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33話 僕と魔王。5

 突然、突っ伏していた魔王の身体が激しく光り輝いたかと思ったら、その光の中で魔王の姿がぐにゃりと歪んだ。

 

「ぶほっ!! がはっ! はぁはぁはぁ、し、死ぬかと思ったわ……っ!!」

 

 光が収まった中から這い出てきたのは、だいぶ大人になった魔王様だった。いや、年齢的には僕よりちょっと上くらいか? ぶかぶかだったマントが、今度はジャストサイズになっている。

 

 ただ、悲しいくらいに、無い。幼女体の時と全く同じレベルで、胸元が見事なまでの断崖絶壁(ディフェンス特化)だった。

 

「ま、魔王、無事だったのか!? その姿は……?」

 

「第2形態だ! くそっ、無事なわけなかろうが! 一度完全に死んだわ!!」

 

「あわわ、魔王さま、あわわわわ……っ」

 

 ルビーさんがパニックになりながら、テーブルの上でずっとファンファーレを鳴らし続けている2つのステータスプレートを、スッと自分の体の後ろに隠した。当然、音は全く隠せていない。

 

『ぱらっぱらっぱらぱー! ユーキはレベルがあがった!』

『ぱらっぱらっぱらぱー! ルビーはレベルがあがった!』

『ぱらっぱらっぱらぱー! ユーキは──』

 

「ル・ビ・イ・ィ?」

 

 第2形態になった魔王の額に、青筋がバリバリと浮かび上がる。

 

「違うんです魔王様! 私が魔王になりたいとかそういうのではなくて! なれたらいいなー、くらいしか思ってないっていうか、魔王様が死んでラッキーなんて微塵も思っていません! そ、そこのユーキ様が、早くミミズを飲ませろって言ってきたから……!」

 

(……おい! 凄まじい流れ弾が飛んできたんだけど!? 僕そんなこと言ってないだろ! 言ってないよね……!?)

 

 ルビーさんは僕を指さし、必死の形相で叫ぶ。

 

「ユーキ様が、『ルビーさん! 早く飲ませてあげて!!』って、確かに仰いました!!」

 

「!? いや、ぼ、僕はただ、み、みずを……ッ」

 

「本人認めました!!!」

 

(しまったぁぁぁーーー!!! 絶対に噛んじゃいけない超絶クリティカルなタイミングで噛んだ!!!)

 

「はぁ。もういい、黙れ」

 

 ばちーん!

「はあん!」

 

 魔王は、ルビーさんの爆乳に容赦のないビンタを一発ぶち込んで黙らせた。

 

「随分と育ったな? ん?」

 

 ばちーん!

「はあん!」

 

「もう収穫時期ではないか? もいでやろうか?」

 

 ばちーん!

「はあん!」

 

 あれ、かなり力任せにビンタしてるぞ魔王。ルビーさんの豊満なアレの揺れ方が尋常じゃない。というか普通にめちゃくちゃ痛そうだ。


「全く羨ましい限りだな! ……もぐか!」

 

 ばちーん!

「はあん!ま、魔王様……っ」

 

「ん? どうした? 何か言いたいことでもあるか? 言ってみろ」

 

 魔王が手を止めると、ルビーさんは目をうるうるさせ、頬を赤く染めながら呟いた。

 

「もっと……魔王様……」

 

「……」

 

 魔王はがっくりと肩を落とし、ソファーに深く腰を沈めた。サキュバスのドMのパッシブスキルが覚醒してしまい、完全に折檻のやり甲斐を見失ったらしい。

 

「はー。まあ、あれだ、ユーキ。……我を倒させることも、最初から考えてはいたのだ。そう、これは全て、我が緻密なる計画通りだ。我を転生者が倒し、レベルを上げる……。うむ。計画通り」

 

(……無理があるだろ。激辛ペ○ングで盛大にむせたところを生きたミミズで窒息させられ、仕上げに熱湯をダイレクトに流し込まれるレベル上げ計画ってどんな修羅の計画だよ! そんな恐ろしいコンボがあってまるか!)

 

 はぁ。魔王が重い溜め息をついた瞬間──

 

 ガラステーブルの周りに散らばっていた、ミミズの残骸や吹き飛んだ麺が、一瞬にして禍々しい黒い炎に包まれて消滅した。塵一つ残っていない。

 

 それを見た瞬間、僕の背筋にゾクッと冷たいものが走った。

 

(あ、あぶねえ……。この絶壁魔王、本気を出せば、僕たちなんてあの黒い炎で一瞬で灰にされて消滅するってことか……!)

 

「あ、これもお願いします。もぐもぐ」

 

「ん?」

 

 隣を見ると、リアが食べ終わった空のペヤングの容器を、当然のような真顔で魔王のほうへと差し出していた。


 しかもその反対側の手には、もう一つの『激辛ペ○ング(超大盛)』が握られており、もくもくと平気な顔をして食べている。

 

「いや、魔王はゴミ収集車じゃないから! ていうか、それ僕のペヤングじゃねえか!? なんで激辛大盛りをそんな普通の顔してハイスピードで消化(もぐもぐ)してんだよ!!」

 

「ご主人様がいつまでも食べないので、私が代わりに処分してあげているのです。もぐもぐ」

 

「いま、明らかにそんな呑気に麺をすするような空気じゃなかったよね!?」

 

 魔王の黒い炎の威圧(シリアス)は──

 ポンコツエルフの底なしの食欲と、ぽんこつムーブによって、またしても一瞬で上書きされてしまうのだった。

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