33話 お楽しみ
こうしてが日が落ちる前に再びアルレンセスに戻ってくることができた。
はじめてくるルッツの仲間達とレイラ、メイドたちは案の定驚いていた。
いつも騒がしいミリルもいつになく静かになり、純粋に目の前の光景をみて驚いていた。
「ほんとにこんな世界があるなんて……」
セバス達のいる屋敷に皆を案内し、互いに紹介を済ませ、セバスにライラ達を厨房へ案内してもらう。
厨房や用意した調理器具類を確認してもらったが、特に問題はないとのこと。
ただ、薪の竈は手間もかかる上に火力の調整が難しいので、可能であれば魔導コンロが欲しいと言われた。
魔石を使って火力を調節できるコンロらしい。
ガスコンロの魔石版ってところみたいだ。
現物を見たことがないので次回街に赴いた際に購入するか、領主亭で実物を見せてもらい加護の力で創り出すことにした。
その後、皆が集まっている食堂に向かうと
ミリルやローガンがしつこく洞窟の中でのことを聞いてくるので、ルッツと説明していると早速ライラ達が作った料理が食堂へ運ばれてきた。
この街の野菜とあちらで仕入れた肉や魚を使っているが、ハルトやロンドが作っていた料理とは比べ物にならない食事が続々と運ばれテーブルに並んでいった。
食事が出そろうと、ライラ達が今度はテーブルに用意されたグラスへお酒を注いで回っていた。
「よし、グラスはいきわたったかな?それじゃライラ達も座ってくれる?」
「我々はご主人様たちの食後に――」
「いいから、君たちももう家族みたいなものなんだ。全員で一緒に食事をしよう」
「……かしこまりました」
こうして全員で席に着き。早速食事を頂くことにした。
まずハルトが料理に手を付ける。それを見て皆も料理を口に運んだ。
「………………!」
『うまい!!!!』
全員口をそろえて叫んだ。
「こんなうまい料理リーザスの街でも食ったことが無いぞ!!」
ルッツが料理にがっついている。
「俺やだんなが作ったものとまるで違うな……。同じ食材を使っているとはとても思えねぇな……」
ロンドは感心しながら食べていた。
みなも楽しそうに食事をとっている。
元猫達もこんなおいしいものを食べるのは当然生まれて初めてなので感動している。
いつも肉の取り合いをして騒がしいルナとレナとヒナタも黙々と料理を食べて今日はとても静かだった。
食事が済むと外はもう薄暗くなっていた。
「今日はもう遅いから皆ここに泊っていったらどうだ?」
「いいんですか?」
「ああ、この屋敷は無駄に大きく作りすぎたんで部屋がかなり余ってるんだ。セバスに聞いて空いてる部屋を案内してもらってくれ。部屋は好きに使ってくれて構わないよ」
「食事もまぁまぁだったし、なかなか気が利くじゃないの?」
ミリルはしっかりと食事を完食していつものツンデレを発揮していた。
「ごしゅじんさまぁー♪のんれますかー?」
「ガハハハ!嬢ちゃん!また飲み比べだ!」
エレンとローガンはお酒が入りまた騒がしいことになっていた。
結局優雅な食卓……には程遠い宴会になってしまったが、やはり気心知れた仲間たちとたまにこういう賑やかなのは悪くなかった。
楽しい雰囲気を眺めながらハルトは微笑んだ。
この街をもっと大きくして、皆がこうして楽しく過ごせる街にしていけたらいいな。
静かにハルトはそう誓った。
暫くして子猫達の食事争奪戦も落ち着き。
エレン、ローガン、ルナの酔っ払い3人衆も落ち着いてきたので、セバスとユキに皆を部屋へと案内してもらった。
ハルトは酔いつぶれたルナを抱えてルシアと家に戻った。
「うーん。ごしゅじんさまぁー♪」
背中で気持ちよさそうな顔で寝言をいうルナを見て微笑ましく思った。
家に着き、ルナをベッドに寝かせ、あとはルシアに任せハルトは自室に戻った。
そしてベッドに寝ころび今日の出来事を思い返していた。
マナリス……か。
肉を求めて行ったはずの異世界でとんでもないことに巻き込まれちゃったなぁ。
でもあの世界に行ったおかげで食に関しては概ね解決できたし、沢山の仲間たちも増えたし良かったのかな?
あっちにいる頃は騒がしいのが苦手で、人と関わるもの嫌になって避けてたけど。
信頼のおける人達とこうやって賑やかに過ごせるのは楽しいな。
きっかけはルナが俺の呼びかけに応じてこの世界へきてくれたところからな。
あれがなければ異世界への扉なんて作り出せるイメージすら浮かばなかっただろうし、今でも一人でこの世界で暮らしていたのかな……。
この楽しさを知ってしまったら、もう一人には戻りたくないと思ってしまうな。
ふふ。本当にきっかけをくれたルナに感謝だな。
そんなことを考えているとハルトの部屋のドアがキィーと音を立てて開いた。
もう暗くなっているので誰が入ってきたのかは、はっきりとは見えなかった。
「ルナか?今日はもう遅いし、自分の部屋で寝てくれよ~」
ハルトがそういった直後、ベッドに何者かが腰を下ろし沈む感覚がしたあと、耳元で囁き声が聞こえた。
「ルナちゃんじゃなくて残念♪私でしたっ♪」
その声に驚き、ハルトは起き上がろうとしたが、手でポンッと胸を押し返されベッドに寝かされてしまった。
そしてすぐさまベッドに寝ころぶハルトの上に声の主がまたがってきた。
「な、ナターシャ!?何でここに!?屋敷に留まっているはずじゃ……!?」
そこには妖艶な下着姿のナターシャが居た。
「うふふ、私のこと忘れてない?私はサキュバス。男性を快楽に落とすことを得意としているのよ♪」
そういいながらハルトの首筋を優しくなでていく。
ゾクゾクッとハルトの体をくすぐったさとは違った感覚が駆け巡った。
「お、俺はそんなの頼んでないぞ!?」
「私はあなたに……命も、立場までも救ってもらい、さらには生きる道さえも与えて貰ったわ。今の私にはこんなことでしかお礼ができないけど、何か……かえさせてほしいの……」
ナターシャはハルトの上にも倒れ込み、耳元で続けて囁いた。
「あたしは貴方になら……全てを……♪」
ナターシャがハルトの服の中に手を忍ばせようとしたとき、再び部屋のドアが激しく開き、直後叫び声が聞こえた。
「あーーーーー!!!!!ごしゅじんさまの部屋で変な気配を感じるかりゃきれみればぁぁ!」
まだ酔いが残っているのか若干ろれつが回っていないが、ルナはナターシャの気配を感じてハルトの元に駆け付けたようだ。
「あら、いいとことだったのに……残念♪……今日はお嬢ちゃんに譲るわ」
ナターシャはハルトの耳元でそう囁き、頬にキスをして立ち上がった。
「あなたが望むならいつでも応えてあげるからね♪」
「あーー!ご主人様に!!キスした!」
ルナは慌ててハルトの上に飛びつきしがみついた。
「ご主人様は私のです!」
ハルトの上で四つん這いになりながら尻尾を立ててナターシャを威嚇している。
「ふふふっ♪わかったわよ♪今日はもう帰るわね♪ルナちゃん。ご主人様をあたしの代わりに楽しませてあげてね♪」
ナターシャは手を翻しながらそう言い残すと部屋を去って行った。
「たのしませる?」
ルナはナターシャの言っている意味がよくわからなかったようだ。
「い、いいから部屋に戻ってもう寝なさい」
「やだ!あの女の匂いがする!私の匂いで上書きしないと!今日は絶対ここで寝ます!!私がご主人様を楽しませます!何をしたら楽しいんですか?」
ルナが困った顔で聞いてきた。
「な、何もしなくていいからっ!ルナは傍に居てくれるだけで十分だよ」
そういいつつハルトはルナの頭を撫でた。
「ん~♪」
ルナは安心したようで、満足げな顔をしてそのまますぐに眠ってしまった。
かなり飲んでいたみたいだしな。
よくナターシャの気配に気が付いて起きてきたな……。
まぁルナが来てくれて助かったけど……。
もしもあのままルナがこなかったら今頃は……。
はぁ……ルナだけでも困りものなのに、サキュバスか……。
悪い人じゃないんだけど、厄介な仲間が出来ちゃったなぁ。
俺は女性関係の経験が少ないからルナだけでも手一杯だというのに……。
ハルトの気苦労がまた一つ増えたのであった。
※ ※ ※
ナターシャは夜這い未遂後、用意された自室へ戻ってきていた。
「はぁ……。もう少しだったのになぁ。ちょっと残念……」
……残念?
私はルナちゃんに邪魔をされて、残念と思ってる?
これまでも精気や魔力を補うためにいろんな男を落としてきたけど、それはあくまでもサキュバスの本能によるもの。
男を好意の対象として見たことなんて一度もなかったのに……。
力を吸う目的以外で私がこんな気持ちになるなんて……。
……ううん。
この気持ちはきっと勘違い……。
私はただ、救ってくれた恩を返したいと思っただけよ。
それにハルトにはルナちゃんがいるものね……。
ナターシャはハルトとルナの事を考えると胸がほんのわずかにズキッと痛むのを感じた。
…………。
「はぁ……」




