26話 僕と魔王軍。2
「四百天王」のハッタリがラフェちゃんによって秒でめくられ、ゴーザとかいう男は目に見えて焦り始めていた。
背後の雑魚兵たちも完全に「帰りたい」という空気を醸し出している。
「今です、ご主人様。チャンスです。あのゴザなんて下に敷いてしまいましょう」
隣でリアが、恐ろしいほど冷ややかな、それでいて完全に他人事の無責任な声で囁いてきた。
「敷かないでゴザる。お前、他人が怖いんじゃなかったのか」
「サムいですご主人様。相手は雑魚です。主人の唯一の取り柄である、あの自慢の小指レーザー(笑)の出番ですわ。さあ、早く突撃してあの生ゴミを消滅させてください」
「やめろ、アイツに聞こえるだろ! あと今、お前口頭で(笑)って付けただろ! イントネーションで分かったぞ!」
「お、おい! 平民ども! さっきから何をコソコソと話している! 我を愚弄するか!」
あー。ゴーザさん。完全にラフェちゃんに雑魚認定されて、キレていらっしゃる。
「ほら、ゴザの親分が怒っています。早く行ってください肉壁」
リアが僕の背中をぐいぐいと前に押し出してくる。
「あーもう、なるようになれ!」
僕はヤケクソになって右手を突き出し、小指のビームを起動した。
シュッ、と放たれた細い光線が、ふんぞり返っていたゴーザの右目をピンポイントで直撃する。
「まぶしっ!? な、なんだこれは……っ!?」
ゴーザが顔を背ける。僕は必死に小指を動かし、動くゴーザの目へと光軸を合わせた。シュッ。
「あつっ! まぶしっ! 狙われて……いや、まぶしっ!!」
僕は半泣きになりながら、必死に小指をミリ単位でコントロールし、ゴーザの目潰し(物理)だけに全神経を集中させた。
「さすがご主人様。戦場でこれほど陰湿な嫌がらせができる人間、右に出る者はいませんね。人間性の底が抜けています。最低です」
「静かに! お前が焚き付けたんだろ!!」
必死に小指をプルプルさせている僕と、「まぶしっ! ちょ、おまっ、まぶしっ!」と顔を覆ってのたうち回っている魔王軍幹部(四百天王)。
正規軍の兵士たちも、何が起きているのか分からず呆然とそれを見つめている。
ゴーザからは、この執拗な光が「辺境伯軍が放った謎の新兵器の狙撃」にしか見えていないようだ。まさか僕が小指をプルプルさせているせいだとは、最後まで気づく様子もない。
「くっ……! 謀ったな人間ども! まさかこれほど正確に我の視界だけを奪う未知の光学兵器を隠し持っていたとは……! おのれ、今日のところは撤退だ!」
ゴーザが涙目で大鎌を振り回し、一目散に逃げ始めた。
背後の部下たちは、「え? なんで大騒ぎしてんのあの人……」「光学兵器……?」と完全に置いてけぼりを食らっていたが、
「まあ、戦わずに帰れるからいっか!」
「今日の夜は酒飲もうぜー!」
「酒場に可愛い子が入ったらしいぞ!」
「マジかよ! ガハハハ!」
という、とてつもなく陽気な空気のまま、ゴーザと一緒に撤退していった。
……。
魔王軍が去った。
「おお……! あの魔王軍の幹部を、一歩も動かずに退けるとは……!」
「さすがはユーキ殿! 神速の無音狙撃術、この目で拝見いたした!」
気づけば、僕は辺境伯軍の兵士たちやクラスメイトたちに囲まれ、一躍「魔王軍を退けた英雄」として祭り上げられていた。
僕は冷や汗をダラダラと流しながら、大物ぶって重々しく頷いた。内心のパニックを隠すために、ただひたすらに重々しく、深く、頷く。
すると、僕の隣にいつの間にかヌッと現れたミントちゃんが、やはり僕と全く同じテンポで、重々しく、深く頷きながら呟いた。
「……これで寝れる」
あっ。
それ僕のキャラ!
すいません、なるべく隔日で投稿予定なのですが、2〜4日空く場合があります。




