23話 僕の晩ごはん。3
題名変えました!
「おいお前。ずいぶん目立ってるじゃないか、あんた。昼のパスタ?といい、さっきの肉といい、平民の分際で食堂の空気を乱しまくってさぁ」
わー、いかにも偉そうなボスの隣に控えている、絵に描いたようなチビの取り巻きAに凄まれた。
昼からチェックされてた!?
めちゃくちゃ苛立っているのか、貧乏揺すりの振動で床が小刻みに揺れている。
やばい、これ絶対あれだ! 異世界ネット小説で10万回は見た、お約束のいちゃもんイベントだ! 主人公が理不尽に絡まれるけど、持ち前のチート能力でなんなく切り抜けて、周囲を唖然とさせながら『あれ? 僕、また何かやっちゃいました?』ってドヤ顔で呟くやつ!
いやできるかーーーーーー!!!
僕のスキル、【右手の小指からビームが出る】だよ!? できるのは、ジャガイモの芽をピンポイントで焼きちぎるくらいだよ!
僕が内心で大パニックを起こしていると、不意に後ろから、とん、と柔らかい何かがぶつかった。冷や汗をかきながら「リアか?」と思って振り返ると──。
「あ。ごめーんー」
感情の読めない虚無の瞳をトロンと潤わせ、上目遣いで僕を見上げてくる影。
「キミは、ミントちゃん!?」
昼の野球で行方不明疑惑のあった彼女が、なぜかこのピリついた最前線にヌッとポップしていた。
しかし、そんな僕たちのやり取りを完全に無視して、取り巻きたちに囲まれたボス格の少年が、大仰にふんぞり返った。
「ふん、無視するな平民ども! 俺はチーザー・ベッケンブヮーガー! この辺境伯領の次男であり、誇り高きベッケンブヮーガー家の正統なる血嗣だ!」
「「「そうだそうだ! チーザー様だぞ!」」」と太鼓持ちたちが一斉に持ち上げる。
(チーザー・ベッケンブヮーガー!? 名前が完全にマックの期間限定メニューじゃないか! ナゲットもセットで付いてきてお得そうな名前だなおい!)
僕が心の中で猛烈なツッコミをリロードしていると、隣のリアが、つ、と僕の背中に隠れながら、蚊の鳴くような声で毒を吐いた。
「……。ご主人様、あのハンバーガーの親戚のような殿方、お顔がとてもプルプルされていて、なんだか脂身の多そうな不燃ゴミですわ。他人の食事に嫉妬するなんて、お祝いされた脳細胞をお持ちのようです……っ、き、きしょ……」
「おいリア、他人は怖いんじゃなかったのか! なんで僕を盾にしながらそんな致命的な毒針を刺すんだよ!」
慌ててリアの口を塞ごうとしたが、時すでに遅し。チーザーは顔を真っ赤にして激怒し、一触即発の気配が周囲に満ちる。
「お、おのれ平民の分際で不燃ゴミだと……!? ええい、もういい! 大体、エルフのメイドなんて高貴な従者を、そんなしがない平民風情が従えていること自体が不相応なのだ! そのエルフを俺に寄こせ! 俺が直々に分からせてやる!」
うわ、めちゃくちゃベタな脅し文句が飛んできた!
すると、僕の後ろからラフェが身を乗り出して、ポンと手を叩いた。
「あー! それラフェ知ってる! 無理やりベッドでえっちなことするやつだ! ほら、この前ラ・フィに見せてもらった薄い本に書いてあったよ! 『くっ、殺せ!』って言わせるやつ!」
「いやなんてもの見せてんだうさ耳姉妹ーーーーーっっっ!!! 僕のラフェちゃん汚さないで!!」
ラフェの純粋無垢な大声が食堂に響き渡り、チーザーの顔が別の意味で真っ赤に染まる。
「ち、ちがう! 俺はそんな、そういう不健全なつもりじゃ……っ!?」
「えー? 違うのー?」とラフェは首を傾げ、さらに具体例を挙げようと身を乗り出す。「じゃあ、どんなえっちなことが好きなの? 触手? それとも──」
「ももももももういい!!!!」
チーザーが恥ずかしさと怒りで大絶叫した。「絶対に許さん! 貴様ら全員、ここでベッケンブヮーガー家の威信にかけて──」
その時だった。
僕の背後にいたミントが、ゆらり、と前に踏み出した。
そして、虚無の瞳のまま、眠たそうな声で短く呟いたのだ。
「はぁ。みんな、なかよく。」
カチ、と脳内で何かが切り替わるような音がして、一瞬、僕の意識が完全にフリーズした。
……。
……あれ?
はっと我に返り、まわりを見渡す。
サムソンもヤマトも、チーザーの取り巻きたちも、みんな「あれ……?」という顔でパチパチと目を瞬かせたり、頭を振ったりしている。
変だな、僕はいま何をしていたんだっけ?
あ、そうだ。貴族のご子息グループ、チーザーが僕の席にやってきて、何か話していたような……。
僕が首を傾げていると、目の前のチーザーが、どこかスッキリした、それでいてもの凄く真剣な顔つきで僕を指差した。
「……いいか、お前。これは、予約だ」
「え?」
「次の昼メシのメイン、美味そうなヤツの一切れ予約だ!! 絶対に忘れるなよ!!」
そう言い残すと、チーザーは「ふんっ!」と満足そうに鼻を鳴らし、取り巻きたちを引き連れて優雅に去っていった。
良かったーーーーーーーーーっっっ!!!
単なるもの凄い食いしん坊の予約イベントだったーーーーーーっっっ!!!
「はぁ……心臓に悪いなぁ、もう」
僕は思いきり胸をなで下ろた。
ふと隣を見ると。
「……っ、…………。」
リアが、見たこともないほど顔を真っ青に引き攣らせて、ミントがトボトボと去っていった食堂の扉の方を見てる。
「あれ?リア? 大丈夫? なんか魂がログアウトしかけてるよ?」
「……。ご、ご主人様……。今、あの女が呟いた瞬間…」
「いや、それより聞いてよリア。あいつさ、次の『昼メシ』予約してったじゃん?」
「……は、はい?」
「明日のお昼、今のとこ僕の脳内、『激辛ペ○ング』一択なんだけど」
「!? やめてください死人が出ます!! 辺境伯家が文字通り炎上してしまいます!!」
「だよね!! よし、明日はお湯の用意を頼むぞリア!」
僕は意気揚々と明日の昼食へ思いを馳せた。




