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25話 僕と魔王軍。

 僕の輝かしいグラタブルク学園生活は、2日目にして『全裸の廊下ダッシュ勢』および『廊下の変質者』という不名誉なステータスから始まることになった。

 

 昨夜、生まれたままの姿で談話室の廊下に叩き出された僕とチーザーは、ちょうどお風呂から上がってきたうさ耳姉妹と正面衝突した。

 

 レ・フィとラ・フィの放った「イヤアァァァァ! 変態よ変態!」「怖いわ怖いわ!」という鼓膜を引き裂くような絶叫は、今でも僕のトラウマデータベースに深く刻まれている。

 

 そんな地獄の初夜が明け、午前中の屋外訓練場。

 新入生一同がそれぞれの武器や魔法の出力を確認する自主訓練の時間、僕は虚無の瞳で、右手の小指から細ーーーいレーザーを出して地面の雑草をチリチリと焼いていた。

 

 うん、今日も絶好調にジャガイモの芽が美味しく焼けそうだ。対人戦闘力はゼロだけど。

 

「……ほう。あえて出力を極限まで絞り、魔力の放射を針の穴を通すように一点に凝縮させているのか。さすがはユーキ殿、一見するとただの雑草取りに見せて、その実、敵の核を無音で消滅させる『神速の暗殺術』の練度を高めているのだな。拙者、感服いたした」

 

「ヤマトくん、君は本当に僕の小指を過大評価しすぎだからね!? ただの雑草取りだよ! あと、さりげなく僕から3メートル以上距離を取るのをやめて! 傷つくから!」

 

「いや、ユーキ、気にするなよ! 俺はお前がどんな全裸で廊下を爆走してようが、最高のダチだと思ってるぜ!」

 

 ガハハと笑いながら近づいてきたサムソンは、なぜか僕の顔を見ようとせず、不自然に上空を見上げている。視線が泳ぎまくっている。お前だって村では全裸で踊ってたじゃねーか!なんで気にしてるだよ!

 

「……。ご主人様、諦めてください」

 

 隣で淡々と弓の手入れをしていたリアが、冷ややかなジト目を向けてきた。

 

「グラタブルクの裏掲示板には、すでに『新入生、初日の夜に全裸で謎の我慢大会を開催し、廊下で大爆発』という不審なログが拡散されています。主人の社会的生命は既にゼロですので、そのまま大人しくジャガイモの芽と一緒に社会的に焼却されてください。……き、きしょ……」

 

「だからあれは事故だって! ていうか学園の裏掲示板って何だよ! 誰が書き込んだんだよ!」

 

 僕が頭を抱えて叫んだ、その時だった。

 

 ウォォォォォン!!! と、学園全体にもの物々しい警戒警報の鐘が鳴り響いた。

 

 それと同時に、さっきまで僕たちを監視していたベネット先輩が、鋭い声で叫ぶ。

 

「新入生諸君! 魔王軍の軍勢が防壁の外に接近中だ! 武装して直ちに城壁へ向かえ! お前たちも出るぞ!」

 

「えええええええっ!? 僕たち昨日入学したばかりの学生だよ!? もしかしてこれ、学園生活じゃなくてただのガチの兵役だったの!?」

 

 大パニックのまま、僕たちは武器を手に取らされて、ゾロゾロと頑丈な城壁の外へとログインさせられた。辺境伯の正規軍の皆さんがピリピリとした空気で武器を構えている。

 

 どれほどの恐怖の軍勢が迫っているのかと、僕はガタガタ震えながら盾の隙間から外を覗き込んだ。

 

 ……ん?

 

 そこにいたのは、なんか、もの凄くしょぼいというか、装備もボロボロでいかにも噛ませ犬オーラ全開の、ぶっちゃけめちゃくちゃ雑魚っぽい軍勢だった。

 

 しかし、その雑魚どもの中から、やたらと派手なトゲトゲの肩当てをつけたリーダー格の男が前に出てきて、声を張り上げた。

 

「クハハハハ! 聞け、グラタブルクの人間どもよ! 我は魔王軍が誇る最強の幹部、四……天王! ゴーザである!」

 

「な、何だって……っ!? 四天王だと!?」

 

「嘘だろ、こんな辺境にいきなり魔王軍の最高幹部が……!?」

 

 ざわざわと騒然とする辺境伯軍の兵士たちと、恐怖に顔をこわばらせる学生たち。

 

 だが、僕はどうにもその男の「四……天王」という、不自然すぎる絶妙な『間の空け方』が気になって仕方がなかった。

 

「ん? すみませーん、名前がよく聞こえなかったんで、もっかい頼んでいいですかー?」

 

 僕が手を振って叫ぶと、そのリーダーはびくっと肩を揺らし、しかし生真面目な顔で律儀に応えてくれた。

 

「お、おう! 我はゴーザ! 魔王軍の──」

 

「いや、名前じゃなくて、その前、前のところ!」

 

「……っ。四……天王!」

 

「ん? 『四』のあと、なんだって? なんかちょっと口ごもらなかった?」

 

 僕がじーっと目を細めて問い詰めると、ゴーザとかいう男はみるみるうちに顔を真っ赤にし、プライドをズタズタにされたように大声を張り上げた。

 

「くっ! 我は! 魔王軍が『四…百天王』の一人、ゴーザである!!!」


 隣のラフェちゃんがぽん、と手を叩き、大きな声で答えた。


「あ、それって単なる雑魚ってことだ!」

 

 僕は慌ててラフェちゃんの口を押さえた。

 なんてこと言うのこの子は!思っても口に出しちゃいけません!

 

 ラフェちゃんの秒速のツッコミが炸裂した瞬間、ゴーザの背後に控えていた雑魚兵たちの間からも、「あーあ、やっぱりバレたよ……」「だから四天王のハッタリは無理があるって言ったのに……」という、もの凄く気まずい空気が拡散され始めたのだった。

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