66話 騒動を終えて
慌ただしく騎士たちが走り回る王城の前でハルトとルシア、ブランドは状況を聞けるものを探していた。
すると目の前を見知った顔が走り過ぎようとしているのに気が付き、声を掛けて呼び止めた。
「カイ!」
「あ!ハルトさんとルシアさん!それと……ブランド様!?いままでどこに行っておられたのですか!?」
「…………」
「その話はあとだ。状況を教えてもらえるか?」
「ええ、実は―――」
ハルトは賊に現王クライスが殺されたこと。
そして前王ゲリックがウィリアムに討たれ、ウィリアムが自首したことを聞いた。
「ウィリアムさんが……?」
ブランドがウィリアムにまで手を回していたのかと思い、ブランドの顔をチラッと確認するが、ブランドも流石に寝耳に水だったらしく、少し驚いた様子で首を横に振った。
「それで、ウィリアムさんは今どこに?」
「団長は現在地下牢に収監されております……」
「わかった。案内してくれるか?」
※ ※ ※
ハルト達が王城へ到着した頃―――
プルフラはルナを抱きかかえ、ユキとリンと宿へ戻っていた。
そんな4人の後ろからこっそりと跡を付ける人影が一人……。
プルフラは宿に入り女将に事情を伝えると、まだ昨日取っていた部屋は埋まっていなかったのですぐに用意してもらえた。
部屋に入りプルフラはベッドへルナを寝かせ、優しく布団をかぶせてあげる。
ユキとリンも緊張の糸が切れたのか、ベッドへ寝ころぶとすぐに寝息を立て始めた。
「はぁ……。私は結局何の役にも立てませんでした……」
プルフラは顔に悔しさを滲ませ、拳を強く握りしめていた。
それに昨日会ったあの魔族の男。
私の顔を見て動揺したように見えたけど、私にはあんな男に見覚えはない。
もし彼がマナリスの者なら、あの場で私を殺そうとしたはず。
ハルト様や私を殺せるチャンスだったのに敢えて見逃した目的は何?
考えても仕方ありませんね。
流石に寝ずに動き回っていたので、私も少し疲れた……みたい……ですね。
プルフラは椅子に座ったままうとうとしはじめていた。
そんなとき、後ろから「コンコン」と優しくドアをノックする音が聞こえてきた。
プルフラはハッとして目を覚ます。
いけない!
私は3人をハルト様から託されたのに。
3人が動けない以上私が気を抜いてどうするのですか……。
頬を「パンッ」と叩き、プルフラはしっかり目を覚ますと、ドアの方へと向かう。
「どちら様でしょうか?」
「…………」
呼びかけてみるが何故か返事がない。
不審に思ったプルフラは警戒心を高めながらドアへ近づく。
すると時間をおいてからドアの向こうから声が聞こえてきた。
「あの……。わたし、謝りたくて……」
ドアの向こうから聞こえてきたのは若い女性、それもまだ少しあどけなさの残る少女のような声だった。
しかし、このタイミングで部屋を訪ねてくる時点で事件の関係者の可能性が高く、罠の可能性も捨てきれない。
プルフラは警戒を維持したままドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開いた。
※ ※ ※
ハルト達はカイの案内で王城の地下牢へ向かっていた。
階段を降りると、正面の鉄格子の向こうで静かに座して待つウィリアムの姿がそこにはあった。
「やっと来たか……」
ウィリアムはハルト達の顔を見ると来るの待っていたと言わんばかりに口を開いた。
「ウィリアムさんが前王を斬ったとお聞きしましたが」
「ああ、事実だ」
「どうしてそんなことに?」
「全てを―――俺が見落としていたこの国の全てを知ってしまったからだ……」
つまりブランドさんの過去やこれまで王家がしてきたことをマルバスから聞いて知ってしまったということか。
国や民を守るべき騎士団の団長という立場にありながら国の腐敗に気付くことが出来なかったことを悔んでの行動ということだろうか。
「マルバスはどこへ?」
「マルバス?ああ、あの魔族か?そういえば名前を聞いてなかったな。奴ならマナリスに協力していたこの国の王族とウロボロスを潰すのが目的だったらしく。全て終えたから一度主の元へ報告へ戻るとか言ってたぜ」
「そうですか」
マルバスの目的はマナリスを止めることだったのか。
だから俺たちを殺そうとしなかったのか?
「ハルトさん、そんな奴から一つ伝言を預かってる」
「伝言?」
「本意ではなかったとはいえ、サタナキア様の部下を傷つけたこと。そして貴方の身内を危険に巻き込んだこと、あなた方をウロボロスに対する当て馬として利用したことも含め謝罪いたします。このことは貸にしておいてください。いずれ必ずお返しします。だとよ」
あの時、こちらが圧倒的に不利な状況にもかかわらずマルバスからは殺気を感じなかったし、プルフラの本来の姿を見て若干同様したように見えたのは見間違いじゃなかったのか。
少し行動がおかしいとは思っていたけど。
ヴェルナーをあぶりだすのに必要だったルナたちを確実に捕らえるためにウロボロスに潜入してたってことか。
でも……。
たとえどんな理由があろうと、ルナたちを危険な目に合わせたことだけは許さないけどな……。
敢えて謝罪と伝言を残したところを見るに、今のところ敵ではなさそうだけど、マルバスの主がどの魔王かによっては今後また敵対する可能性も十分ありえる。
「マルバスの主については何か聞きましたか?名前とかは?」
「いや、名前は言ってなかったが、主は中立の立場だといってたな」
中立の魔王か。
ヴェルゼとレヴァイアという魔王は人のことをあまりよく思っていないとサタナキアさんは言っていたな。
ということはマルバスの主というのは、アザゼルかイブリースという魔王か。
でも多少の犠牲は厭わずに多少強引な手を使ってでもマナリスを制止しようとしているところを見ると、例え同じ中立派だとしてもサタナキアさんとはだいぶ違うな。
プルフラさんはマルバスのことを知らなかったみたいだけど、サタナキアさんなら知ってるかな?
今度聞いてみるか。
「わかりました。他にマナリスについて得た情報はありますか?」
「マナリスは現王クライスの手引きでフォーレンシアへ向かったとか、獣人や人の奴隷を買い集めているとも言ってたな」
「既にフォーレンシアへマナリスが……。奴隷を?」
マナリスはダンジョンの制覇とダンジョンコアを集めることが目的だったんじゃないのか?
フォーレンシアへ向かった理由も分からないけど、どうして奴隷を買い集めているんだ?
いくら奴隷を買って頭数を揃えたところで大した戦力にならないはず。
何かほかに目的が……?
「俺からも質問をいいか?ブランド」
「ええ。もう包み隠さず全てをお話しましょう」
「何故俺に黙ってたんだ。王やウロボロスのこと。そしてあんたの奥さんに起きたことを!」
「あなたは根が真面目過ぎますから。知ってしまえば放っておけないでしょう」
「俺はあんたのとこを親のように思ってこれまで生きてきた!!そんなに俺のことが信用できなかったのかよ!!復讐するのを俺が止めると思ったからか!?俺があんたの邪魔をすると思ったからかよ!?」
「逆です……。私もあなたのことは自分の息子のように思ってこれまで見て来ました。だからあなたには綺麗なままでいて欲しかったのです。それなのにこんなことになるなんて……」
「俺は前王を斬ったことをこれっポッチも後悔なんてしてねぇよ。あんたや部外者のマルバスって魔族に全ての罪を背負わせたくねぇと思ったから斬った。それだけだ!」
「バカなことを……。そういった汚れ仕事は大人に任せておけばいいものを」
「いつまでも子ども扱いしてんじゃねぇよ。……いや、この国の実情もあんたの背負ってきた想いも近くにいながら何も見えてなかった俺はまだ子供だったのかもしれねぇな。目に見えるものだけを信じてすぐ手の届く範囲だけしか見ずに、騎士団長ごっこをしてただけの子供だった。でもこれからは違う!!俺は真実をちゃんと見極めて、この腐りきった国を変えて見せる!!だからこれからも俺の元で協力してほしい。たのむ」
「わかりました。あなたがこれからどう進むのか傍で見届けるとしましょう」
「つっても、俺は王族殺しの大逆人、あんたは王殺しの共犯者。これから向かう先は処刑台しか見えねぇけどな!ははは」
「…………」
「それについては心配ありませんよ」
地下牢へ下る階段の方から誰かが降りてきて声を掛けてきた。
「だれだ!?」
「すみません。盗み聞きをするつもりはなかったのですが、取り込み中の様でしたので声を掛けるタイミングを見計らっておりました」
そういって姿を現したのはローブを見にまとった小柄な男。
ハルトはどこかでその男を見たことがある気がした。
男はフードをめくり顔を晒す。
すると見た目はかなり年老いているが、頭にはルナたちと同じような猫の耳が生えていた。
「キャトラン……?あなたはもしかして……」
「申し遅れました。私は商会を営んでおりますミケーネと申します。ブランドさんの古い顔なじみです。我が弟妹も昔ウロボロスに囚われ奴隷にされていた経緯がありまして、その時弟妹を救っていただいたのがブランドさんでした。それ以来、ウロボロス絡みではブランドさんとは常に協力関係にあった者です」
思い出した。
王都へ来る途中で馬車に居た小柄な商人だ。
ずっとフードを被っていたから初めて顔を見たけど、この人がブランドさんが言っていたキャトランの商人だったのか。
「あなたがミケーネさんでしたか。それで心配ないとはどういうことですか?」
「私は商売柄、この国の貴族の方々とはとても親しくさせていただいております。それゆえ、今回ブランドさんが動き出す前になじみの高位貴族の方達に王家の実情について赤裸々な話をさせていただきました。既に多くの貴族の方々は反王家派として協力関係にございます。腐敗しきった王家を処して国を救った英雄と持ち上げられることはあっても、罪人として処刑される心配はございませんよ」
ブランドさんはウィリアムさんがもし事実を知って暴走しても、守れるようにこんな布石まで打っていたのか。
ほんとに食えない爺さんだな。
ウィリアムは胡坐をかいたまま地面に両拳をつき、頭を下げると涙を流しながら礼を述べた。
「はは。俺はまだあんたに守られてたってことか……。ほんとにふがいねぇ。……感謝する」
「若者を守るのは大人の責務ですので」
「既に宰相閣下には話をつけてあります。明日にはウィリアムさんも牢から出られるはずですよ」
「ミケーネさん!恩に着るぜ!」
「いえいえ。私には表立って戦う力はありませんのでこのくらいの根回しはさせていただきますよ。それで……、あなたがハルト様ですね?」
「はい?」
「ブランドさんから話は伺っております。フォーレンシアへ向かいたいとのことで」
「はい。色々と事情がありまして……」
「存じております。詳しい話を詰めたいので場所を変えて相談させていただきたいと思うのですが。私の商会で運営する宿に部屋を用意しますので、お越しいただけますか?」
「ええ。伺わせていただきます。その前に、仲間を迎えに行きたいんですが、いいですか?」
「もちろん構いませんよ。宿の場所はブランドさんがご存じですので一緒にいらしてください。それでは私は先に戻って部屋の手配を済ませておりますので失礼します」
そう言ってミケーネは地下牢から出て行った。
「では俺たちもいこうか」
先ほどまでは話が難しかったのか、うつらうつら船をこいでいたルシアだったが、ハルトの呼びかけに応じてコクリと頷いた。
「ハルトさん。カイに伝言を残してくれたおかげで俺はこの国の実情を知ることが出来た。ありがとう。でもどうして王城が危険だと分かったんだ?」
「いえいえ。あの時は偶然そう思っただけですよ」
「どういうことですか?」
「まずはマルバスの存在。彼ほどの魔族が賊に常に加担していたならもっと被害は大きくなっていただろうなと。でも彼は敵対したときにこちらに一切の殺意を向けて来ませんでした。それなのにプルフラさんに囚われていた仲間は平気で殺していました。なので彼は何らかの理由があって賊に潜入していたのかなと」
「なるほど」
「そしてブランドさんです。ブランドさんはウィリアムさんが認めるほどの強者。にもかかわらず、ブレードウルフの群れと相対した際は力を抑えて俺たちの力を見極めようとしていました。そして騎士団に強引に連れて行き街を歩かせたのも、今思えばキャトランであるルナ達の姿をウロボロスの連中に見せつけるためですよね」
「…………」
「宿にブランドさんから紹介されたミケーネ商会の振りをした賊が現れたことも疑いを深める要因になりました。わざと情報を漏らし自分を疑わせるように仕向けて、ことが全て終わった後で怒りの矛先を自分へ向けて、俺に殺される覚悟だったのでしょう。俺らを巻き込んだのは、恐らく賊に囚われたとしても自力で脱出するか、賊を殲滅できそうな力量を持っていると判断してですよね」
「…………」
「となると、潜入している魔族の男の目的と次の行動が気になります。ルシアに魔力を探知できる特殊な能力で探ってもらっても見つけ出すことが出来ませんでした。これは特殊な魔道具の効果範囲にいなければあり得ません。最初はウロボロスの連中が使っていた魔力阻害の魔道具の効果範囲に潜んでいるものかと思っていたのですが。ブランドさんが俺たちをウロボロスに対する当て馬に使い、ウロボロスの殲滅を試みるとしたら魔族の男はアジトにはいないはず。そう思ったとき、この王都にはもう1か所完全に魔力を遮断できそうな場所があることを思い出しました」
「完全に魔力を遮断……。あっ!」
「そう、王城です。魔力を登録した者しか入れないなんて、そうとしか思えません。このときマルバスの目的は分かりませんでしたが。王城でも何かが起こると思ったので、カイさんに念のためにマルバスがいる可能性が高い王城に向かうように伝えました」
「……お見事です。全て見抜かれていたとは」
「たまたまですよ。マルバスの目的がウロボロスの殲滅だとしたら、一人でどうとでも出来ると思うと、他に目的があるとしか思えなくて。となると狙いは別にあるのかな?と思ったまでですよ。……それでは、ミケーネさんをあまり待たせるわけにもいきませんし、俺らはそろそろ行きますね」
「ええ。色々とありがとうございました!」
カイは深く頭を下げてハルト達を見送ってくれた。




