46話 乗合馬車
翌日。
ハルトは、ルナの豊穣の力があれば商店の方は問題なさそうなのでルナをアルレンセスへ残し、ルシア、シン、ヒナタ、プルフラとフォーレンシアへ向かおうという話をした。
当然今まで付いてきていたルナは猛反発。
絶対に連れて行って欲しい、おいていかないでくれと猛抗議された。
仕方がないので一度リーザスの街に向かい、冒険者ギルドでフォーレンシアへの行き方を確認する。という体で一旦プルフラを連れだすことにした。
ギルドにルナとルシア、プルフラを置いて情報収集を任せつつ、ハルトは一度アルレンセスへ戻った。
サタナキア達にも加護の力のことは詳しく話していないので、プルフラの前で創造神の加護の能力を使用するのに抵抗があったからだ。
まず他の者に豊穣の力を付与できないか試してみた。
『選択された力は権限レベルを超えているので付与できません』
初めて聞く加護の回答が返ってきた。
権限のレベル?
豊穣の力は創造神の加護よりもすごい力なのか?
考えても権限については今は分からないので、次に転移魔法の付与を試してみた。
ハルトはアモンの転移魔法を思い出しながら、周囲へスキルの付与を思い浮かべる。
『対象群への転移スキルの付与。成功しました』
よし、獲得できたようだ。
確認してみると獲得できたのはリンだけらしい。
まず転移魔法を使えるようになったリンにあちらの世界と行き来可能か試してもらったが世界を超えて転移するのは不可能だった。
やはり世界を渡るには異世界の扉の様な、特殊なスキルが必要らしい。
更に天痛眼の付与を試みた。
しかし、この能力も先ほど同様の加護の声が聞こえ、付与は出来なかった。
どうやら唯一無二のスキルは加護の力でも付与できないらしい。
最後のもう一つ、気になっていた付与を試みた。
『対象群への結界スキルの付与。成功しました』
よし!イリュージョナルスフィアの説明を聞いているときに結界という言葉を聞いて、もしやと思っていたが、成功だ。
結界はユキが身に着けたらしい。
ユキに結界を試してもらうと、一定範囲に透明な壁のようなものを発生させた。
叩いてみるととても硬質で、試しにシンやルシアに攻撃してもらったがびくともしない。
結界はユキ自身の意思で出したり消したり、自分が認めた対象のみの出入りを許可したし、ある程度範囲や大きさを変更できるらしく、とても有能な能力のようだ。
ただ、100mほどの規模まで広げると一気に疲労感を感じたらしくユキは息を切らして地面へ座り込んでしまった。
一定以上の大きさを維持しようとするとかなりの魔力を消耗するらしい。
店の大きさくらいなら1日程度ならおそらく問題ないとのこと。
これで商店の方はユキに任せたら夜間は結界の力を使えば店の防犯は完璧になりそうだ
リンは転移魔法を習得できたのでフォーレンシアへ向かうメンバーへ。
そして代わりにシンを店の運営兼護衛に。
ヒナタはセバスと共にアルレンセスの管理に就いてもらうことにした。
メンバーもそろったのでユキを連れてルナ達がいる冒険者ギルドへと向かった。
ハルト達が戻ると丁度ルナ達がベンゼル、ケビン、マーレと話しているところだった。
そしてルナからフォーレンシアへ向かいたいという話を聞いていた3人は困った顔をしていた。
「なんでまたあんなところへ……。まぁどうしても行きたいってんなら止めはしねぇけどよ」
「うーん、お勧めは出来ませんね」
「危険。やめた方がいいとおもう」
詳しい話を聞くとフォーレンシアの周囲を囲む樹海は近年強力な魔物が多く出現していて、幾人もの行商や冒険者たちが消息不明になっているという話だった。
強力な魔物が現れる前から鬱蒼としたその樹海は踏み入れたら戻ることが難しいとされ、不帰の森という名で呼ばれているらしい。
王都なら不帰の森に付いての詳しい話を聞けるかも知れないということ。
そして王都で活動しているエラルドなら不帰の森に行ったことがあるかもしれないと聞いたので、情報を集めるために一度王都ベルセリアに向かうこととなった。
予定が狂ったので一度アルレンセスへ戻り、王都へ向かうメンバーを選ぶことになった。
転移魔法は一度でも訪れた場所ならいつでも転移可能とのことなので転移魔法が使えるリンはもちろん必須。
そして万が一の襲撃に備えて結界を使えるユキにも同行してもらうことに。
あとは当然のようにハルトから離れようとしないルナとルシア。
そして今回はサタナキアから命を受けて同行しているプルフラ。
同行者も決まったので一行はベルセリアへは乗り合い馬車が出ていると聞いたので早速馬車乗り場へ向かった。
馬車を待っていると商人らしき人の姿が数名集まってきた。
王都へ戻る者と王都へ買い付けに行く者達だそうだ。
国営の乗り合い馬車には王都の騎士団メンバーが必ず4名以上護衛に付いているので、自力で移動できない者達はある程度高額になるが国営の乗り合い馬車を使うものが多いそうだ。
冒険者のような戦える者は割高な国営馬車を使うことはあまりないそうだ。
ハルト達は王都への道を知らないので今回は多少割高になっても国営の乗り合い馬車を使うことにした。
馬車の準備が出来たようなので身分証を各自見せ一人白金貨1枚と金貨を5枚徴収された。
プルフラは以前この街に来たときにギルドカードを作っていたらしい。
なるほど。
確かにかなりの高額だ。
馬車を利用するのが裕福そうな見た目の者しかいないのはそういうわけか。
商店組が頑張って稼いでいてくれていたおかげで助かった~。
こうしてハルト達は王都ベルセリアへ向かって進み始めた。
馬車に揺られながら隣に乗っていた商人にハルトは話しかけた。
「この馬車はどれくらいで王都へ着くんですか?」
「おや、貴方はこの馬車を利用するのは初めてですか。大体丸2日程度ですね。途中魔物の襲撃が多い場合はもう少し遅くなることもありますが」
丸2日か……。
王都ベルセリアって結構遠いんだな。
「あなたは何をしに王都へ?」
「えーっと、商売の為ですかね……」
言い訳が思いつかなかったハルトは苦しい言い訳をした。
「わかります。私も例の店が出来て売り上げが低迷しそうなので新たな商品を仕入れる為に王都へ向かうところなんです」
「例の店?」
「幻想郷アルレンセスですよ。何でも秘境にあるキャトランの里の商品を取り扱っているだとかで……。この辺りでは見ない商品ばかりですし。しかも名工ロンドと薬師レイラまで取り込んでいるらしいですよ……。そのうえ店主は領主様ともかなり懇意な関係だそうで……」
ははは……。
あの二人そんなに有名人だったのか!
……知らなかった。
というか噂の広がり方って本当にすごいんだな。
商人のおじさんの話をそのまま聞いていると急に馬車が停止した。
御者が振り向てい声をかけてきた。
「皆さん馬車から出ないでください!魔物の襲撃です」
魔物か。
護衛の騎士が付いていることだし、任せるとするか。
護衛の騎士たちは2匹のキラーラビットを相手にしていた。
しかし1匹を仕留めると、もう1匹が馬車の裏に回り込んでいった。
見かねたルナが馬車から飛び出して行った。
「あっ。ルナ!……まぁいいか」
「ちょっと!ハルトさん!お連れさんが出ていきましたけど大丈夫ですか!?」
「あー、あの子はキャトランなのでキラーラビットくらいは問題ないですよ」
慌てて騎士たちが馬車の裏に向かうと、既にそこにはルナに仕留められたキラーラビットの姿があった。
「あ、ありがとうございます。皆さん大丈夫ですか?」
騎士達は驚いた様子で礼を口にした。
しかし商人の一人が大きな声をあげた。
「大丈夫なものか!高い金を払ってるのに危険に晒してくれるとは!私を誰だと思っているんだ!?」
隣の商人に話を聞くとその男は王都で商店を経営しているボーゼスという豪商だそうだ。
横にある荷物には幻想郷アルレンセスで購入していた作物がはいっているとのこと。
なるほど。目新しい物は逃さず持ち帰り転売つもりか、抜け目ないな。
王都の豪商とコネでも作れればアルレンセスの利益拡大につながりそうだけど。
この人はちょっと生理的に受け付けないなぁ……。
騎士達は嫌な顔をしつつも詫びを入れると警護に戻り、馬車は再び進み始めた。
そのまま魔物の襲来も無く進むとあたりが暗くなってきた。
辺りを見渡しやすい小丘の上を陣取り野営を敷くこととなった。
御者達で火をおこし、簡単な夕食を準備してくれたので皆は食事をとる。
騎士達も交代で警備しながら食事をとっていた。
そんな中で騎士の一人がルナに先ほどの礼を兼ねて声をかけてきた。
「私は王国騎士団のカイと申します。先ほどキラーラビットを一撃で仕留めたようでしたが、それほどの実力がありながら何故わざわざ乗合馬車に……?こう言ってはあれですがかなり高額だと思うのですが」
ハルトがカイの質問に返事をした。
「我々は王都へ向かうのは初めてでして、道も分からないので今回はこの馬車を利用させてもらっています」
「なるほど、そういうことでしたか」
「敵が多い場合は俺らも警護に参加しましょうか?」
「いえ、それにはおよびません。昼間は不手際がありましたが、ここからは徹底して皆様を警護してみせますので安心してください」
「ではお任せしますね」
騎士って聞くと貴族出身で地位や権力で平民を見下すようなものかと思っていたけど、結構いい人達なんだな。
食事も済み、皆は寝る準備を始めた。
ハルトは寝ころびながらこの世界に来たばかりの頃を思い出していた。
あの時もこうやって夜空を見ながら寝転がってたなぁ。
もう野宿はするまいって思ってたけど、こっちの世界で長距離の移動となるとそうもいかないか。
加護の力を使えば家を出すこともできるけど、流石に知らない人の前で使うわけにもいかないしな。
ハルトに引っ付いてすやすや眠るルナとユキ、そしてその隣で抱き合って眠るルシアとリンを眺めながら感慨にふけり、ハルトも眠りに付いた。




