15話 僕とクラス分け。
お洒落な都会の街並みを抜けて、学園への道を進むにつれて、景色がどんどん街の外れへと移行していく。
華やかなショップやカフェは姿を消し、代わりに現れたのは、無機質で高巨大な石造りの壁と、どこか殺伐とした荒野の風景。
「おいユーキ……。これ、本当に学園に向かってるんだよな? どんどん都会のキラキラが消滅して、ただの拡張された演習場みたいになってるんだが」
「いや、案内看板の通りに進んでるはずだけど……」
「……ご主人様。私のメインメモリが、周囲の『圧倒的な若者の密度』を感知して処理落ちを起こし始めていますわ。……これ、領内の十五歳全員が強制徴収されるシステムなのは本当のようです。ほら、見てください、あの開かれた巨大な鉄門を」
リアが珍しく少し声を強張らせて指差した先には、ガバッと大きく開かれた学園の正門があった。そこへ向かって、領内中から集められたであろう十五歳の新入生たちが、それこそ川の流れのようにゾロゾロと吸い込まれていっている。
「おーい! 新入生はこっちだ! 立ち止まらずに中に入ってくれー!」
門の前で大声を張り上げて案内しているのは、僕たちより一張羅の着こなしがこなれている、おそらく二年生の先輩たちだろう。一年上の先輩というだけで、都会の荒波に揉まれたような、妙にゴツい威圧感を放っている。
「新入生はまず、そこの受付に持参した私物を全部預けろ! ジャガイモ? ああ、ジャガイモもずだ袋ごとだ! そのあと、支給された制服に着替えて、最速で講堂へ行け! 遅れたら腕立て伏せだからな!」
「ジャガイモのセキュリティチェックが厳しい……!」
僕たちは慌ててずだ袋を預け、流れるような作業システムで、全員一律の灰色の制服へと着替えさせられた。着替えた若者たちが、ドナドナと巨大な講堂へと詰め込まれていく。
一学年二千人という、もはや新兵訓練基地のような広大すぎる学園の講堂で、僕たちはクラス分けの儀式に臨んでいた。
壇上の中心。仰々しく設置された台座の上に、それは鎮座していた。
(……あれ? なんか見覚えあるぞ)
新入生たちが「おお、あれが……」「なんて激しい魔力の光だ……」と息を呑んで見上げる中、僕の脳内が、確かに目の前の光景に完全一致を当てはめていた。
透明な球体の真ん中から、紫や青の稲妻のような電気がウジャウジャと壁面に向かって広がっている。
(科学館とかによくあるやつだ! 指を近づけたら電気が集まってくる、子供に大人気のやつだ!)
一気に都会の魔道具に対する緊張感が消失していく。
そんな僕の気楽な内心を知ってか知らずか、壇上に立ったいかにも厳格そうな教師が、重々しく口を開いた。
「皆の者、静粛に。……この玉の名前は、【クラス分けボール】」
(危ない! ギリギリ大丈夫なラインの名前だった!!!ボーシじゃなくてボールだった!!!)
僕は思わず胸をなでおろした。
そこから、次々と名前を呼ばれた新入生達が、壇上へ上がり、AからZまで組み分けられていく。
「イアン!判定、記憶力特化――『Gクラス』!」
「エルド!判定、土魔法――『Cクラス』!」
手をかざした一人ひとりを一瞬で鑑定し、テキパキとクラス分けていく。
なるほど。特技や魔法があると、ここで鑑定される仕組みか。Aに近いほど貴重なスキルや能力持ちっぽいな。
どんどん進んで、僕たちの番が来た。
「サムソン! 判定、戦闘特化──『Aクラス』!」
「ラフェ! 判定、竜の力…!?──『Aクラス』!」
「リア! 判定、高位エルフ魔術──『Aクラス』!」
次々と壇上で最高峰の『Aクラス』を叩き出していく仲間たち。
(良かった……! 本当に良かった! あいつら全員、化け物みたいなAクラス(修羅の国)に行ってくれるんだ! これで僕は、まともな人間が集まる一般クラスで、平穏なスローライフを送れるぞ……!)
自分の名前が呼ばれ、僕は勝利を確信しながら壇上へと上がった。
よーし、ボールさん、僕の『ただの一般ジャガイモ掘り』としての平凡なスペックを読み取って、一番安全な底辺クラスへ叩き落としてくれ!
そう思って、科学館の玉に両手を触れる、まさにその刹那。
『いけね、転生特典わすれてたから、今付けたわ』
(今ァ!?!?!?)
脳内に、あの光るボンテージを着て葉巻をふかしていた、サイバー女神様がフラッシュバックし、僕の思考回路が完全に停止した。おい待て、 今さら後付けパッチを当てる気か!
クラス分けボールが凄まじい目眩ましのような光──いや、完全にバグを起こしたようなネオンカラーのノイズを放ち、ボールの声が講堂全体に重々しく響き渡った。
「……判定。お前のスキルは……、【小指からビームが出る】!? ──『Aクラス』!!!」
(やっぱりそれかよおおおおおおおおおお!!!)
講堂が「おおっ、なんだあの未知の光魔法は!?」「小指からビーム……凄まじい火力持ちか!?」とドッとどよめくに包まれる中、僕は壇上で天を仰いだ。
自販機の10円玉を救出しようとして電柱に後頭部を強打して死んだ僕の小指が、異世界で最先端のレーザー砲として覚醒してしまった。
パチパチパチ、と、先に合格していたAクラスの席から、まばらな拍手が聞こえてきた。
見れば、そこには先に合格していたリアが座っていたのだけれど……すこし様子がおかしい。
真顔なのだが、──カタカタと、バイブレーションを起こしている。
そこに僕が、小指からビームを出すという最高にわけのわからない判定をやらかしながら歩いていったものだから、リアは信じられないものを見るような目で僕を凝視した。
僕が隣の席に腰を下ろすと、彼女は青ざめていた顔に、ようやくいつもの生気を少しだけ取り戻した。
「……流石は、ご主人様。私の目測を遥かに超える、極めて原始的かつ、ツッコミどころしか出力されないバグスキルで最高峰の領域にログインしましたわね。小指からビームを放つ、完全に不審者ですわ。……き、キショ……」
声がめちゃくちゃ震えている。語尾の「キショ」にも、いつものキレがまるがない。
僕はそんな彼女を見て、ふっと笑いながら、重々しく頷いた。
「うるさいな。僕からこの期待を取ったら、ただのジャガイモを背負った不審者しか残らないだろ。……ほら、もう大丈夫だから」
「……ハァ。主人の動力源、やはり不燃ゴミレベルの妄想と、前世の未練で稼働していたのですね。早く永久にシャットダウンしてください……」
ふと視線を感じて横を見ると、少し離れた席に座る、綺麗な令嬢がいた。
カフェの前でぶつかった彼女だ。彼女は扇の隙間から「面白い殿方ですわね」とでも言うように、こちらをじっと見つめていた。
……カフェの時の人だ。彼女もAクラスだったんだな。……それにしても、なんていうか……周囲の連中とは一線を画す、圧倒的な気品だな。
これは……学園生活、面白くなりそうだ。
僕は自分の右手の小指をそっと握りしめながら、まだ見ぬ明日への期待に胸を膨らませ、重々しく頷いたのだった。




