13話 僕のさらばガチムチの日々。
そんなわけで、来月から僕たちは、街の学園へ全員強制入学させられることになった。
だが、アップデート当日までの残り一ヶ月間、僕を待っていたのは輝かしい都会への準備期間……などでは断じてなかった。
「おいユーキ! 都に行ってもこの土の感触を忘れるんじゃねえぞ!」
「ほらクワを振れ! 体に畑仕事を叩き込んでから出発だ!」
村の男たち(ガチムチ)に囲まれ、僕は来る日も来る日も朝から晩まで、これまで以上に過酷な芋掘り労働に従事させられた。
完全に、学園に行く前に僕のHPをゼロにするためのデスゲーム(嫌がらせ)だった。
そして迎えた、出発の日の朝。
村の入り口には、見送りの村人たちが大勢集まっていた。
「ユーキ、もうすぐ都だろ? もってけよ!」
そう言って、隣のおじさんが僕のずだ袋にゴロゴロと巨大なジャガイモを放り込んできた。
「あ、ありがとうございます!」
「おいユーキ、もうすぐ都だろ? もってけよ!」
間髪入れずに、別のおじさんがさらに泥付きの芋を三個放り込んできた。
「えっ、あ、はい……!」
「おいユーキ、もうすぐ都だろ? もってけよ!」
さらに向こうから走ってきたおばさんまで、満面の笑みでバケツ一杯の芋を僕の袋に流し込んできた。
「ちょっと待って!? コピペ!? さっきから村のNPCのセリフのバリエーションが『もうすぐ都だろ?もってけよ!』の一択しかないんだけど!?」
ズシッ……と、僕の肩に恐ろしい重量がのしかかる。
気がつけば、僕の手元にある大きなずだ袋は、上から下まで、隙間なく茶色い球体でパンパンに満たされていた。
僕は袋の口を開け、中を覗き込んで絶叫した。
「僕のカバン、芋しか入ってないよ!!! 着替えは!? 筆記用具は!? 都会の学園にジャガイモの現物支給だけで乗り込めって言うのかよ!!」
「安心してくださいご主人様。私の高機能な目測によれば、そのずだ袋の容量は、現在九割九分が炭水化物で埋め尽くされています。もし都会で一文無しになっても、一週間は餓死のバグを回避できる仕様ですわ」
「ポテトチップス職人として留学するわけじゃないんだよ!!」
そんな僕の荷物の少なさ(芋の多さ)はさておき、サムソンは、身軽な格好で村の広場の中央へと歩いていく。
そこでは、ラフェと、あの漆黒の巨大な黒竜(お父さんトカゲ)が、どっかと腰を下ろして僕たちをお出迎えしていた。
なんと、お父さんが都の近くまで、僕たちを背中に乗せて直行便で送ってくれるらしい。ファンタジーの災害指定個体が、完全に通学用の送迎バス扱いだった。
ふと見ると、黒竜の足元で、村長が腕を組んでじっと僕を待っていた。
いつものガハハという豪快な笑いはなく、どこか寂しげで、真面目な顔をしている。
「ユーキ。お前がこの村に流れ着いてから、短い間だったが……お前はもう、俺たちにとって大切な村の一員だ」
「村長……」
不意に、僕の胸がツンと熱くなる。
毎日泥まみれで、全裸の男たちが踊り狂う最悪の環境だと思っていたけれど、彼らが僕に注いでくれた不器用な優しさは本物だった。会えなくなるのはやっぱり少し寂しいな――。
そんな僕のしんみりした情緒を、村長は力強く見つめ、僕のずだ袋の口をガバッとこじ開けた。
「おいユーキ、もうすぐ都だろ? もってけよ!」
ドサゴトゴトゴトッ!!!
……バグってない!?この村!!
芋が増えた……。
『よし、全員乗ったな! 行くぞ!』
黒竜が巨大な翼を広げ、凄まじい風圧と共に大空へと飛び立つ。
「うわああああっ!? 高い! 速い! 芋が重くて後ろにひっくり返るーー!!」
「しっかり掴まっててください、不燃ゴ…主人様! 芋のデータが一つでも地上へ落下したら、今日の晩ごはんは抜きですからね!」
眼下にぐんぐんと小さくなっていく、泥とジャガイモの村。
背中に大量の芋の重みを感じながら、僕は流れる雲の向こう、まだ見ぬ都会の景色を見つめた。
明日から、いよいよ待ちに待った学園生活が始まる。
どうか次のステージでは、全裸の男たちが踊り狂わない、普通の、まともな王道ファンタジーでありますように……!
そう心から祈りながら、僕たちの乗った黒竜は、大空を突き進んでいくのだった。
「そう言えばサムソン、村って名前あったのか?」
「ああ、村の名前?スターター村ってんだ!」
「リア、合ってたんかい!」
第二章 おしまい




