31話 僕と魔王。3
ふと見ると、なぜか僕とリアの目の前だけでなく、ロリ魔王の目の前にも全く同じ『激辛ペ○ング』がポップしていた。
「ほう。これが転生者の世界のカップ麺か。初めて現物を見たな」
魔王はぶかぶかのマントを揺らしながら、パッケージの説明書きを真剣にフムフムと読み、小さな手で器用に『かやく』の袋を取り出して準備を始めている。
(……幼女姿でペヤングの準備してるの、なんかめちゃくちゃ微笑ましいな! ていうか普通に日本語(説明書き)読めるんだなこの魔王)
「ふむ。お湯か。……ルビー、ヤカン」
「はぁい、魔王様ぁ」
ルビーさんは間抜けた返事をしながら、またしても自身の豊かな胸の谷間にガバッと手を突っ込み、そこから銀色のピカピカしたヤカンをシュルッと取り出した。
「ほらよ」
魔王はヤカンを受け取ると、自身の指先から綺麗な水を放出してヤカンを満たし、即座に別の指先から激しい業火を放って一瞬でお湯を沸騰させた。
(すごい魔法の無駄遣い……!! 魔界の頂点がペヤングのためにエネルギーを無駄に燃焼させてるよ!)
お湯を丁寧に注ぎ終えると、ルビーさんは僕にこれ見よがしに胸の谷間をグイッとアピールしながら、使い終わったヤカンを再び胸の奥へと収納させた。視覚の暴力がうるさい。
「三分だな。出来たらここへ捨てろ」
魔王はガラステーブルの上に、ちいさな黒い皿のような形をした『湯切り専用の転送ゲート』をピコンと出現させた。
(……面倒見良すぎないかこの魔王!? 湯切りの面倒まで完璧なんだけど!?)
三分が経過し、僕はペヤングのプラスチックの蓋を慎重にめくって湯切り口を開けると、その黒いゲートに向かって熱湯をだばだばと捨て始めた。
するとその瞬間。ゲートの奥から、何やら聞き覚えのある男の声が微かに響いてきた。
『熱っ!? 熱いでござるううう!!』
「……え?」
僕は呆然と硬直した。今、ゲートの底からヤマトくんの絶叫が聞こえなかったか?
「何をしている、次は我の番だ。ゲートをよこせ」
待ちきれない魔王が、僕の手からゲートをグイッと引っ張って自分の手前に引き寄せると、だばだばと勢いよくお湯を捨て始めた。
『熱っつ!? 待って、僕の眼鏡が、僕の眼鏡のレンズが熱気で完全に視界不良──!!』
今度はシエルくんの必死な悲鳴が、結構なボリュームでゲートから漏れ聞こえてくる。
「……」
「……」
「……」
部屋全体に、なんとも言えない不気味な静寂が流れた。
その沈黙を破り、隣のリアが無言でゲートを自分の手前へとスゥッと引っ張り、一切の躊躇なく自分のペヤングのお湯をだばだばと注ぎ込み始めた。
「待って!? リア!? ストップ!!! それ、さっきまで僕たちがいた学園の校庭に繋がってるから! みんなまだ魔王の覇気で地面に倒れて身動き取れない状態だから!!」
僕が慌てて制止すると、リアは僕と静かに目を合わせ、大真面目な顔できっぱりと言い放った。
「伸びますから」
「友達より麺のコシを優先すんなよ!!!」
僕のツッコミと同時に、ゲートの奥から、今度はひときわ野太い絶叫が爆音でポップした。
『目がぁぁぁーーーー!!! 目がぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっ!!!』
『サムソンさーーん!!!』
魔王が無言でゲートを消した。
「何も無かった。いいな?」
僕らは頷くしか無かった。
無事(?)に湯切りが完了し、真っ赤な激辛ソースを絡め終えたペヤングを前に、魔王が鼻を鳴らす。
「ほう。赤い麺料理か」
「あの、魔王さま? それ、人間の世界でも一部の戦闘狂しか食べないレベルでかなり辛いんだけど……本当に大丈夫?」
「あっはっは! 人間が食べられる物質が、この魔界の王たる我に食べられないわけがないだろう!」
魔王はフォークを握りしめ、早く食べたくてそわそわと体を揺らしている。見た目小学生だから本当にただの微笑ましいグラフィックだ。
「もういいな? いただきますだ!」
待ちきれないとばかりに、魔王はフォークで真っ赤な麺をガバッと大量に巻き取り、勢いよく口に放り込んだ。
僕とリアは、固唾をのんでその様子を見守る。
「ふむ、なかなかうま……ぶばっっっ!!!!!」
次の瞬間、魔王は盛大に口から麺を吹き出した。
小さな顔を真っ赤に変色させ、涙目で「ぎゃーす!」と短い悲鳴を上げながら、自身の喉を狂ったように掻きむしり始める。
「お、おい大丈夫か!? おこちゃまが無理して激辛に挑むから!!」
完全に呼吸困難に陥った魔王は、隣に立つルビーさんに向かって、ガタガタと震える手を必死に伸ばした。
「……み、みず……っ!!」
「ルビーさん! 早く飲ませてあげて!!」
僕の絶叫を受け、ルビーさんは「大変っ! 魔王様ぁぁ!!」と慌てふためきながら、自身の豊かな胸の谷間に決死の形相で両手を突っ込み──
そして、そこからズルズルと、大量ののたうち回る『ぶっとい生きたミミズ』をガシッと掴み出した!
「魔王さま、ミミズでございます!!!」
「そうじゃねええええええ!!!!!」
僕のツッコミが届くより早く、ルビーさんは間髪入れずに、のたうち回る大量のミミズを魔王の小さな口の中へとダイレクトに、力任せにブチ込んだ。
「むぐっ!? ぶふぉっっっ!?」
魔王が白目を剥いてソファーにひっくり返る。
あまりの地獄絵図に僕が呆気にとられて硬直している横で、隣のリアが、これまでにないほど爽やかで、リスペクトに満ちた晴れ晴れとした顔でルビーさんを見つめて呟いた。
「ルビーさん。……あなたがナンバーワンです」
「なんでお前は魔王が死にかけてる横で、同業者のポンコツ度を査定して敗北宣言出してんだよ!!!!」
調子が良かったので今日も投稿です!




