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34話 僕と魔王。6


「あー……。で、だ」

 

(あ、魔王、何も言わずに黒い炎でペ○ングのゴミを消滅させてくれた。もしやこの絶壁魔王、実はいい奴……いい魔王なのでは?)

 

「いずれ人間は皆殺しにするわけだが」

 

(嘘でした! 最悪でした! 紛れもない魔王でした!)

 

「……」

 

 僕は、深く重々しく頷いた。

 

「わかりました。世界の半分で手を打ちましょう」

 

 魔王が、冷ややかなジト目で僕を見てくる。

 

「あれは言葉のあやなのだが……。まあ、いいだろう。世界を治めた後に、我が伴侶になってもらうか。それで世界の半分だ」

 

「あ、そういうのはいいです」

 

「秒速で断るな!!!」

 

 リアが、もくもくと激辛ペ○ングをすすりながら、

 

「英断ですわ、ご主人様。どう見てもご主人様より1000歳は年上の化け物ですし、何よりあの胸の装甲……。私と同様の、無駄な贅肉を一切削ぎ落としたスタイリッシュな防壁ですわ。ご主人様が求めているのは、もっとこう、他人の視線を暴力的に吸い寄せる、ルビーさんのような歩く肉塊のボリュームのはずですものね。きしょ……」

 

「おい言葉を慎めリア! あと、勝手に僕の性癖を他人に開示するな! でも……いや、嫌だよ!? こう、ストンなのはさすがに嫌だよ! もっとこう……(チラ)、ボリュームが……(チラ)、欲しいだろ、男なら!」

 

 僕がルビーさんの爆胸にチラチラと視線を流してると、ルビーさんがニコリと微笑んで両手で胸をグッと持ち上げた。

 

「あ、揉みます?」

 

「あ、いいんですか?」

 

 ゴォォォォォ!!!

 

 ソファーの前の空間に、激しい黒い炎のスパークが散った。

 

「お・ま・え・ら・二・人。い・い・度・胸・だ・な・ぁ?」

 

 魔王の額の青筋が、限界突破してはち切れそうになっている。

 

「ひいぃぃ!? ちがうんです魔王様! ここで勇者のユーキ様を籠絡して懐柔してしまえば、私の今後の社会的生命が一生安泰かも! とかそんなこと、1ミリも考えていませんっ!」

 

「なるほど……。我を裏切り、勇者を籠絡して、魔王たる我を倒させる計画、か?」

 

「えへへー。さすが魔王さま!」

 

「褒めてないわ!!!」

 

 魔王の鋭いツッコミが炸裂する中、僕はふと、ルビーさんの発言がおかしい事に気がついた。

 

「ん? ちょっと待って。ルビーさん、勘違いしてない? 僕は勇者じゃないぞ」

 

 それを聞いた瞬間、魔王とルビーがピタリと動きを止め、無言で互いに顔を見合わせた。

 

「……。お前、気づいてないのか?」

 

「なにが?」

 

「今の勇者、お前だぞ?」

 

「はい!」

 

 ルビーさんが僕のステータスプレートを、ガラステーブルの上に滑り込ませて目の前に提示した。

 

 ──そこには、信じられないログが刻まれていた。

 

『 ユーキ 勇者? Lv 47 』

 

「!? ほんとだわ、僕、勇者だわ。……ん?」


「どうした?」

  

「勇者?なのだが」

 

「ん? 勇者だろ?」

 

「勇者?なんだよ、これ」

 

「「???」」

 

 僕と魔王とルビーが、揃って頭を寄せ合って僕のプレートをのぞき込む。

 

「確かに『?』がついていますね。もぐもぐ」

 

 リアがいつの間にかペヤングを完食しながら、他人事のように口を挟んだ。

 

「まあ、でも『勇者(笑)』とかじゃなくて良かったじゃないですか?勇者?ユーキ?ご主人?様?」

 

「いちいち疑問形にしないでくれる!?」

 

「……」

 

 魔王は、無言で僕のプレートからすっと目をそらした。

  

「で、だ。勇者に頼みたいことがあるのだが」


(あ、この魔王『?』を見なかったことにしやがった!)

 

「魔界の大迷宮の100階層。そこにあるはずの『次元門』を、何者かが内側から開けようとしている。すでに強大な力を持つ巨大な腕が二本、こちら側に飛び出し、無理やり門を押し広げようとしている状態だ。もう、完全な突破までは時間の問題。……奴がこちら側に来たら、我でも勝てん」

 

「……っ」

 

 魔界の支配者が、初めて見せた真剣な表情。

 

 次元の裂け目から現れる、世界の終焉。一転して漂い始めた重厚なファンタジーの緊張感(シリアス)に、僕の喉がごくり、と鳴った。

 

 その時。隣のリアが、いつになく凛とした、真面目な声を響かせた。

 

「……魔王シヴリゲル」

 

「ん? なんだ?」

 

 魔王が目を向けると、リアは無言のまま、空になったペ○ングのプラスチック容器をスッと指さした。

 

「……」

「……」

 

 ボッ。

 

 魔王の手元から放たれた黒い炎によって、容器は一瞬で消滅した。

 

 リアはそれを見届け、

 

「もっと最速で片付けていただけません? テーブルが狭くて、次のエサを広げるスペースがありませんわ。魔王城の対応、一体どうなっているのですか」

 

「お前の従者、態度デカすぎではないか!? 我を何だと思っているんだ!?」

 

 魔王が涙目で吠える。僕は肩をすくめた。

 

「お互い、ポンコツを従えて苦労しますね……」

 

 するとその時、僕のステータスプレートを見ていたルビーさんが、「あっ!」と短い声を上げた。

 

「た、大変です魔王さま! ユーキさんのステータスプレートが……っ!!」

 

「どうした!?」

 

 僕たちは、テーブルの上に群がって、光り輝く青いウインドウをのぞき込んだ。


「勇者(笑)になってます!」

 

『 ユーキ 勇者(笑) Lv 47 』

 

「「なんでだよ!!!!!」」

 

 僕と魔王の、魂を一つにした秒速のツッコミが、魔王城の天井を激しく突き破った。

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