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39話 僕と校長。

 あれ? この校長、やけに背が低いな。ドワーフ? いや、完全にドワーフっぽいな。

 

 老人は白いひげをしごきながら、呑気に笑った。

 

「いやー、二人があのドラゴン魔王に連れ去られた時は、どうしようかと思ったわい」

 

「見てたの!? 見てないで止めてよ!」

 

「あっはっは! 無理言うでないわい! ありゃあ歴代魔王の中でも最強クラスじゃ。わしなんておしっこちびるかと思ったぞい!」

 

「校長がビビってどうすんだよ!!」

 

 老人は豪快に笑い飛ばすと、ふっと目を細めて僕を睨み据えた。

 

「それで、何で僕ら呼ばれたんです?」

 

「あー、そこのミント殿から、お前が『新しい勇者』というのは聞いてたんじゃよ。ふむ……魔王に連れ去られて、一体何をされた? まさか、魔王に魂を売って寝返ったわけじゃないだろうな?」

 

 ──目が、全く笑っていない。

 

「あ、ご主人様は、無事に魔王との結婚(祝言)が決まりましたわ」

 

 隣でリアが、まるでお天気でも報告するような淡々としたトーンで爆弾を投下した。

 

「リアあーっ!? 空気読もう!? 違うよ、そんなんじゃねえよ! 人間皆殺し計画を回避するための苦渋の選択だよ! むしろ僕、地球なら人類の救世主(英雄)だろ!?」

 

 ミントちゃんは、机の向こうからじっと冷ややかなジト目を向けてきた。

 

「……では、魔王の調教は勇者ユーキに任せます。……どうぞ、しっかりと尻にひいてください」

 

「無理だって!!! 逆にひかれるよ! いや、物理的にひかれるから!!」

 

 リアが、深く、それはもう心底感心したように頷きながら毒を吐いた。

 

「さすが合法の化け物ですわね。ご主人様の軟弱な肉体をペヤングの麺ごと平らに潰すには、最高のパートナーですわ」

 

「僕を何だと思ってんだよ!!」

 

 あーもう! 話が完全に不条理な方向へそれてるだろ!

 

「いいか、よく聞いてくれ! 21日後! この世界の神の力が一番増す満月の日に、僕が魔王と一緒に邪神を討伐しに行くってことで話がまとまったから! ミントちゃん、異存はないよね!?」

 

 ミントちゃんは「……こくり」と小さく頷いた。

 

「ミントちゃん、なんで半分寝てるの!? 真面目な話なんだからもう少しシャキッとしなさいよ!」

 

 すると、校長先生が再び白髭をしごきながら、フッと笑った。

 

「………なんて?」

 

「おい! ミントちゃん! お前、校長に何も説明してなかったのかよ!!!」


 

 

 そして次の日、最初のホームルーム。

 

 教室中が、昨日の校庭での出来事──突然現れたドラゴン魔王の覇気の件で、完全に戦々恐々としていた。

 

 僕は「いやあ、昨日はいやあ、びっくりしたねえ。いやあ」と、適当にクラスメイトたちの会話に話を合わせる。(みんな、僕が魔王城で激辛ペヤングとミミズの暗殺サバイバルを繰り広げていたことなんて、知る由もないからなあ)

 

 やがて、担任の先生がピシャリと黒板を叩いて教室を静まり返らせた。

 

「静かに! 今日から20日間、特別授業を行う! 最短のスケジュールでお前たちを徹底的に鍛え上げることになった!」

 

 ──ほう。

 

 そうだよなあ、邪神に攻めいるんだから、強い人間が大量に必要だもんな。学園も、いよいよ生き残りのために生徒をスパルタで鍛え上げるってわけだ。まあ、その目的が全員には一切内伏せられているのは、この世界のお約束ってやつか。

 

「で、だ。今回は特別講師をお呼びしている。先々代の勇者パーティで前線を張って、引退された御方がわざわざ学園に足を運んでくださった! びしびしとしごいてもらえ!」

 

 ざわめく教室。

 

 ──おおっ! ここに来て王道の「師匠キャラ」の追加だ!!

 

 物語の定番として、最初は厳しいけど実はいい人で、終盤には今代の勇者である僕を庇って『ここは俺に任せて先へ行け……!』とか言って散っていく、あの熱いパターンの人か!?

 

 いったいどんな人だ? やっぱ、歴戦の強者感を漂わせる、隻眼のじいさん剣豪系か、それとも魔力を極めた凄腕の婆さん賢者系か!?

 

 いや、ロリババア系は魔王とキャラが被るから……いや、それも嫌いじゃないぞ?

 

「顔に全部漏れ出てますわよ、ご主人様。その不純で古臭い脳内ログ、今すぐセキュリティごとデリートしたほうがよろしいのでは。きしょ……」

 

 隣の席のリアが、完全に冷え切った目で僕の頭を小突いた。うるさいな、男のロマンなんだよ。

 

「よし、入ってくれ。くれぐれも、授業中の言葉遣いには気をつけるんだぞ」

 

 先生が扉の横に立ち、恭しく一礼する。

 教室の全員が息を呑んで、扉の向こうに注目した。

 

「お疲れ様〜。……あ、元勇者パーティの僧侶のルビーですぅ」

 

 僕は脳内のすべての思考回路を完全に停止させ、魂の絶叫をクラス全体に響かせた。

 

「なんでだよ!!!!!!!!!」



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