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32話 僕と魔王。4

「違うよ!! 水だよ!! さっきのヤカンだして!!」

  

 僕が喉を張り裂けんばかりに絶叫すると、ルビーさんはここでようやく自分の致命的な聞き間違いに気づいたのか、「はっ!」とあわてて胸の谷間に手を突っ込み、再び銀色のピカピカしたヤカンを取り出した。

 

 その瞬間、隣のリアが何かに気づいたのか、ヤカンを見つめて呟いた。

 

「あ、そのヤカン──」

 

 リアの警告など耳に入っていない様子で、ルビーさんは取り出したヤカンの注ぎ口を、魔王のミミズだらけの口に向かって一気に傾け、中身の液体を豪快に流し込んだ!

 

「──さっき、沸騰させたから熱湯が入っているのでは?」

 

「「あ」」

 

 僕とルビーさんの声が重なった。

 

 次の瞬間、口内にミミズと熱湯の同時攻撃を受けた魔王は、この世の終わりのような凄まじい断末魔の悲鳴を吐き散らし、そのままガラステーブルへと突っ伏してピクリとも動かなくなった。

 

「……」

「……」

「……」

 

 魔王城の一室に、言葉にできないほど重苦しい、完全な静寂が流れた。

 

 ──ぱらっぱらっぱらぱー!

 

 突如、おどろおどろしい魔王城の中に、陽気なファンファーレが響き渡った。

 

『ぱらっぱらっぱらぱー! ユーキはレベルがあがった!』

『ぱらっぱらっぱらぱー! ユーキはレベルがあがった!』

『ぱらっぱらっぱらぱー! ユーキは──』

 

 音の発生源は、さっきルビーさんが出したままテーブルの上に浮いていた、僕の青い半透明のステータスプレートだった。

 

「あれ? これひょっとして、僕、魔王を倒しちゃった……?」

 

 僕が自分の目を疑った次の瞬間、隣にいたルビーさんの上着のボタンが、パパパン!!! と凄まじい勢いであちこちへ弾け飛んだ。ただでさえ爆乳だった胸が、内側からの暴力によってさらに大きくなっていく。

 

「あら……? ひょっとして? ステータスプレート、オープン!」

 

 ルビーさんが慌てて新しく開いた青い透明のウインドウから、再びあの陽気な音が部屋中に響き渡った。

 

『ぱらっぱらっぱらぱー! ルビーはレベルがあがった!』

『ぱらっぱらっぱらぱー! ルビーはレベルがあがった!』

『ぱらっぱらっぱらぱー! ルビーは──』

 

「ど、どうしましょう! どうしましょう魔王様、じゃなくてユーキさん!」

 

 ルビーさんは巨大化した胸を揺らしながら、あたふたとしだした。

 そりゃそうだよな! いくらポンコツでも、自分の出した熱湯で最高上司を暗殺した片棒を担いじゃったんだからな! いや、というか9割9分ルビーさんの物理アタックのせいだよな!? 僕は1ミリも悪くないよな!?

 

「どうしましょう、どうしましょう。……私に、明日から魔王が務まるかしら?」

 

「そっちかよ!!! 自分が次の魔王になる気満々じゃねえか!!! まさか最初から下剋上狙ってミミズと熱湯をぶちかましたわけじゃないよね!?」

 

 僕が秒速のツッコミを入れていると、隣に座るリアが、限界まで冷めきったジト目のまま僕の袖を静かに引っ張った。

 

「……ご主人様、残念なお知らせですわ」

 

「なんだよ? これ以上どんな不条理な事が残ってんだよ」

 

「私はこれまで、我が主人の『自販機の取り出し口に小指を突っ込んで抜けなくなり、背後の電柱に後頭部を強打して死亡』という死因が、この全宇宙のデータベースの中で最も無様で最低な死に方だと思っていましたが、たったいま、その記録が更新されましたわ」

 

 リアは、突っ伏して動かないロリ魔王の死体をビシィッ!と指さした。

 

「さあ、言ってあげてください。おまえがナンバーワンだ、と」

 

「嫌だよ!!! なんで死体に向かって認めるフリして煽らないといけないんだよ! 最低すぎるだろ!!!」

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