30話 僕と魔王。2
ロリ魔王が城壁から飛び降り、校庭へと軽着地する。
その横の空間がぐにゃりと歪み、禍々しい黒いゲートが開いた。
「ほれ、ゲートを開いたぞ。はよ連れていけ」
魔王の雑な指示を受け、黒い魔物たちが「わっしょい、わっしょい」と僕とリアを担ぎ上げ、ゲートの向こうへとステップを踏んだ。
ゲートを抜けた先は、一瞬で空気が変わった。
不気味な紫色の雲が垂れ込め、見上げるほどに巨大で、トゲトゲした黒い岩でできたおどろおどろしい雰囲気の城がそびえ立っている。
「……ここ、どこ?」
「魔界だ」
魔王が短く答える。本当に魔王城に来ちゃったよ。
城の巨大な門の前には、牛の頭を持ったガチムチのミノタウロスが門番として立っていたが、魔王の姿を見るなり深く頭を下げた。
「おかえりなさいませ、魔王様。……その者らは?」
「客だ。まだな」
「まだってどういうこと!? 近い将来、食材か何かにランクダウンする予定の伏線入ってない!?」
「こっちだ。こい」
魔王は僕のツッコミをスルーしてスタスタと城内へ歩いていく。魔物たちも再び「わっしょい、わっしょい」と僕たちを丸太のように運んでいく。リアはまだ酢昆布のショックから立ち直っていないのか真顔で揺られている。
案内されたのは、高級そうな黒いレザーソファーが置かれた広い部屋だった。
魔王はどかりとソファーに座り、目の前にある低いガラステーブルの上に、ちんちくりんな足を堂々と載せた。
「わっしょい、わっ、ぽい」
べちゃ。
僕とリアは、ゴミ袋のように床へ雑に投げ出された。魔物たちの扱いが急にログアウトした。
「すわれ」
魔王に顎で示され、僕たちは這い上がってソファーに並んで腰を下ろす。
「おい、ルビーいるか? こい!」
魔王が部屋の奥に向かって叫ぶと、廊下からバタバタと何かが猛ダッシュでやってくる気配がした。
ガァン!!!
凄まじい衝撃音と共に、ドアに何かが正面衝突する音が響く。
しばらくして、おずおずとドアが開いた。
「ル、ルビー参りました……っ! 失礼いたします……っ!」
入ってきたのは、タイトスカートに眼鏡をかけた、完璧な爆乳秘書スタイルのお姉さんだった。スタイルは超一流の美女なのに、おでこには信じられないくらい綺麗なたんこぶが真っ赤に腫れ上がっている。
……。
……この人、登場3秒で信用を失ったぞ。
僕は思わず、隣に座るリアをちらりと見た。リアもまた、限界まで冷めきったジト目をルビーさんに向けて呟いた。
「……ご主人様。あの女、私クラスのポンコツの気配がしますわ」
「お前も自覚あったんだな!? あと他人のたんこぶ見て自分のスペックを安心するな!」
「何用ですか、魔王様」
ルビーさんはたんこぶを押さえながら、真面目な顔で魔王の前に進み出た。
「鑑定だ。お前のスキルを使え」
「では、失礼します!」
ルビーさんは真剣な表情になり、なぜか両手で胸の前にハートマークを作った。
「超鑑定! ステータスプレート、オープン!」
ルビーさんの前に、ピコンと青い半透明のステータスプレートがポップした。毎回やるのかなアレ。ずいぶん恥ずかしいスキルだな!
「見せろ」
魔王が指示すると、ルビーさんはそのプレートを魔王のほうへと向けた。
「ほう。やはり転生者か。ふむふむ……、いや、まて」
魔王の動きがピタリと止まった。
そして、ギギギ、と錆びついた人形のような鈍い動きで、首を僕のほうへと向けてきた。
「ユーキとあるな。お前……レベル、3なのだが」
「……あ」
言われてみれば、この世界に転生してからというもの、基本的には魔物から全速力で逃げてばっかりだった。倒したのって、初日の森のウサギくらいなものだ。
「……ハァ。我が主人の低スペックさは折紙付きですが、まさか一般兵の目を小指でチリチリ焼いていた英雄の正体が、ただのレベル3のジャガイモだったとは。魔王様、今ならこの不燃ゴミをワンパンで消滅できますわよ」
「主人の命を相手に売却しようとするな!!」
「まじか……。これは完全に想定外だ……」
魔王は小さな額に指を当て、ガチで深刻そうに悩み始めた。最強の切り札(転生者)を拉致してきたつもりが、中身がただの最弱ニートだったのだから当然のバグである。
そんな重苦しい空気を1ミリも読まず、リアが僕の袖をぐいぐいと引っ張った。
「ご主人様。お腹がすきませんか? 主人がどうしても、今すぐ高カロリーな配給を食べたいと、そのジャガイモのような顔が激しく主張しているのですが」
「お前が腹減っただけだろ! 自分の欲望を僕の顔のせいにすんな!」
魔王は深ーーーい溜め息をついた。
「はぁ……。まあいい、まずは飯にするか。ルビー、あれを出せ」
「はい、魔王様」
ルビーさんは重々しく頷くと、なんと、自身の豊かな胸の谷間にガバッと両手を突っ込んだ。そして、そこから魔法陣の書かれた布製のランチョンマットを3枚、シュルシュルと取り出した。
「どこから出したのそれ! どんな四次元ポケットだよ!?」
「ここからですよ?」
ルビーさんは真顔のまま、さらに胸の谷間を両手でグイッと開いて、僕に中身を見せようとしてくる。
「まて」
すかさず魔王の小さな手が、ルビーさんの顔面をパシッと静止させた。
「自然なモーションで魅了のパッシブスキルを使おうとするな、このアマ。はぁ……お前、気をつけろよ。こいつはサキュバスだ。男を食い物にすることしか脳にない」
「いえ。僕は誘惑にはかかりませんよ」
僕は重々しく頷いて返事をしたが、内心では(あぶねええええ!危うく脳が谷間にログインするとこだった! )と冷や汗が滝のように流れていた。
「……。ご主人様、鼻の下の長さのログが通常時の3倍に伸びていますわ。きしょ……。今すぐサキュバスの谷間に不法占拠した罪で社会的生命を焼却処分されるといいですわ」
「視線だけで僕の尊厳を燃やすな!!」
ルビーさんはたんこぶを揺らしながら、ランチョンマットをテーブルの上に並べた。
「ほら、あれだ。頭の中に食べたいものを思い浮かべながら、その魔法陣に触れろ。望んだ食い物がポップするシステムだ」
「あー、学園の食堂にあったやつと同じシステムか!」
僕とリアは、それぞれ目の前の魔法陣に同時に手を触れた。
ポン。
軽い電子音と共に、高級な黒いテーブルの上に出現したのは──
プラスチックの容器に入った、真っ赤なパッケージの『激辛ペ○ング(超大盛)』だった。
「なんでファンタジーの魔王城で現代の即席ジャンクフードが出るんだよ!!! しかもよりによって激辛のやつ!!!」
「主人、魔界に来てもジャンクフードしか思い浮かばないとは、本当に残念なジャガイモですね」




