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虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~  作者: すなる
1章 第二部 王都ベルセリア編

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64話 救出劇5

ハルト達が奥の部屋にたどり着くと、ブランドが血まみれのリヒターの胸倉をつかみ上げているところだった。

部屋の奥にはボロを纏い手と足に枷を付けられ意識がもうろうとした様子のルナたち。

そして床に座り込み狼狽えるボーゼスの姿が目に飛び込んできた。


「ルナ!ユキ!リン!無事か!!」


ハルトは全身の力を開放し、瞬時に3人の元へ向かい抱きしめた。


「ご……しゅじん……さま?」


「ルナ……」


ハルトはまだもうろうとした意識のルナの頭を抱き寄せ、ギュっと抱きしめた。


「みんな遅くなってごめん……」


「だい……じょうぶ……です。しんじて……ました……から」


「ユキ……」


「ごしゅじん……さま……くるしい」


「ご、ごめんよリン。もうしばらくこうさせてくれ……」


「はい……」


ルシアとプルフラは暖かく4人の様子を見守っていた。

そんな4人の再開をよそ目に、ブランドが1歩ずつボーゼスに歩み寄っていた。


「ひぃぃぃぃ!くるな!来るんじゃない!!」


「見苦しいですね。あなたはそう言った人たちの言葉をこれまでに聞きいれたことはあるのですか?」


「う、うるさい!!私は特別なんだ!!ど、奴隷と一緒にするんじゃない!」


「ここまで腐っていると殺すのもばからしく思えてきますから不思議なものですね」


「だ、だったら見逃しても―――ぎゃああああああ!!」


ボーゼスが見逃してもらおうとして、前に出て頭を下げようとしたとき、ブランドの剣が襲い掛かり、ボーゼスの両手が根本から切り飛ばされた。


「楽に死ねると思わないことです。これまで犯してきた罪を後悔しながら死んでいきなさい」


冷静になり落ち着きを取り戻したハルトは振り返って、ボーゼスを痛めつけるブランドへと目をやった。

そんなブランドを見るハルトの目には怒りが籠っていた。


「ブランドさん。ルナたちを囮に使ったのはあなたですか……?」


「えっ!?ハルト様一体何を!?」


プルフラが二人の顔をキョロキョロと見ながら動揺しつつ聞き返した。


「……」


「沈黙はイエスと捉えますが……?」


「彼女たちには申し訳ないことをしたと思っています」


「ふざけるな?そんな謝罪で許されると思ってるのか?」


「……いえ」


「一体何の目的があってこんなことをしたんだ」


「私の復讐のためです」


「お前の復讐とルナたちに何の関係があるんだ?」


「この組織。ウロボロスのボスの名はヴェルナーという男でしてね。私の大切な物を奪った男の一人です」


「……」


「私が騎士団で長期遠征に出ているときに、私の妻はこの国の前王に売られたんです。腹違いの義兄であるヴェルナーに騙されてね。王は一時の快楽のために、ヴェルナーは僅かばかりの金銭のために私の妻を陥れ辱めたのですよ。そして最悪なことに妻はその時に前王の子を身ごもってしまったのです。妻はそのことを悔み自ら命を絶ちました。もう30年以上昔の話です。私はどうしても妻を陥れ辱め死に追いやった二人のことが許せなかった!!だから復讐を決意したのです!!」


「……。どうして30年も……」


「2人の大切な物を奪うためですよ。私がされたようにね」


「前王……ということは王城に?まさか!マルバスと通じて……?」


「ええ、お察しの通り彼は今王城にいます。彼は利害が一致したので私と協力関係にあったので私が王城へ引き入れる手助けをいたしましたから。今頃王城にて前王の血縁である、現王と王子たちを暗殺している頃でしょうか?」


「くそっ!!お前は復讐のために自らが勤めていた国まで落とすつもりなのか!?」


「私にはそんなつもりはありませんよ。ただ大切な者を失う絶望を2人にも知ってもらいたいだけですから」


「ヴェルナーの家族は……?」


「もう彼の血縁のものはこの世にいませんよ。彼には愛する妻子などはおりませんから。ですが彼が愛して止まない物を私は知っていますのでそれを奪わせてもらいました」


「金か……?」


「ふっ。欲と力ですよ。彼は自分の欲のために手段を択ばず、力で全てを解決しようとする男です。自分の手は決して汚さずにね。彼は用心深いですからね。ですが、長年調べ上げて彼は前王との取引があるときは必ず王都に居ることを知りました。そして……前王がキャトランにご執心だということもね」


「貴様!!そんなことに利用するために魔族まで手引きしてルナたちを攫わせたのか!!あんたがしたことはヴェルナーがあんたの奥さんにしたことと同じじゃないか!!」


「……ヴェルナーをおびき出すためには、こうするしかなかったんです」


「ふざけるな!!自らの復讐のために罪のない人まで巻き込むなんて許されると思っているのか!?」


「私は許されようなどとは思っていません。私は目的を果たしましたし、もう悔いはありません。私を殺たければ殺しなさい。あなたにはその資格があります。私がそうしたように……」


ブランドは右手に持っていた剣を手放し床に落とされた剣は「カラン」と音を立てた。

そしてハルトの剣を受け入れるかのように両手を広げ目を閉じた。


「いいだろう……。望みどおりに今ここで殺してやる……」


ハルトは怒りに身を任せてブランドへの殺意を高めて刀を抜こうとした。

ブランドを憎む気持ちと殺意が溢れ、増大し、制御を失った負の感情は無意識に創造神の加護の力を発動し、ブランドへ向けようとしていた。

そんなハルトの体からは可視化されるほどの黒いオーラが立ち上り、その異質な光景は見ている者に恐怖を抱かせるほどだった。

このまま放っておくと良からぬことが起こると周囲で見ていた者たちは確信しながらも、傍に立つプルフラとルシアでさえ、ハルトから発せられるオーラに気圧され、体が言うことを聞かず、ただただ見つめることしか出来なくなってしまっていた。


しかし、怒りに身を任せて人を殺そうとするハルトを見て、たったひとり必死で止めようとあがく者もいた。

未だに朦朧とする意識の中でルナは必死に体を動かし、ハルトの手を握り刀を抜くのを制止した。


「ルナ……?何故止めるんだ?こいつのせいで君たちはこんな目に……!」


「わたしは……大丈夫だから……。まだ……何もされてないから」


「でも!!」


「だめ……。ごしゅじんさまには……そんなかお……してほしくない……」


ルナの必死な呼びかけによって、わずかに冷静さを取り戻したハルトは怒りと憎しみに囚われ闇に飲まれそうになっている自分の姿に気が付いた。


「これはいったい……!」


体から立ち上る黒いオーラを見て動揺するハルト。


そんなとき再び謎の声が聞こえてきた。


『あー、あー!君、闇に落ちかけてるねっ!止め方をおしえてあげよーか?』


「その声は今朝の!?」


『僕の名前はグライストフだよ。覚えておいてねー』


「名前なんていまはどうでもいい!止め方を知ってるのか!?」


『どうでもいいなんてひどいなぁ~』


「いいから教えてくれ!」


『しょうがないなー。負の感情に染まったまま神の加護を行使しようとすると堕天しちゃうんだよ』


「堕天……?」


『うん。神の加護をひっくり返して、悪神の加護を持った存在も反転しちゃうことだね』


「よくわからないが、止める方法はないのか!?」


『あるよー?』


「もったいぶってないで教えてくれ!」


『止める方法はねー。愛だよ?』


「愛?それってどうゆう……」


『怒りや憎しみ、恨み、妬みといった負の感情の対極に位置する感情、愛や慈悲の心さ。心が愛に満たされればもとに戻るはずだよ~』


「そんなこと急に言われてもいったいどうやっ―――――んっ!?」


ハルトが困惑していると、ルナが必死に立ち上がってハルトに身を寄せながら唇に口づけを交わした。


「もとの……ごしゅじん……さまにもどって……ください」


ルナは微笑みながらそういうと、ハルトの首に両手を回し再びハルトの口に口づけを交わした。

ハルトも今度はルナの口づけを受け入れ、そっとルナの背中に手を回すと、ルナの体を支えるように優しく抱きしめた。

するとハルトの体から出ていた黒いオーラは次第に収まっていき、ついに完全に消え去っていった。

黒いオーラが完全に消失したのを確認し、ルナはハルトの顔を見ながら微笑んだ。


「よかった……」


ルナは目に涙を浮かべながらハルトに抱き着いた。

ハルトもルナをギュっと抱きしめ返す。


「ありがとう……ルナ……。本当に君には助けられてばかりだ……」


「ふふ……。やっとわたしも……ごしゅじんさまの……やくに……たて……た……」


そこまで告げると、限界を迎えたようで、ルナは意識を失ってしまった。

ルナを優しく抱きかかえるとハルトはそっと床に寝かせた。

例の魔道具の効果で意識を保って起きているのも限界だったところで無理をしたからだろう。



ルナのおかげで元に戻ることが出来たハルトは冷静さを取り戻し、ブランドと向かい合った。


「俺はお前を殺さない。自分の犯した罪を自白し、これから一生をかけて償うために生き続けろ」


「……」


「結局、ヴェルナーというやつはどうなったんだ……?」


「奴には精神を侵す薬を盛りました。もう自分でまともに考えることもできない生きる屍。治す手段はありません」


「そうか……。」


「マルバスは王城に居るのか?」


「おそらくもう居ないでしょう」


「ルシア」


ハルトの呼びかけに応じ、ルシアは小さく頷くと魔眼でマスバスの位置を探った。


「魔族の反応はもうこの街にはないみたい」


「……わかった」




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