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19話 僕のひるごはん。2

うまい。硬めの極細麺に濃厚なスープがよく絡んで、五臓六腑に染み渡る。

 

 しかし、その至福の時間は長くは続かなかった。

 とてつもなく香ばしいにんにくと豚骨の香りは、当然、周囲の野生児たちの鼻を鋭く刺激していたのだ。

 

「……おい、ユーキ」

 

 じーっと僕の丼を凝視していたサムソンが、ゴクリと喉を鳴らして声をかけてきた。

 

「なんだか見たことねえ料理だが……めちゃくちゃ美味そうな匂いがするな。なあ、頼む! 一口だけでいいから、その紐みたいな飯を食わせてくれないか?」

 

「紐って言うな、麺だよ。……しょうがないなぁ、じゃあ一口だけね」

 

 僕は苦笑しながら、サムソンが差し出してきた丸ごとのふかし芋と交換で、小皿にラーメンを少し分けてやった。

 サムソンはそれを豪快に口に放り込むと、一瞬だけ目を見開き、そのあと「う、うめえええええ!! なんだこれ、濃厚なのにいくらでもいけるぞ!」と大声を上げた。

 

 その叫び声が、周囲の狼たちに火をつけた。

 

「えっ、ずるい! サムソンだけずるいよ! ユーキ、私にも一口ちょうだい!」

「ユーキ殿、拙者もその東方の麺類に似た異国の料理、ぜひ所望したい!」

「あ、あの、僕も……そのスープの成分にすごく興味があります……」

「聞いた? ラ・フィ。ユーキがみんなに怪しい汁を配ってるわ」「あら、レ・フィ。私たちも早く並ばないと、あの不審な汁がなくなっちゃうわよ。怖いわ怖いわ」

 

「だから君たち全然怖がってないよね!? ほら、順番に並んで!」

 

 サムソンの一口を皮切りに、ラフェ、ヤマト、シエルくん、さらにはうさ耳姉妹までが「俺も私も」と僕の席に殺到してきた。

 みんなが自分の皿から「これと交換してくれ!」と肉やらパンやらを次々と僕の前に置いていくものだから、最後には僕のラーメンは跡形もなく消え去り、代わりに机の上には、いもやらにくやらの山が出来上がっていた。

 スープまで跡形もない。

 

 僕は呆然としながら、隣で優雅にラーメンをすすり続けているリアを指差した。

 

「いや、ちょっと待ってよ! リアも全く同じ物を持ってるんだから、そっちの席にも分けてもらいにいけよ! なんで僕のばっかり奪い尽くすんだよ!」


 僕がそう叫ぶと、物欲しそうに僕の席を取り囲んでいたサムソンたちが、一斉に顔を見合わせた。それから、ひそひそと小声で言い訳を始める。

 

「いや、ユーキ……。いくら美味そうだからって、女の子の食べてる器に『一口くれ』なんて、男のプライドが許さねえだろ……」

 

「そうだよ、ユーキ。リアちゃん、なんかすごく綺麗に食べてるし、近づいたら冷たい目で睨まれそうだもん……」

 

「拙者も、うら若き乙女の食卓に無断で箸を伸ばすような真似は、武士の面目に関わる故……」

 

「奥手か!!」

 

 思わず全力でツッコミを入れてしまった。

 

 なんだよその無駄なジェントルマンシップは! 僕のラーメンは全力で強奪しておいて、リアの領域には誰も踏み込めないとか、格差が激しすぎるだろ!

 

 そんな連中の情けないやり取りを余所に、リアは一人、お上品に、かつ一切の無駄のない洗練された動きでスープを最後の一滴まで飲み干していた。

 

 ──ちゅるん。

 

 最後の短い麺を、小さな唇で綺麗に吸い上げる。

 それから、制服のポケットから取り出した真っ白なハンカチで、ツンとすました顔のまま、優雅に口元を拭った。

 

「……ふぅ。ご主人様の至高の技術とやらは、大変に脂ぎっていて野蛮な味がいたしましたわ。このままでは私の喉の機能がギトギトに汚染されてしまいますので、今すぐお口直しの冷たいお水を用意してください」

 

「自分で汲みに行けよ!! あと、そんなこと言いながらスープまで完食してんじゃねえよ!」

 

 僕の前に残されたのは、からっぽの丼と、みんなから押し付けられた泥付きの芋や、謎の獣肉の山。

 

 はぁ、と僕はがっくりと肩を落とし、目の前の肉の塊を見つめた。

 

 せっかくの至高の豚骨ラーメンが、一瞬にしてスターター村の物々交換所に逆戻りだ。

 

 僕の学園生活、やっぱり平穏とは程遠い仕様になっているみたいだった。

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