27話 リアエル2
不意に、視界の端からすうっと色が消え、景色がぐにゃりと暗転した。
気がつくと――私は、石造りの学園寮ではなく、ホログラムの光が明滅するサイバーな部屋に立っていた。
急激に意識が覚醒していき……私は、高次元の知識とプロテクトをすべて取り戻し、天使として覚醒する。
「天使リアエルか……まずいことになった」
光るサイバーなボンテージを身に纏った我が女神が、葉巻をくゆらせながら神妙な顔で呟いた。
「ついにネオ・ヨコハマシティが崩壊しましたか」
「してない。しれっと私の都市を滅ぼそうとするのをやめろ」
「失礼、我が神。少々下界の人間に毒されてしまったようですわ」
女神はジト目でこちらを見て、
「ハァ。そうじゃない。ファンタジーの世界あるだろ、いまお前がメイドとして、ジャガイモの芽を焼く男をサポートしてるところだ」
「そろそろ崩壊しそうですか?」
「すべてを崩壊のログで処理しようとするのをやめろ。……いや、あながち間違えてないかもな。ネオ・ヨコハマを狙ってた邪神、そっちいったわ」
私は目を見開いた。
「……では、私は天界へ帰還ですか?」
次の瞬間、女神の目が露骨に泳いだ。
「いや、お前にはその……向こうの世界で、勇者と一緒に邪神を討伐してもらうことになった。魔王と邪神が組んでないのだけが救いだが」
「勇者……ですか? では、あのしがないジャガイモ(主人)とはこれでお別れですね。……それは唯一の朗報ですわ」
「いや……あそこの世界の正規の勇者な、死んだんだわ。この前。魔王にやられて。なんかもう、肉体ごと粉微塵に。だから……あいつを次の勇者にすることになったわ。ヨロシク」
「あのジャガイモを勇者に!? 正気ですか!?」
「神に向かって正気を疑うのはどうなんだ? お前くらいだぞ、そんなダイレクトな毒を吐ける天使は……。ただなぁ、あっちの世界の担当神の手前、もう神界からあいつに直接手助けはできない。だから、あの世界におけるお前の出力制限を少し解除する。上手くアイツをアシストしろ。天使としての記憶とここのログはほぼ消えるが、まあ、うまくやれ」
「傲慢ですわ。そもそも神の都合によるバグの尻拭いを、なぜ私が――」
私の猛抗議を遮るように、世界に激しいノイズが走る。
意識は再び急速に混濁し、天使としての記憶が急速にプロテクトされていく――。
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リアが消えた画面を見つめながら、女神は残った葉巻を灰皿に揉み消した。
「……ま、あんなに元気に毒吐けてるなら、なんとかなるだろ。何せ、あっちの神も地上に降りてるしな」
少しだけ目を細め、画面の向こうで再び「ポンコツエルフのリア」に戻っていく少女の姿に、女神は「死ぬなよ、リアエル」と、静かにエールを送るのだった。
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「……ハッ!?」
はっと目を覚ますと、窓から眩しい朝の光が差し込んでいた。自分の部屋のベッドの上。
頭の奥が少しモヤモヤするが、何を考えていたのかは思い出せない。
ふと部屋の隅を見ると、我が不燃ゴミ(主人)が、すでに起きて右手の小指から細ーーーいレーザーを出し、ジャガイモの芽を熱心にチリチリと焼いていた。
「……。ご主人様」
私は冷ややかなジト目を放った。
「朝っぱらから小指をプルプルさせて世界を汚すのをやめてください。……き、きしょ……」
「朝の挨拶の代わりに致命傷を刺してくるのやめろ!!」
……女神からあの男をサポートしろとの指示がまたあったようだ。
なぜだか力が湧いてくる気もする。
私は首を傾げながらも、朝の食事に肉があることを心の中で祈るのだった。




