の正気を疑っている間に、ルビーさんは胸から大量の椅子を次々とポップさせて置いていく。……どうなってんだその胸は!? ドラ○もんか!?
「すっげえなその胸! どうなってんだ!?」
「あ、触ります?」
「あぶねええええええ!!!」
僕は身を挺してサムソンを抱きかかえて止めた。あぶねえ! サムソンがサキュバスの毒牙にかかるところだった!
ミントちゃんが椅子にちょこんと座り、丸テーブルの上に手をかざした。
──ヴンっ。
テーブルの上にホログラムのような映像が浮かび上がる。そこには、迷宮を突き進み、洞窟の魔物たちを片っ端からしばき倒していく国王軍の姿が映し出されていた。
「おおーっ!」と歓声を上げる一同。
「国王軍……今54階。ほとんど立ち止まらずに進んでる」
「さすが国王軍でござるな!」
「このダンジョンは初心者用だからね。70階くらいまでは大した敵は出ないよ」
シエルくんがメガネをクイッと押し上げる。
「いや、そろそろ邪神の尖兵とかち合うぞ」
魔王が顎クイで示した映像の中で、異変が起きた。
明らかに強そうな、不気味で巨大な漆黒のスケルトンナイトの大群と鉢合わせる国王軍。
ズガァン!
一瞬で国王軍の前衛が吹き飛ばされた。指揮官と思われる綺麗な女騎士が、剣を構えて一人で孤軍奮闘し始める。
「あっ、あの人危ないよ!」
ラフェちゃんが悲鳴を上げる。
「本当ですわね。このままだと、ここに『くっ、ころせ!』が映し出されて気まずい空気が流れるかもしれませんわ。ミントさん、チャンネルを変えましょう」
「どんな配慮をしてんだよ!!!」
ミントちゃんは少し考えると、無表情のままテーブルの上の画像を切り替えた。
画面いっぱいに映し出されたのは、日向ぼっこをしながらゴロゴロ転がる可愛い黒猫の映像だった。
『にゃ〜ん……』
「「「「「(かわい〜……)」」」」」
一同の顔に、ほっこりとした和やかな笑みが浮かぶ。
「いや、変えるのかよ!!! そんな気遣いいらねーよ! 国王軍の映像に戻せよ!!!」
「……。……アニメ化に影響するかもしれないから……」
「なんのコンプライアンスだよ!!! アニメ化のオファーなんて来てねーよ!」
校長が白髭をしごきながら、ゴホンと咳払いをした。
「ともかくじゃ。邪神のしもべたちは国王軍が相手をしているうちに、儂らが邪神を倒すのじゃ。そうすれば、奴らは消えるじゃろう。……消えるじゃろ?」
「そこ、急に自信なくすのやめてもらえる!?」
「いや、邪神との接続が切れれば配下は消える。扉から出ている腕2本を何とかして扉を閉め、封印すれば終わりだ。倒す必要すらない。まあ、倒せるなら倒してもいいがな。簡単だろ?」
「じゃあ……俺らが……がんばる……しか……な……い……な!」
チーザーが胸を張っているが、膝と腰がガタガタと生まれたての小鹿のように震えている。
ふと横を見ると、うさ耳双子が相変わらず「怖いわ……怖いわ……」と口では言いながら、1脚の椅子の上で狭そうに抱き合ってイチャイチャしていた。
コイツらはいつも通りだな……。一番メンタルが強くて最後まで生き残りそうだわ。
ルビーさんが胸をポンと叩いて、先生らしくキリッと声を張り上げた。
「大丈夫ですよみなさん! 私が防御魔法をガチガチにかけます! そうそう死なないので、あ、万が一死んでも私がなんとか生き返らせますから! 魔王さまとユーキさんを信じて戦いましょう!」
う、ルビーさんがめずらしくまともな教師みたいなことを言い出した。あ、そういえばこの人、特別講師だったわ。
「「「「「おーーーっ!!!!」」」」」
ルビーさんの言葉に、みんなの士気が一気に高まる。
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「よし、そこの岩をスライドしろ」
魔王の指示に従い、僕はドキドキと鼓動を高鳴らせながら、岩の扉を数センチだけ静かにスライドさせた。
隙間から、中をそーっと覗き込む。
────。
僕は静かに岩を元の位置へと閉めた。
そして、振り返ってみんなの顔をゆっくりと見回す。
重々しく、静かに深々と頷いた。
「どうしよう。腕、6本に増えてるぅ」




