28話 僕と急展開。
午前中は体育の時間……に見せかけた、新入生をガチの兵士として最短で鍛え上げるための地獄の訓練時間だった。
運動場では、新入生たちが自衛隊ばりの泥臭い匍匐前進や、過酷な空気椅子スクワットをさせられて全員が白目を剥いている。グラタブルク学園、やっぱりこれ学校じゃなくてただのブートキャンプだ。
「おい、そこの不燃ゴミ。腰の位置が高いです。そのまま地面と一体化して、ついでに社会的に土に還りなさい」
「リア、指導教官のフリして僕にだけ暴言を吐くのやめて!? あとサムソン、匍匐前進が早すぎて地面削れてるから! 重機かよ!」
「ガはは! ユーキ、これくらい辺境の村じゃハイハイのレベルだぜ!」
「どんな世紀末の村だよ!」
僕が泥まみれでツッコミを入れていると、前方を監視していた教官が、鋭い声で僕を指さした。
「おい、そこ(全裸の変質者)! お前は昨日、魔王軍の幹部を退けた『無音の魔導狙撃手』だな! お前だけは特別メニューだ。腕立て伏せをしながら、小指からレーザーを出して前方3キロのマトを狙撃しろ!」
「無茶苦茶言うな!!! 僕の小指はジャガイモの芽しか焼けな……」
「……。ご主人様、教官が『小指をプルプルさせながら腰を振れ』と仰っています。やはり最低の変質者ですね。きしょ……」
「言い方を変えて僕の尊厳をすり潰すな!!」
不意に。
辺りの日が陰った。
雲一つない青空に巨大な影が差したことに気づき、僕たちが一斉に顔を上げると……
──凄まじい衝撃波が運動場を吹き抜けた。
ズウゥゥゥゥゥン!!!!
運動場に隣接する分厚い城壁の上。そこに、漆黒の鱗に不気味な赤いラインが走る、山のように巨大なドラゴンが着地していた。自重だけで城壁の一部がガラガラと派手に崩れ落ちていく。
「黒いドラゴン!? ラフェちゃん、あれ君の親戚かなにか!?」
僕が反射的に隣を見ると、いつもは無邪気に暴れ回っているラフェちゃんが、完全に恐怖で声を失い、カタカタと全身を震わせていた。
「あ…ああ…」
「っ!? ぼ、僕の【鑑定】が、完全に弾かれた……!? ステータスが一切読み取れない……!」
シエルくんが眼鏡の奥の目を見開き、冷や汗を流しながら絶叫する。
「刀……刀が必要でござる!」
取り乱すヤマトくん。いや、刀があってもどうにもならないんじゃないかなあ、あれは。
「……馬鹿な、ラフェの親父さんより遥かにデカいぞ、あの化け物……っ!」
いつもは豪快なサムソンすら、その圧倒的な質量と威圧感に気圧され、握った拳を強張らせていた。
ミントちゃんは、珍しく険しい目で、ドラゴンを見あげている。
そんな中、隣にいたリアだけが、驚愕で目を見開いたまま静かに呟いた。
「……まだ……早い」
「え? リア、何が早いの?」
僕の問いかけなど耳に入っていない様子で、リアはただじっと、城壁の上の黒い絶望を見つめている。
城壁の上の黒いドラゴンは、運動場の片隅で泥まみれになっている僕たちを冷酷な瞳で見下ろし、空間全体を震わせるような重低音の声を発した。
「我は魔王。魔王シヴリゲル」
魔王、来ちゃった。




