40話 僕の特訓。
ざわつく教室の中、ルビーさんが僕の方を向いてにこりと笑った。
「あ、大丈夫ですよユーキさん」
「何が!?」
「私がちゃんと、『ここは私に任せて先にいけ!』ってヤツやりますから!」
ガッツポーズと共に、たわわな胸が揺れた。
男子全員の視線が、揃って上下した。
なんでこの人、ひとの心の中読んでるの!? ていうか、いやそれ、ただその死亡フラグを言いたいだけなんじゃないの!?
「ユーキ、知り合いかもしれないが口調に気をつけろ! ルビー様は当時の双子の四天王相手に姿を消し、三日後、二人をぐったりとした姿にした状態にして生け捕りにしたんだぞ」
先生の言葉に、僕は思わず耳を疑った。えっ!? それって……。
ルビーさんは「えへへ」と照れくさそうに頬を染めている。
「二人とも、『たすけて……』って息も絶え絶えで捕まったんだ。いったいどんな激しい戦いだったんだ……。ルビー様も敵も傷は無かったが、服はぼろぼろでほとんど無かったらしい。それほど高度な戦闘だったんだ……。それについては、当事者全員が口をつぐんでなにも話さなかったらしいが」
「えへへー。あの姉弟はなかなかおいし……手ごわかったですよー」
うんうんと頷くルビーさん。頷きと共に、胸が揺れた。
男子全員の視線が、揃って上下した。
いや、今おいしかったって言いかけたよね!? 絶対なんか違う戦いだよねそれ!? 双子の姉弟を三日かけて息も絶え絶えにした戦いってどんなのだよ!!! あんただけノクターンの戦いしてるんじゃないの!? ていうかもう存在がノクターンだよ!!
「これから実践で鍛えてもらう! 全員すぐに校庭に出ろ!」
「じゃーさきに校庭で待ってまーす! すぐ来てね!」
胸を揺らして、教室の男子に投げキッスを振りまくルビーさん。
男子全員の視線が、揃って上下した。
「ご主人様。あの歩く肉塊の毒素に毒されて、これ以上脳のジャガイモ化が進む前に、ご自身の目玉をセキュリティごと取り出しますか?」
「出さねえよ! 他の男子にも言えよそれ!」
呆れながらも、クラス全員で校庭へ移動する準備を始める。
ふと横を見ると、あのウサ耳双子がなにやら震え上がっていた。
「お姉様って呼んでもいいかしら……」
「私達、気に入られたらどうしましょう。怖いわ、怖いわ……」
あ、うちにも問題児(ノクターン候補)いたわ! ちょっと収集つかなくなるから、その二人はルビーさんに近づかないでほしいです。
「あの人めちゃくちゃ強いんだね! どんな戦いかたするんだろ! 楽しみ!」
ラフェちゃんが、目をキラキラさせて無邪気に笑っている。
ラフェちゃん、その無邪気な反応が痛い……。メンタル強すぎでしょ。さすがにまともな戦いもできるはずだよね? 不安しかない!
「……かなりの実力者と見た」
ヤマト君が、腕を組んでカッコよく呟く。
どうかなー、そうだといいけど……ほんと内心、不安しかない……。
「いやすごいな! 胸が! すごい胸だったな! でっかい胸が巨乳って胸だな!」
サムソンが興奮気味に鼻息を荒くしている。
サムソン……君が胸しか見てなかったのはよく分かったよ。正直でよろしい。
校庭。
「よし皆! ルビー様に注目! なんとルビー様は自分のスキルを使って、勇者以外で唯一『聖剣』を振るうことができる御方だ!」
先生の言葉に、僕は思わず目を丸くした。
え、まじで!? ルビーさん居れば勇者いらなくない!?
「これから、聖剣を構えたルビー様に全員で掛かってもらう! 叩き潰されろ! ではルビー様、お願いします!」
おお! さすが魔王の秘書にリクルートされるだけのことはあるってことか!
「本気出しますよぉ。んんん〜」
ルビーさんがグッと足を広げて腰を落とすと、ビリビリと空気が振動し始めた。
まじ!? いつもあんなのほほんとしてるのに、やっぱりタダ者じゃない……!
──ズズズ……。
ルビーさんの胸の谷間から、神々しい聖剣の切っ先が、上に向かってゆっくりと伸びてきた。
あ、でもやっぱ出るのはそこからなんだ!!
クラス全員が、その胸から伸びる切っ先を固唾を飲んで見守っている。ま、まあ……ギリギリ神聖な感じがしなくもない。あそこから大量のミミズが出てきた恐怖映像を、みんなは見てないしね……。
切っ先がぐんぐんと伸びていき……刀身が全部露出したあたりで、ピタリと動きが止まった。
ルビーさんが「ふぅ」と息を吐き、額の汗を手の甲で拭った。
──ルビーさんの胸の谷間から、直立でそそり立つ聖剣。
「ふぅ。んっんっ。よし! 準備できましたぁ!」
「聖剣の装備ってその状態かよ!!!!!!」
胸の谷間から一本の剣が垂直にそそり立っているという、あまりにもビジュアルが最低すぎる聖剣の構えに、僕の魂のツッコミが校庭の空へと虚しく消えていった。




